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2023.02.27 政策研究

水道インフラの諸問題

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広域化はゴールではない

 持続性が危ぶまれる水道事業に対し、国は広域化と官民連携という対策を打ち出す。一部の事業体では広域化やそのプロセスを通して、地域としての水道のあり方を模索しながら、未来に向けた議論や取組みが進みつつある。広域化はゴールではない。一般的には広域化による経営規模の拡張により経費は節減できるといわれる。⼤⼝の発注などでコスト削減は可能であるが、⽔道は設備産業であるため⼀定の材料費、施⼯費(労務費)、維持管理費はかかり続ける。それが水道料金に直結する。さらに、水道を供給する⾯積が広いほど、広⼤な面積を管理しなくてはいけなくなるし、極端に人口減少が進む地域では⽔道の維持が難しくなるなどの課題がある。
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出典:筆者作成
図 水道料金の決まり方

 まず、原価の部分の縮小を図るダウンサイジングが必要になる。水使用量の減少から全国の水道事業の施設利用率(稼働率)の平均は約6割。減価償却費及び施設維持管理費等の費用がほぼ100%発生しているにもかかわらず、全く利益を生まない資産が4割ある。これを段階的に減らしていく。
 ダウンサイジングの事例として岩手中部水道企業団を紹介する。岩手県北上市、花巻市、紫波町は、それぞれ別に水道事業を行っていた。ここには用水供給の岩手中部広域水道企業団(旧企業団)もあり、四つの水道事業体が存在していた。
 ここには三つの課題があった。一つ目は人口減少の加速。3市町の給水人口は大幅に減少し、それに伴い料金収入が減少していく。二つ目は老朽管の更新率の低さ。1950年代半ばから60年代半ばに整備された総延長276キロの水道管は、ほとんど更新されていなかった。必要な工事を行うと事業費が数倍になる年度が長期間続く。それは水道料金の大幅な値上げにつながる。三つ目は水不足と水余り。紫波町は水源に乏しく慢性的な水不足に悩まされている一方で、同地の用水供給事業の岩手中部広域水道企業団(旧企業団)の浄水場の稼働率は50%程度だった。
 水道料金は、単独で事業を続けた場合、紫波町では1,000リットル当たり200円から360円に上昇。1世帯の1か月の平均的な使用量とされる20立法メートルで比較すると、月額4,000円から7,200円に上がる。一方、広域統合すると1,000リットル当たりの料金は2038年まで230円。このデータを見た3市町の議会は全会一致で広域化に賛成し、2014年、岩手中部水道企業団が動き出した。
 岩手中部水道企業団では実際に統合してからの8年間で着々と12の浄水場と水源を廃止休止し、老朽化した基幹的浄水場を二つ更新した。浄水場の廃止休止の結果、浄水場分のみの積み上げだけでも、現時点で約42億円程度の更新事業費が削減できたと見込まれる。

橋本淳司 東京財団政策研究所研究主幹/「未来の水ビジョンプログラム」

この記事の著者

橋本淳司 東京財団政策研究所研究主幹/「未来の水ビジョンプログラム」

水ジャーナリスト。アクアスフィア・水教育研究所代表。武蔵野大学客員教授、東京財団政策研究所「未来の水ビジョン」プログラム研究主幹。NPO法人地域水道支援センター理事。水問題についてメディアで発信。「Yahoo!ニュース個人オーサーアワード2019」、「東洋経済オンライン2021 ニューウェーブ賞」など受賞。また、学校での探究的・協働的な学び、自治体、企業の水に関する普及啓発活動をサポート。主な著書に『水辺のワンダー 世界を旅して未来を考えた』『100年後の水を守る〜水ジャーナリストの20年』(文研出版)、『水道民営化で水はどう変わるか』(岩波書店)、『日本の地下水が危ない』(幻冬舎)など。

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