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2022.12.26 議員活動

第5回 剣太損害賠償請求訴訟(大分地裁)──最初の闘い・地裁判決の法的位置付け

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4 被告側の主張をピックアップして

 上記論点に関連して、被告(顧問)側から次のような主張・反論がなされている。
 こうした被告側の主張にさらされながら裁判を継続することが、原告遺族にとってどれだけ苦しく、何度も傷つけられることになるのか、遺族に思いを馳(は)せることができるのではないだろうか。裁判所は、被告側のこうした主張・反論をいずれも証拠に基づき却下しているが、それでも、剣太が話せないことをよいことに、死亡の原因を剣太に帰責させるかのような主張を繰り返しており、英士さんは、剣太は裁判で不本意にも2度も殺されたと語る。
(1)被告県側(県)の反論①
 被告行政側は、剣太が高校2年生であることから、体調が悪ければ自ら申し出て、休憩をとったり、練習を中止するなどの判断能力が備わっていたと考えられるのに、そのような行動をとらなかった過失があるとして、過失相殺の主張を行っている。しかし、これに対して裁判所は、次のように判示している。
 剣太は、練習中に自らの限界を感じ、「もう無理です」と練習の中止を求めていたのであって、顧問らは、この真摯な訴えを理解せず、意識障害の状況を看過した上で、練習を中止させなかったのであり、過失相殺の基礎となる過失があったと認めることはできない。
(2)被告県側(顧問)の反論②
 顧問は、一定の冷却措置をとっており、熱中症に対する処置としては十分であったと主張する。しかし、この点に関して裁判所は、次のように判示している。
 「ふらつく・転倒する」などの症状、意識朦朧(もうろう)等の少しでも意識障害が疑われる場合にとるべき第一の措置は、救急車の出動の要請であるとされており、冷却措置は、救急車到着までの待機時間における応急措置としての意味を持つにとどまるから、早急に救急車の出動を要請するなどして、剣太を早期に医療機関に搬送すべき義務を怠った過失が認められる以上、冷却措置をとったことをもって、顧問の過失が否定されるとはいえない。
(3)被告県側(顧問)の反論③
 顧問は、剣太の頬に平手打ちするなどしたことについて、気付けの趣旨であったと主張する。しかし、この点に関して裁判所は次のように判示している。
 このような行動は、熱中症を発症した者に対して行うべき適切な措置と認めることはできない。
(4)被告県側(顧問)の反論④
 顧問は、本件事故以前から、剣道部部員の保護者会や日頃の部活動の中で、塩分補給や水分補給について注意を促したり、積極的に長時間の休憩時間をとるようにしたり、自費で大型扇風機を購入して剣道場に設置するなどしていたと主張する。しかし、この点に関して裁判所は次のように判示している。
 実際にそのような事実があったことは認められるが、剣太は、実際に剣道部の練習中に熱射病を発症したのであり、被告顧問には、剣太が熱射病を発症した際に、直ちに練習を中止し、救急車の出動を要請するなどして医療機関へ搬送し、それまでの応急措置として適切な冷却措置をとるべき注意義務を怠ったという過失が認められる。被告顧問が、事前に種々の熱中症対策を実践していたとしても、その過失を免れることはできない。
(5)被告県側(顧問)の反論⑤
 被告県は、市立病院医師が適切な医療行為を行っていれば剣太を救命できたとして顧問の過失との因果関係がないと主張する。しかし、この点に関して裁判所は、次のように判示している。
 被告病院において医療水準に従った適切な治療が行われていれば高い確率で剣太を救命することができたとの事情が認められるとしても、剣太は、熱射病を発症することにより、そのまま放置されれば死亡するような状態になったものであるから、上記事情は、先行する被告顧問及び被告副顧問の各過失と結果との間に因果関係が認められることについて、影響を与えるものではない。仮に、医師について、被告大分県及び被告顧問が主張するような重過失があるといえたとしても、剣太は、被告顧問及び被告副顧問の過失によって熱射病を発症し、そのまま放置すれば死亡するような状態となり、数時間後に熱射病により死亡するに至ったのであるから、このような経過に照らすならば、被告顧問及び被告副顧問の過失は、医師の過失にかかわりなく、剣太の死亡という結果の発生に直接結びつくものということができる。したがって、医師に重過失があるといえたとしても、それによって、被告顧問及び被告副顧問の過失と剣太の死亡という結果の間の因果関係が否定されるものではない。

5 今回のまとめと次回への続き

 今回、判決を基に争点を検討したが、一緒に判決文を正確にたどってみると、この剣太事件を、単に熱中症・熱射病対応の不作為事案として紹介することが誤ったメッセージを伝えることになることが分かるのではないだろうか。剣太事件の根本は、裁判所も認定しているとおり顧問教員による剣太に対する稽古に名を借りた、逃れることのできないしごき強制と暴行行為にあるのである。
 具体的に原告と被告の双方の主張・立証の後の裁判所が行った事実認定及び当裁判所の判断を見てみると、そのことがよく分かる。
① 「午前10時25分から午後11時過ぎ頃まで」練習を行う中で、剣太の合否を「他の部員らに尋ね」て合格と判定した部員の「判定を撤回させ」、「剣道部にあった椅子を床に向かって投げた。さらに〔剣太〕の面の突き垂を上げ〔剣太〕の首付近を叩き」「〔剣太〕を押すなどした。」〔剣太〕一人に繰り返し打ち込み稽古をさせた。」
② 「〔剣太〕が、『もう無理です。』などと述べたのに対し、〔顧問〕が『お前の目標は何だ。』と問」うなどの逃れられない追い込みの言動を行った。
③ 「気温30度であったと考えられる本件事故日の午前11時過ぎ以降、休憩もなく約1時間にもわたって打ち込み稽古等の厳しい剣道の練習」を水分補給なしで強制した。
④ 「意識障害」状態下で、「〔顧問〕が、『演技するな。』などと言いながら、〔剣太〕の右横腹部分を前蹴りした。」。「〔剣太〕の頬を叩き」、さらに「壁に額を打ち付けて倒れ」「出血する傷を負」い、「倒れた〔剣太〕の上にまたがり、「〔副顧問〕先生、これは演技じゃけん、心配せんでいい」旨、「俺は何人も熱中症の生徒を見てきている」旨述べ、また「目を開けんか。」などと言いながら、10回程度、〔剣太〕の頬に平手打ちをした。」などの暴行・傷害行為がきちんと事実認定されているのである。
 こうした顧問教員が引き起こした支配・強制と暴行行為の結果としての熱射病なのである。懸命に稽古に取り組んだ剣太に一厘の非(過失)も認められる事案ではないのである。
 この支配・強制・暴行部分が判例・法律雑誌の要旨・要約に含まれずに、単なる熱中症・熱射病事案であるとして、その熱中症・熱射病の生徒に直面した教員の対応不備の点が強調されることは、後世に残すべきこの剣太事件判決の記録的価値の評価として正しくないのである。


(1) 裁判・司法制度とはそういうものではないとしたり顔で専門家解説をするのではなく、こうした遺族の思いを受け止めることができるように新たに裁判・司法制度を考えていく必要があるのではないか、そうでなければ裁判・司法制度への国民の信頼は失われる。
(2) 「事件記録等保存規程」(昭和39年最高裁判所規程8号)9条2項は、「記録又は事件書類で資料又は参考資料となるべきものは、保存期間満了の後も保存しなければならない」と規定する。具体的には、「事件記録等保存規程の運用について」(平成4年2月7日付け総三第8号高等裁判所長官、地方、家庭裁判所長あて事務総長通達)が定められており、この運用基準の第6-2(1)イ(法令の解釈運用上特に参考になる判断が示された事件)、及び、オ(全国的に社会の耳目を集めた事件又は当該地方における特殊な意義を有する事件で特に重要なもの)に該当していると思料する。
(3) 当該記録が廃棄処分されていたことが明らかになり、復元を求めていることについては、鈴木秀洋「【緊急特報】裁判記録は魂の記録である」議員NAVI(2022年12月1日)参照。
(4) 判例時報2197号89頁、裁判所ウェブサイト、医療判例解説50号2頁、D1-Law.com判例体系(判例ID28210972)。判例評釈として、夏井高人・判例地方自治371号(2013年)117~120頁、医療判例解説50号(2014年)2~9頁。
(5) 裁判所ホームページの裁判例検索より、「裁判年月日:平成25年3月21日」・「事件番号:平成22年(ワ)222号」・「裁判所名:大分地方裁判所」で検索すると、判決文を読むことができる(https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/377/083377_hanrei.pdf)。
(6) 民法715条(使用者等の責任)①「ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。」
(7) 民法709条(不法行為による損害賠償)「故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。」
(8) 頭部、片側腋窩(えきか)及び両側鼠径部(そけいぶ)での冷却措置。
(9) 最判昭和30年4月19日民集9巻5号534頁及び最判昭和53年10月20日民集32巻7号1367頁。
(10) 鈴木秀洋『自治体職員のための行政救済実務ハンドブック〈改訂版〉』(第一法規、2021年)242頁以下、同「国家賠償法における個人責任再考─国家賠償法1条の公務員の対外責任に関して」ガバナンス研究(明治大学公共政策大学院ガバナンス研究科紀要)7号(2010年)。

 


 

鈴木秀洋(日本大学危機管理学部教授)

この記事の著者

鈴木秀洋(日本大学危機管理学部教授)

日本大学大学院危機管理学研究科教授兼日本大学危機管理学部教授。元文京区子ども家庭支援センター所長、男女協働課長、危機管理課長、総務課課長補佐、特別区法務部等歴任。都道府県、市区町村での審議会委員多数。法務博士(専門職)。保育士。著書に『自治体職員のための行政救済実務ハンドブック 改訂版』(第一法規、2021年)、『行政法の羅針盤』(成文堂、2020年)、『子を、親を、児童虐待から救う』(公職研、2019年)、『虐待・ⅮⅤ・性差別・災害等から市民を守る社会的弱者にしない自治体法務』(第一法規、2021年)等。

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