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2022.08.22 議員活動

第3回 学校・行政対応のまずさ(1)─危機管理学・行政法学・被害者学の視点から

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1 裁判に追い込む行政対応(被害者に寄り添う意識のなさ)

 剣太事件の特徴・問題点は、この事件のその後の対応をたどってみると一層明らかとなる。
 危機管理学の視点からすれば、批判されるべきは、その後の学校と行政側対応に顕著に表れている。教員、学校、行政、どのレベルの担当者も、被害者側からの視点で事案に向き合った形跡がない。被害者側の気持ちをくんだ対応がなされていない。まるで不作為(自己保身・組織防衛)が「慣性の法則」によって、貫かれているかのようである。事件後に、組織(体制)に、問題提起や改善の動きが見られない。
 遺族から求められた最低限の事実照会等でさえも、学校・行政側から被害者側に事実の詳細説明等がなされた痕跡がない。被害感情に寄り添った言動や謝罪は一切ない。一人の命が失われたことに関して、学校・行政組織が被害者側の立ち位置から景色を見ようとする人が、なぜ一人も生まれないのだろうか。
 このように、被害者側に説明も回答もしない、そうした向き合いのない対応をされれば、被害者からすれば、裁判しか、事実を明らかにして、亡き子どもに報告する選択肢はなくなる。
 裁判を提起するのは、その土地、地域によっては、相当の覚悟が強いられるものである。圧力やいわれのない批判・非難は必ず生じる(1)。親戚からの反対、近所地域からの嘲笑や嫌がらせなどは、筆者自身がこれまで裁判に関わってきた中で、経験上認識している事実である。裁判を起こすことは、この日本において、当事者にとっては命に関わるほどの覚悟が必要なのであり、我が子を亡くしたときの苦しみ・悲しみをまた再現させられるとともに、新たな批判・非難にもさらされるという自らの心身に大量の出血を伴う行為なのである(東日本大震災大川小学校津波被災事件における訴訟においても原告住民に脅迫状が届いている(2))。
 それでも裁判をせざるを得ない状況に至らしめているのは、行政側の事件後の上記のような対応に大きな原因があるのである。このことに、行政は本気で向き合い、組織的かつ抜本的改善を行う必要があるのではないだろうか。被害者を追い込んでおきながら、裁判を提起せざるを得なかった被害者に対し、行政に物を申す「敵」とみなして戦うという姿勢をとることがいかに多いことか。
 本来、行政の対応は、一私人同士の民事訴訟とは異なるものである。被害住民との関係は訴訟になったからといって、主権者とその委託を受けた行政という立場は変わらないはずである。住民の福祉の増進(地方自治法1条の2)を図るための行政対応は、継続すべきもののはずである。行政には、説明責任の原則、公正・透明性の原則、適正手続の原則等、個々の法文に書かれなくても統一的で根本的な基本原則が公理として存在している(3)。行政の基本原則を踏まえた対応をすべきなのである。
 それにもかかわらず、当該顧問の事後対応、学校・教育委員会の事後対応は次のようなものであった。
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中学校卒業式(親子3人で)

鈴木秀洋(日本大学危機管理学部教授)

この記事の著者

鈴木秀洋(日本大学危機管理学部教授)

日本大学大学院危機管理学研究科教授兼日本大学危機管理学部教授。元文京区子ども家庭支援センター所長、男女協働課長、危機管理課長、総務課課長補佐、特別区法務部等歴任。都道府県、市区町村での審議会委員多数。法務博士(専門職)。保育士。著書に『自治体職員のための行政救済実務ハンドブック 改訂版』(第一法規、2021年)、『行政法の羅針盤』(成文堂、2020年)、『子を、親を、児童虐待から救う』(公職研、2019年)、『虐待・ⅮⅤ・性差別・災害等から市民を守る社会的弱者にしない自治体法務』(第一法規、2021年)等。

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