地方自治と議会の今をつかむ、明日につながる

議員NAVI:議員のためのウェブマガジン

『議員NAVI』とは?

検索

2022.04.11 議員活動

第9回 デジタルとアナログから「地域住民とのコミュニケーション」を考える

LINEで送る

弁護士 滝口大志 

「地方自治勉強会」について

 この勉強会では、議員と弁護士とが、裁判例や条例などを題材にして、それぞれの視点からざっくばらんに意見交換をしています。本稿では、勉強会での議論の様子をご覧いただければと思います。発言者については、議員には〔議〕、弁護士には〔弁〕をそれぞれ付しています。
 なお、勉強会は自由な意見交換の場であり、何らかの会派、党派としての見解を述べるものではありません。

〔今回の勉強会の参加者(五十音順)〕
逢坂巌(駒澤大学ジャーナリズム・政策研究所所長、同大法学部政治学科准教授)
内田雅也(弁護士・第一東京弁護士会・弁護士法人ステラ)
江口元気(立川市議会議員)
加藤拓磨(中野区議会議員)
滝口大志(弁護士・第一東京弁護士会・丸の内仲通り法律事務所)
得重貴史(弁護士・東京弁護士会・銀座得重法律事務所)
中川洋子(弁護士・第一東京弁護士会・榎本・藤本総合法律事務所)
中村延子(中野区議会議員)
本目さよ(台東区議会議員)
渡邉健太郎(弁護士・第一東京弁護士会・堀法律事務所)

はじめに

滝口大志〔弁〕 「DX時代」といわれて久しくなります。テクノロジーが絶えず進化する中で、議員の皆さんが地域住民とのコミュニケーションをいかにしてとっていくのか。そこには何らかの障壁があるのかを話し合いたいと思います。今回の講師は逢坂巌准教授です。自己紹介をお願いします。
逢坂巌 はじめまして。私は、駒澤大学で政治学を専攻しています。メディアと政治と国民の関係など、政治コミュニケーションを研究対象にしています。学術研究以外のライフワークとして、地方選挙・国政選挙を問わず、様々な公開討論会での司会進行役を積極的に引き受けています。
一同 よろしくお願いします。
chihoujichi_benkyoukai_ph02

政治家の情報伝達の手段とは

滝口〔弁〕 まずお伺いします。政治家の情報伝達の手段としては、どのようなものがあるのでしょうか。
逢坂 組織的なバックグラウンドをお持ちであれば、それを活用することができるでしょう。組織や名簿を持っていない政治家にとっては、マスメディアやインターネットが重要なツールとなるでしょう。
滝口〔弁〕 地方自治におけるマスメディアとは何でしょうか。
逢坂 残念ながら、基礎自治体向けのマスメディアは日本ではほとんど見当たらないのが現状といえます。
滝口〔弁〕 地方議員の皆さんからすると、インターネットでの情報発信が重要となってくるわけですね。
逢坂 そのとおりです。
滝口〔弁〕 インターネットでの情報発信で重要なことは何でしょうか。
逢坂 例えば、有権者がインターネットで情報を集めたいと思ったとします。その際、何かキーワードを検索したときに、どのような順番で何が表示されるかというのが重要になってきます。
本目さよ〔議〕 SEO対策はよく聞く話ですね。
滝口〔弁〕 議員の参加者の皆さんの取組みについて教えてください。
本目〔議〕 自分の関心事や力を入れていることを整理しておいて、自分が何をやりたいのか分かるようにしています。これが検索に引っかかることが大切です。
滝口〔弁〕 ご自身でいうと、どういうことになりますか。
本目〔議〕 私の場合は、子育てママの日常での困り事をホームページで受け付けています。また、政治活動をお手伝いしてくれるインターンも募集しています。
逢坂 感心しました。インターネットで相談を受け付け、支持者を広げていくのは、現代的な後援会活動ともいえますね。
江口元気〔議〕 私の場合、フェイスブックでは有意義なやりとりができていると思っています。拡散力はないかもしれませんが、回覧板のようなイメージです。他には、YouTubeでは市政に限らずに積極的な発信に取り組んでいます。
逢坂 YouTubeの場合、ご自身の地域に限定されないことに不安はありませんか。
江口〔議〕 それはありません。鍛えられるツールだと思っています。
加藤拓磨〔議〕 私は元職の河川行政・研究や議員になってからはドローンなどをテーマに取り組んでいます。オリジナリティを出したいですし、それによって数十人の自治体議員がいる中で差別化を図れます。
滝口〔弁〕 他に工夫している媒体はありますか。
加藤〔議〕 メールを重視しています。メールを読んでくれる人は知的な話題を好む方が多い印象ですので、そういった層にリーチできることはメリットだと思います。
滝口〔弁〕 どんどん地域から離れていくようにも思えますが、いかがでしょうか。
加藤〔議〕 いやいや。町会でのお祭り、餅つきなどで直接、地域の方々に会うことはもちろん大切なことです。媒体を使い分けて、いろいろな層にリーチしていくのがよいのではないでしょうか。
chihoujichi_benkyoukai_ph01

選挙での情報発信の手段とは

逢坂 日本の選挙では、選挙カー、辻立ち、握手、後援会といった手法で有権者とコミュニケーションをとるのが伝統的でしょう。
滝口〔弁〕 そうした伝統的な手法は有効でしょうか。
江口〔議〕 やはり有効だと思います。有権者と触れ合う機会が増えるからです。選挙のたびに政治家は強くなるといわれています。一生懸命ポスターを貼って、後援会を盛り上げて。これがないと政治家は伸びないのではないでしょうか。
滝口〔弁〕 デジタルの視点ではいかがでしょうか。
逢坂 いわゆるインターネット選挙が解禁されたのは9年前のことです。1996年の自治省(現総務省)の「ホームページ上の文字などは公職選挙法の文書図画に当たる」との見解によって、選挙時のインターネット利用はできませんでしたが、やっと解禁されました。
滝口〔弁〕 現在のインターネット選挙の傾向を教えてください。
逢坂 現在では、多くの人々がインターネットで情報を検索し選挙に臨み始めています。インターネットに慣れている層は、検索よりもSNSでの情報収集が主流になってきています。これらの傾向は今後も強くなっていくでしょう。
滝口〔弁〕 SNSが主流になってからの特徴を教えてください。
逢坂 SNSでは情報が瞬時に流れ、どんどん更新されます。フェイクニュースも一瞬で広がり、訂正も間に合わないままに次の情報が入ってきます。候補者にとっては、僅差の選挙を戦う場合は困ったことになるかもしれません。
得重貴史〔弁〕 インターネットに対してインターネットで対抗するのが正しいのでしょうか。
逢坂 残念ながら、反対者が話を聞いてくれるとは限らないですし、話が届かないこともあるでしょう。SNSはフィルターバブルといって、自分好みの情報のカプセルの中に入ったようになるので、違った意見は特に届きにくいです。
得重〔弁〕 何か対抗策はあるのでしょうか。
逢坂 日常の活動での信用、リアルでのコミュニケーションが大事になってくるでしょう。

戸別訪問の解禁?

逢坂 しかし、そのリアルでのコミュニケーションは選挙のときに大きく制限されます。候補者は自由に好きな時間や場所で演説することはできず、有権者一人ひとりを訪ねて話を聞いたり政策を訴えたりすることも、現行の公職選挙法では禁じられています。インターネットというバーチャルなコミュニケーションの利用は解放されてきたのですが、人が直接会って話すというリアルのコミュニケーションは厳しく制限されたままです。
滝口〔弁〕 現行の制度を離れて、将来的にどのような制度設計を構想していくことが考えられますか。
逢坂 私はオバマ大統領初当選の選挙のときに訪米して現地視察したことがあります。アメリカではテレビ選挙が主流なのかと思っていましたが、そうではなく、戸別訪問こそが選挙活動の基本でした。
滝口〔弁〕 アメリカでの戸別訪問はどのような様子なのでしょうか。
逢坂 自由の国アメリカでは戸籍や住民票がありません。そうなると選挙のときに困るわけですが、そこで登場するのが有権者登録です。有権者はデモクラシーのために自主的に自分たちの情報を開示し、住所のみならず電話番号やメールアドレス、自らの支持政党までをデータとして登録して、選挙人名簿がつくられます。選挙になると各陣営はこの選挙人名簿を入手して、ボランティアが有権者に電話をかけ、投票先がまだ決まっていない人々に戸別訪問をし、候補者の訴えを伝えると同時に有権者の考えや希望などを聞き取ります。そこでの話は選挙スタッフに上げられ、さらに上位者が対応していくのです。政党や候補者ばかりが訴えるのではなく、有権者の意見を聞くのも選挙というスタンスです。

戸別訪問の是非

滝口〔弁〕 公職選挙法は選挙期間中の戸別訪問を禁止しています。日本とアメリカとでは大分状況が違うようです。
逢坂 1925年の選挙法改正の際に男子普通選挙が解禁されましたが、このときに戸別訪問が禁止されました。「無産者」への不信と恐怖が背景にあったようですが、実に97年前の立法ということになります。時代にそぐわない面については議論の余地があってしかるべきでしょう。
渡邊健太郎〔弁〕 我が国では、最高裁が、公職選挙法における戸別訪問禁止の規定は憲法21条に違反しないと裁判官全員一致の大法廷判決で確認しています(最大判昭和44年4月23日刑集23巻4号235頁)。その後も、戸別訪問の禁止は合憲であるとの判断が定着しているといえます。
滝口〔弁〕 最高裁はどのような判断基準を用いているのでしょうか。
渡邊〔弁〕 違憲かどうかの審査基準は「目的と手段との間の合理的関連性」です。目的が選挙の公平性で、その手段が戸別訪問の一律禁止というのが成立するのかどうかを検討していくことになります。
逢坂 SNSでは1対1のコミュニケーションもされています。これは戸別訪問と変わらないのではないでしょうか。それがリアルになるとダメというのはおかしな話です。インターネットとの均衡を図る必要もあるでしょう。
滝口〔弁〕 選挙違反がしばしば横行している実態があることも忘れてはならないように思います。
逢坂 戸別訪問の解禁で買収が横行するのかというと、ネット社会では、そのようなことがあれば、その情報はすぐに出回ってしまいます。最高裁の判断は、現在の日本にはそぐわないのではないでしょうか。
渡邊〔弁〕 時代に合わせて、コミュニケーションツールが変わってきており、立法事実も変わってきています。司法的にも変わっていくべきなのかもしれません。
逢坂 我が国では小選挙区制の導入など、選挙制度改革は意外と大胆なものになることがあります。戸別訪問の解禁も選択肢になり得るのではないでしょうか。今後の議論に期待したいところです。

地域住民とのコミュニケーションは本当に十分なのか

中川洋子〔弁〕 選挙期間でないときに、政治活動としての戸別訪問は認められるはずですよね。
本目〔議〕 そうです。選挙期間でないときに、政治活動としての戸別訪問をすることは問題ありません。戸別訪問して陳情をお聞きすることもあります。
中川〔弁〕 そうした戸別訪問で有権者の意思が変わることがあるのでしょうか。
中村延子〔議〕 有権者の投票行動を変えさせるには時間と労力がかかります。1票が当落に関わることもあるので、戸別訪問が有効なこともあるでしょう。
本目〔議〕 本当に忙しい人たちにとっては、戸別訪問自体が歓迎されないこともあるでしょう。相手によっての使い分けはとても大切だと思います。
江口〔議〕 戸別訪問に限らず、対面で話を直接聞くのがベストだと思います。青空演説でも、聞く人はしっかりと聞いてくれます。選挙期間中のスポット演説も結構聞いてくれている印象です。
滝口〔弁〕 その他には有権者から話を聞く機会はありますか。
江口〔議〕 例えば、各種団体からのヒアリングでの予算要望です。
逢坂 そもそも有権者の要望を聞き取り、それを権力につないで、解決するべきものは解決していくのが政治の役割です。票と政策とのバーターというのは、それ自体は自然なことだと思います。みんなの困っていることを解決するために、我々は税金を払っているのですから。
内田雅也〔弁〕 自分自身が一人の住民として思うのは、不安をどこに言ってよいのか分からないことがあります。
加藤〔議〕 役所の担当者に言うよりも、議員に言った方がよい場合もあるでしょう。そのことすら、アピールできていないことに歯がゆさを感じています。
内田〔弁〕 政治家はまだまだ遠い存在に感じられます。
滝口〔弁〕 要望をくみ上げるのが政治の役割だとすると、まだまだ本当の意味での窓口が足りていないのかもしれません。

むすびに

滝口〔弁〕 デジタル化が進む一方で、そのメリットを生かし切れていない面があることが分かりました。また、アナログといわれる手法もなお大切なことも分かりました。新旧を交えた様々な工夫を凝らすことで、地域住民とのコミュニケーションが進むのだと思います。議員と弁護士との相互理解がさらに深まることを祈念し、今回の勉強会を終わりにしたいと思います。

滝口大志(弁護士)

この記事の著者

滝口大志(弁護士)

1982年千葉県生まれ 千葉大学法経学部法学科卒業、九州大学法科大学院修了 弁護士登録(第一東京弁護士会)(新第65期) 主な著書に、『建物明渡請求の事件処理80〔第二版〕』(税務経理協会、2021)など。

Copyright © DAI-ICHI HOKI co.ltd. All Rights Reserved.

印刷する

今日は何の日?

2024年 419

乗馬一般に許される(明治4年)

式辞あいさつに役立つ 出来事カレンダーはログイン後

議員NAVIお申込み

コンデス案内ページ

Q&Aでわかる 公職選挙法との付き合い方 好評発売中!

〔第3次改訂版〕地方選挙実践マニュアル 好評発売中!

自治体議員活動総覧

全国地方自治体リンク47

ページTOPへ戻る