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2022.04.11 議員活動

第9回 デジタルとアナログから「地域住民とのコミュニケーション」を考える

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選挙での情報発信の手段とは

逢坂 日本の選挙では、選挙カー、辻立ち、握手、後援会といった手法で有権者とコミュニケーションをとるのが伝統的でしょう。
滝口〔弁〕 そうした伝統的な手法は有効でしょうか。
江口〔議〕 やはり有効だと思います。有権者と触れ合う機会が増えるからです。選挙のたびに政治家は強くなるといわれています。一生懸命ポスターを貼って、後援会を盛り上げて。これがないと政治家は伸びないのではないでしょうか。
滝口〔弁〕 デジタルの視点ではいかがでしょうか。
逢坂 いわゆるインターネット選挙が解禁されたのは9年前のことです。1996年の自治省(現総務省)の「ホームページ上の文字などは公職選挙法の文書図画に当たる」との見解によって、選挙時のインターネット利用はできませんでしたが、やっと解禁されました。
滝口〔弁〕 現在のインターネット選挙の傾向を教えてください。
逢坂 現在では、多くの人々がインターネットで情報を検索し選挙に臨み始めています。インターネットに慣れている層は、検索よりもSNSでの情報収集が主流になってきています。これらの傾向は今後も強くなっていくでしょう。
滝口〔弁〕 SNSが主流になってからの特徴を教えてください。
逢坂 SNSでは情報が瞬時に流れ、どんどん更新されます。フェイクニュースも一瞬で広がり、訂正も間に合わないままに次の情報が入ってきます。候補者にとっては、僅差の選挙を戦う場合は困ったことになるかもしれません。
得重貴史〔弁〕 インターネットに対してインターネットで対抗するのが正しいのでしょうか。
逢坂 残念ながら、反対者が話を聞いてくれるとは限らないですし、話が届かないこともあるでしょう。SNSはフィルターバブルといって、自分好みの情報のカプセルの中に入ったようになるので、違った意見は特に届きにくいです。
得重〔弁〕 何か対抗策はあるのでしょうか。
逢坂 日常の活動での信用、リアルでのコミュニケーションが大事になってくるでしょう。

戸別訪問の解禁?

逢坂 しかし、そのリアルでのコミュニケーションは選挙のときに大きく制限されます。候補者は自由に好きな時間や場所で演説することはできず、有権者一人ひとりを訪ねて話を聞いたり政策を訴えたりすることも、現行の公職選挙法では禁じられています。インターネットというバーチャルなコミュニケーションの利用は解放されてきたのですが、人が直接会って話すというリアルのコミュニケーションは厳しく制限されたままです。
滝口〔弁〕 現行の制度を離れて、将来的にどのような制度設計を構想していくことが考えられますか。
逢坂 私はオバマ大統領初当選の選挙のときに訪米して現地視察したことがあります。アメリカではテレビ選挙が主流なのかと思っていましたが、そうではなく、戸別訪問こそが選挙活動の基本でした。
滝口〔弁〕 アメリカでの戸別訪問はどのような様子なのでしょうか。
逢坂 自由の国アメリカでは戸籍や住民票がありません。そうなると選挙のときに困るわけですが、そこで登場するのが有権者登録です。有権者はデモクラシーのために自主的に自分たちの情報を開示し、住所のみならず電話番号やメールアドレス、自らの支持政党までをデータとして登録して、選挙人名簿がつくられます。選挙になると各陣営はこの選挙人名簿を入手して、ボランティアが有権者に電話をかけ、投票先がまだ決まっていない人々に戸別訪問をし、候補者の訴えを伝えると同時に有権者の考えや希望などを聞き取ります。そこでの話は選挙スタッフに上げられ、さらに上位者が対応していくのです。政党や候補者ばかりが訴えるのではなく、有権者の意見を聞くのも選挙というスタンスです。

戸別訪問の是非

滝口〔弁〕 公職選挙法は選挙期間中の戸別訪問を禁止しています。日本とアメリカとでは大分状況が違うようです。
逢坂 1925年の選挙法改正の際に男子普通選挙が解禁されましたが、このときに戸別訪問が禁止されました。「無産者」への不信と恐怖が背景にあったようですが、実に97年前の立法ということになります。時代にそぐわない面については議論の余地があってしかるべきでしょう。
渡邊健太郎〔弁〕 我が国では、最高裁が、公職選挙法における戸別訪問禁止の規定は憲法21条に違反しないと裁判官全員一致の大法廷判決で確認しています(最大判昭和44年4月23日刑集23巻4号235頁)。その後も、戸別訪問の禁止は合憲であるとの判断が定着しているといえます。
滝口〔弁〕 最高裁はどのような判断基準を用いているのでしょうか。
渡邊〔弁〕 違憲かどうかの審査基準は「目的と手段との間の合理的関連性」です。目的が選挙の公平性で、その手段が戸別訪問の一律禁止というのが成立するのかどうかを検討していくことになります。
逢坂 SNSでは1対1のコミュニケーションもされています。これは戸別訪問と変わらないのではないでしょうか。それがリアルになるとダメというのはおかしな話です。インターネットとの均衡を図る必要もあるでしょう。
滝口〔弁〕 選挙違反がしばしば横行している実態があることも忘れてはならないように思います。
逢坂 戸別訪問の解禁で買収が横行するのかというと、ネット社会では、そのようなことがあれば、その情報はすぐに出回ってしまいます。最高裁の判断は、現在の日本にはそぐわないのではないでしょうか。
渡邊〔弁〕 時代に合わせて、コミュニケーションツールが変わってきており、立法事実も変わってきています。司法的にも変わっていくべきなのかもしれません。
逢坂 我が国では小選挙区制の導入など、選挙制度改革は意外と大胆なものになることがあります。戸別訪問の解禁も選択肢になり得るのではないでしょうか。今後の議論に期待したいところです。

滝口大志(弁護士)

この記事の著者

滝口大志(弁護士)

1982年千葉県生まれ 千葉大学法経学部法学科卒業、九州大学法科大学院修了 弁護士登録(第一東京弁護士会)(新第65期) 主な著書に、『建物明渡請求の事件処理80〔第二版〕』(税務経理協会、2021)など。

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