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2021.09.10 議会改革

番外編 今年の決算認定審査をバージョンアップ!

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前所沢市議会議員 木田 弥

 多くの議員にとって、9〜10月は、決算認定審査の時期。もちろん、決算に関する委員会に所属していない議員は、「今年は決算にあまり関心がない」という方もいるだろう。筆者も現職時代、決算に関する委員会に所属していない年は、委員会で質問ができないこともあり、モチベーションが高まらなかったのは事実だ。
 しかし、議員にとっては、新人議員でない限り、自らが議決に加わった予算の決算である。執行部に質疑や一般質問などで、PDCAサイクルをしっかり意識することを求めるのなら、たとえ自らが決算に関する委員会に所属していないとしても、自分が賛成あるいは反対(修正)した予算が、どのように執行されたかを確認する義務があるのは当然のことである。
 決算に関わる委員会に所属していなくても、最終的には本会議場において、「認定」か「不認定」か、いずれかの意思を表明しなくてはならない。とするならば、少なくとも自分が予算を審議した際に質問した項目や、自分が提案した(ことで実現した)事業については、予算執行状況も含めてしっかり確認するのが最低限の礼儀であろう。
 前回(2021年7月28日号)は、初めて議選監査委員に就任された方に向けて、江藤俊昭・新川達郎編著『自治体議員が知っておくべき政策財務の基礎知識』(第一法規、2021年)第9章「議選監査の実践的活用」を中心に紹介した。
 今回は、議選監査委員ではない議員の方々のために、同書第7章「決算・予算審査に臨む心得」第1節と、第9章「議選監査の実践的活用」第2節「決算審査(監査)と、決算認定(議会)はどこが違うのか?」を中心に引用しながら、決算審議をバージョンアップするための秘訣(ひけつ)を紹介したい。

決算を不認定する覚悟で審査に臨もう

 正直にいえば、議会の決算審議の質疑は、力が入らなかった。すでに予算や事業は執行されてしまっている。いまさら何を聞けばいいというのだ。「不認定」のハードルは高い。決算の「不認定」というのも、しらじらしい感じがした。
 「意欲の低下の主たる要因は、決算審査が議員にとってうまみがないと思われているからだ。予算や条例であれば、否決や修正が可決すれば政策の変更が実現する。実現しなかったとしても、否決や修正を試みたことを議員活動レポートなどでアピールできる。ところが、決算を不認定としたところで、すでに執行済みの事業なので政策が覆ることはなく、インパクトが小さい。」(同書200頁)
 15年間の現職期間を通じて、予算の修正は何回か実現したが、決算を「不認定」とすることはできなかった。
 一方、決算を「不認定」とした議会は増えてきている。
 同書108〜110頁には、「2 決算認定の否決について」で、実際の不認定の事例を挙げている。また、同書200〜201頁には、不認定とした神奈川県藤沢市議会の事例などを紹介している。
 地方自治法の改正により、現在では、不認定となった場合、「長は当該不認定を踏まえて必要と認める措置を講じたときは、その内容を議会に報告する」こととされたためだろう。
 意外と知られていないが、「決算のある部分だけに問題があったとしても、議案として決算が上程されている以上、遠慮なく全体を不認定としてよいのだ。『決算の一部分に問題があるだけなのに、全体を不認定とするのはおかしい』という議員もいるが、予算の場合は修正議案の提出という手段があり、該当箇所のみの修正が可能である。しかし、決算に部分修正という概念はない。そのため、決算の一部が認定できない場合、全てを不認定とせざるを得ないのだ。だからこそ、不認定とすることを躊躇(ちゅうちょ)しないこと」(同書200〜201頁)が大事だ。
 そこで、ぜひとも「決算を不認定する覚悟で審査に臨むこと」(同書200頁)をまず皆さんには求めたい。
 なぜなら、議員の仕事の一つは、執行部側に追従することではなく、「反論する義務(obligation to dissent)」(同書238頁)にあるからだ。
 しかし、そのためには、「不認定」に足るだけの論証も議員の義務である。地方自治法改正を受けて、筆者も上記のことに気づいてから、初めて決算を「不認定」とした。もちろん議会としては「認定」されたが。

監査の議事録活用で、「未執行」予算を確認しよう

 やたらと「不認定」とすればいいわけではない。やはり「不認定」に足るだけの理由を見つけ、筋立てを考える必要がある。そのためには、監査の決算審査の情報をうまく活用していただきたい。
 特に着目していただきたいのが、予算の「未執行」情報である。正当な理由のない「未執行」は「不認定」の理由たり得る。
 そのため、まず取り組んでいただきたいのが、監査委員の決算監査議事録の入手である。
 「この議事録の入手は、ハードルが少し高い。決算特別委員会の全委員が決算監査議事録に目を通しておいた方がよいと考え、議会事務局を通じて資料を要求したことがある。しかし、監査事務局からやんわり拒否された。仕方がないので、(議会事務局を通さずに)情報公開請求制度での公開を請求し、資料を全委員に配布した。原則、この方法を用いれば、誰でも議事録を入手することができるはずだ。」(同書202頁)
 ちなみに、ある程度体制が整っている監査事務局であれば、決算審査意見書作成のためにも、決算監査議事録は必要となるため、当年度の議事録は作成済みと考えてよいだろう。
 もし、この議事録が確認できれば、「質問内容を確認することで未執行の予算が発見しやすい。所沢市の場合、監査事務局が決算監査に当たって、監査委員向けに資料を作成するのだが、未執行予算をリストアップしてあるため、決算監査で未執行予算について監査委員が質問した場合、議事録に掲載され、それによって未執行予算の存在を確認できる。」(同書202頁)のだ。
 何らかの事情で議事録が確認できない場合、「予算書と決算書を丁寧に見比べれば未執行予算を見つけることはできるのだが、分厚い資料をいちいち見比べるのは手間であるし、予算書の形式と決算書の形式が微妙に異なっていることもあり、見つけるのは骨が折れる作業である」(同書202頁)。
 そこで、どうするかといえば、まず決算書の項ごとの不用額を確認。不用額が発生していない項目は未執行予算がないので、確認しなくてよい。
 「項全体の金額に比べて、相対的に不用額が多い場合は、要注意である。」「わざわざ予算化したにもかかわらず未執行ということは、予算化の前提や調査が甘かったということでもあり、また予定していた補助が付かなかった可能性もある。何はなくとも未執行予算は議論の俎上に載せて、未執行となった理由を問いただすことが重要である。その理由があまりにずさんなものだった場合、不認定理由とすることが可能である。」(同書203頁)

歳入不足もしっかり確認しよう

 予算の「未執行」とともに、「収入未済」も「不認定」の要件たりうる。
 そもそも、議会の決算審査では、歳入部分の質疑は低調だ。ところが、監査では、より詳細に歳入状況についての確認が行われる。
 そのことは、「所沢市の監査事務局が決算審査の際に用意する決算審査資料の項目構成を紹介することで分かっていただけよう。資料には、1から8までの項目がある。1から7までは予算執行が計画どおりにいかなかった理由を説明する内容になっている」(同書256頁)。
zu 議事録を見れば、こうした資料に基づく質問がなされているはずである。そこで、まずは、この項目建てのそれぞれについて確認するつもりで、議会における決算審査に臨んでいただきたい。
 議事録もよいのだが、本当であれば、この資料本体が閲覧できれば、さらに充実した議会における決算審査が期待できる。
 しかし、さすがにそれは難しいし、現実問題として、議会に見られることが前提になってしまうと、議会の決算審査が議会から見れば充実、執行部から見れば炎上してしまう。そのため炎上を避けて、資料そのものが簡素化されてしまう懸念がある。悪い意味でのPDCAサイクルが機能してしまうのだ。守秘義務との兼ね合いの議論もある。まあ、でも機会があれば、同僚の議選監査委員にチラッとでもよいから見せてもらうとよい。衝撃を受けるはずだ。
 この項目建てを見ても分かるように、「『不納欠損』や『収入未済』、『歳入予算現額対調定額』など、7項目中3項目が歳入に関わる項目である。近年の歳入不足を背景として、議会でも歳入について取り上げる議員が増えてきているが、決算審査では、より時間をかけて歳入に対するチェックを行っている印象だ。実際に、所沢市の『決算審査意見書』でも、歳入の記述と歳出の記述がほぼ同量である」(同書257頁)。
 「多くの議員は、歳入部分への関心が低いようだ。しかし、歳入部分こそ、決算不認定の理由を発見できる可能性の高い宝の山である。ポイントは2つ。まずは税金に限らず保育園の利用料などの収納率をチェックすることだ。この場合、近隣他市区や財政規模が同規模の他市区のデータをあらかじめ確認しておこう。他市区と比べてあまりにも収納率が低い場合は、十分、決算不認定の理由となりえる。同時に、不納欠損額と件数もチェックしよう。不納欠損処理件数が多くなれば、収納率の分母が小さくなるので、見かけ上は収納率が高く見えることになる。直近3~5年の不納欠損の件数や金額の推移も確認しておこう。
 2つ目のポイントが、諸収入や雑入の項目だ。これまでの経験では、ここに職員手当不正受給に対する返還金などが含まれていた。所沢市の場合、諸収入の『その他』として処理されるので、積極的に説明されることはない。とにかく、諸収入に『その他』があり、かつ金額も相対的に大きいようであれば、『金額の大きい順に上位3つないし5つの項目と内容について説明いただきたい』といって追及してみよう。意外な内容が浮かび上がってくるかもしれない。」(同書205頁)
 そうはいっても、歳入にはなかなか関心が向かない議員も多い。何しろ「歳入について質問しても票にはならない。むしろ、納税者かつ有権者の責任を問うことにもなり、票を減らす可能性もあるからだ。しかし、今後は、税収が伸び悩むのであるから、歳入についての議論もしっかり行っていく必要がある。ここでは詳細は触れないが、歳入に関わるこの3項目について、議員も基礎的な理解をしていただくことが重要である」(同書257頁)のだ。
 大事なことなので何度もいうが、筆者は何が何でも「不認定」に持ち込めといっているわけではない。しかし、「不認定」を前提とすることで決算審査を充実させようということを提案している。先ほど紹介した藤沢市における決算不認定は、「不適正な事務執行」が原因であった。
 「不認定」にまで至らないまでも、「未執行」や「収入未済」に限らず、先ほど紹介した項目のいずれもが、決算の観点として重要な項目である。「不用額」や「予算流用」についてどのように切り込んでいくべきかについては、同書203〜204頁を確認していただきたい。

議選監査委員になるのが一番なのだが

 以上、監査委員がどのような視点で決算を審査するかを理解していただくことで、これまでとは違った角度で決算認定審査に臨めることと思う。
 監査の視点を獲得していただくために一番よいのは、実際に議選監査委員として決算監査を経験していただくことであるが、そう簡単ではない。
 少なくとも、皆さんの議会の議選監査委員に、監査における決算審査の内容について直接聞いていただくか、あるいは、公開の場で、監査の審査内容について報告を求めていただきたい。人事なので、そう簡単ではないと思うが、議選監査委員として、議会の決算審査に協力姿勢のある人を議選監査委員として選出できるよう努力していただきたい。そうした視点のない議員は議選監査委員として賛成できないと、議員として、あるいは会派として主張することも重要だ。また、自分がそういう地位にふさわしいと思ったならば、なりふり構わず全力で議選監査委員になることを目指していただきたい。

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◆書籍情報
『自治体議員が知っておくべき政策財務の基礎知識―予算・決算・監査を政策サイクルでとらえて財政にコミットできる議員になる―』(2021/3/11発売開始)

江藤俊昭 新川達郎 編著(定価3,300円 (本体:3,000円))
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 自治体議員が地方財政に主体的に関与・改善したいと考えたときに、本書を読むことで、政策財務の考え方、特に予算・決算・監査に関する基礎的知識や方法論を紹介。先進的な議会の予算決算に関する取り組みや予算案修正の際の考え方や手続き、具体的な修正の手法を知ることができる。

この記事の著者

木田弥(人口30万人を超える自治体議会議員)

人口30万人を超える自治体議会の議員として活動中。

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