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2021.07.12 政策研究

女性の健康課題を解決する新たな分野「フェムテック」について

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一般社団法人メディカル・フェムテック・コンソーシアム理事長 松本玲央奈

1 はじめに

 月経に伴う諸症状や、不妊治療・妊活、更年期の諸症状といった女性の健康課題に、社会としてどう取り組んでいくべきかについて、我が国ではこれまで必ずしも広く議論されていなかった。
 しかし、ここ10年ほどの間に、欧米を中心に、女性の健康課題を解決することを目的とした「フェムテック」と呼ばれる新しい製品・サービスが次々と世に出ており、我が国でも、この2~3年で、「フェムテック」を通して女性の健康課題に取り組もうとするスタートアップ企業が急増し、その分野への投資も盛んになりつつある。
 国もこの動向に注目し始め、昨年は、国会議員有志による議員連盟が発足したほか、関係省庁も、女性活躍・男女共同参画を推進するための方策として、また、新たな産業分野としてとらえ、「フェムテック」に関する実態調査や、制度上の対応を検討するといった動きが出てきている。
 本稿では、この「フェムテック」とは何か、また、「フェムテック」をめぐる国や産業界の動きについてご紹介したい。

2 女性の健康課題に関心が集まっている

 近年、女性の健康課題として、大きく分けて①月経に伴う症状、②不妊治療・妊活、③更年期における諸症状、の三つの分野が注目され、それらを背景に、女性の社会的・経済的活動に支障が生じたり、会社において昇進を諦めたり、離職を余儀なくされたりする等の課題があることに関心が集まりつつある。
 そして、これらの課題解決に向けて、民間企業による製品・サービスの開発・提供、女性従業員を雇用する事業主の取組みが活発になってきた。
 日本医療政策機構によると、月経前に生じるPMS(月経前症候群)及び月経に伴う諸症状のために、半数の女性が、元気なときに比べて働くパフォーマンスが半分以下になると回答したとの報告があり(1)、このように働く女性のパフォーマンスが低下することによる経済的損失額は約4,900億円と見込まれている(2)
 また、我が国では、5.5組に1組の夫婦が不妊治療を受けている、又は受けたことがあるとされており(3)、不妊治療を経験した女性の23%が離職を経験し(4)、11%が仕事との両立が困難であるために不妊治療を断念した(5)とされている。
 また、更年期に伴う症状により、半数の女性が、元気なときに比べて働くパフォーマンスが半分以下になると回答したとの報告もある(6)

3 新しい分野「フェムテック」の登場

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(1)海外の動向
 こうした女性の健康課題を解決するため、2010年頃より、海外では、スタートアップ企業が新しい製品やサービスの提供を始めた。例えば、月経を管理するアプリや、膣内に挿入して骨盤底筋のトレーニングを行う機器、乳房に装着しておくことで自動的に搾乳を行う機器等、これまでにない新しいサービスや機器が登場している。
 それらの製品・サービスを指す言葉として、「女性」を意味するFemaleと、「技術」を意味するTechnologyを組み合わせたFemtech(フェムテック)という言葉が使われるようになった。

(2)国内産業の動向
 我が国におけるフェムテック分野のサービスは、スタートアップ企業を中心に、2019年は約50サービスだったところ、2020年には約100サービスへと倍増した。2020年を、我が国における「フェムテック元年」だとする声もある。
 フェムテックの主要な三つの分野の動向としては、
 ① 生理関係では、既存のナプキン、タンポンといった生理処理用品のほかに、吸水ショーツ、月経カップといった新たな製品が登場している。
 ② 不妊治療・妊活支援の分野では、不妊治療をめぐる疑問に答えるオンライン相談サービス等が始まっている。こうしたサービスには、個人での利用者もいるが、事業主が福利厚生の一環として、サービス提供会社と契約し、女性従業員の不妊治療、妊活を支援するケースも出てきている。
 ③ 更年期の分野では、更年期に伴う症状は人によって異なり、ホットフラッシュ(ほてり・のぼせ等)、頭痛、うつ・不安感、膣内の乾燥による痛み(歩くだけでも痛いという人もいる)、尿漏れ等、多種多様な症状がある。また、更年期からの骨密度の低下が、その後の骨粗しょう症につながるともいわれている。我が国では、尿漏れを防ぐための骨盤底筋のトレーニングを行う機器や、オンラインによりトレーニング指導を行うサービス等がある。

4 国も「フェムテック」に注目している

(1)閣議決定に「フェムテック」の文字が表れた
 政治・行政もフェムテックに注目し始めている。
 去る6月18日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2021」、いわゆる「骨太の方針」では、初めて「フェムテックの推進」という文言が盛り込まれ、国としてフェムテックの推進に取り組むことが示された。

(2)経済産業省による実態調査、実証実験
 経済産業省は、2020年度にフェムテック産業の実態調査を行った(7)。また、2021年度は、約20の事業者を公募し、フェムテック製品・サービスの社会実装を目指した実証実験を行う予定である。

(3)フェムテック振興議員連盟
 政治の動きとしては、2020年10月に、自民党国会議員の有志による「フェムテック振興議員連盟」が発足した。
 同議員連盟では、
 ① 先進的な技術で、⽣理期間を快適に過ごせる社会に
 ② 不妊治療を含む妊活を⽀援することにより、⼦どもを望む⼈が希望を実現できる社会に
 ③ 更年期の諸問題を解決し、社会・経済のリーダーとなる世代がより活躍できる社会に
という3本の大きな柱を掲げ、これらの課題解決にどのように政策的に取り組むべきかを、厚生労働省、経済産業省等の関係省庁や、フェムテック関連事業者とともに議論しているところである。
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フェムテック振興議連盟第6回総会の様子(2021年5月13日)

 去る3月には、良質なフェムテック製品の普及に向け、新しく登場している製品が、医薬部外品や医療機器等、薬事制度上どのように位置付けられるのか、関係省庁と産業界とで早急に協議すべきであるとする提言がとりまとめられ、官房長官、自民党、関係省庁に提出された。
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加藤官房長官への申し入れに同席。左端が筆者(2021年3月15日)

5 産官が連携して、良質なフェムテックの普及を目指す

 上記の提言を受け、2021年6月より、衛生用品分野の業界団体である日本衛生材料工業連合会と、筆者が理事長を務める一般社団法人メディカル・フェムテック・コンソーシアムとの共催で、厚生労働省やフェムテック関連事業者とともに、各種フェムテック関連製品の「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」(以下「薬機法」という)上の位置付け等について検討を行うワーキンググループを設けたところである。
 このワーキンググループでは、およそ1年を目途に、吸水ショーツ、月経カップ、各種デバイス、潤滑ジェル等の製品について、それぞれ、薬機法上の位置付けや、製品評価を行うために必要な観点等について検討し、整理を行うこととしている。
 ワーキンググループでの検討を通じて、フェムテック製品の制度上の位置付けや、製品評価の観点が明確にされることで、良質なフェムテック製品の普及につながるものと考えている。

6 今後の展望

(1)フェムテック産業の拡大
 フェムテック関連事業に参入する事業者は現在も増え続けており、既存の大手企業の中にも、参入を検討している動きがある。最近では各種報道でもフェムテック関連の記事が多く、ますます社会的な注目も高まるものと考えている。

(2)フェムテック振興議員連盟における議論
 フェムテック振興議員連盟においては、現在、2本目の柱である不妊治療・妊活支援について議論が始まったところである。
 筆者も先日、同議員連盟の会合において、自身の生殖医療専門医としての活動の中で感じている、不妊治療に取り組む女性が直面する様々な壁について所見を述べたところであり、政治がこうした課題に正面から向き合うようになってきたことを、大変うれしく感じている。
 今後、同議員連盟では、女性本人のみならず、周囲の人も含め、女性の健康課題に関する意識・知識(ヘルスリテラシー)を高めることによって、子どもを望むすべての人が、社会生活や職場において不利な状況に置かれることなく、望みをかなえられるようにすることが重要であるとの認識に立ち、そうした女性を支える事業を展開しているフェムテック事業者や、事業主として女性従業員の健康課題に取り組む企業からの話を聞くなどして、必要な政策のあり方について検討が進められているところである。

(3)自治体行政とフェムテックの関係
 自治体行政とフェムテックとの関係はこれからの課題であるが、例えば防災用の備蓄として、吸水ショーツや月経カップといった、繰り返し使用できる製品を備蓄しておくことや、妊活支援サービスを提供する企業と連携して、住民の妊活支援を行うことも考えられる。
 また、民間の事業主と同様に、自治体自身も、女性職員の健康課題の解決に取り組むことにより、女性職員が自身の健康課題に悩まされることなく住民サービスにより一層専念できるようになるという意味もあると考えられる。
 このように、自治体にとっては、対住民、対職員の両面から、フェムテックを活用することが期待されることを申し上げて締めくくりとしたい。

(1) 日本医療政策機構「働く女性の健康増進調査2018」(2018年)(https://hgpi.org/research/809.html
(2) 経済産業省「働き方、暮らし方の変化のあり方が将来の日本経済に与える効果と課題に関する調査報告書(概要版)」(https://www.meti.go.jp/policy/economy/jinzai/R2fy_femtech.pdf
(3) 厚生労働省「〔事業主・人事部門向け〕不妊治療を受けながら働き続けられる職場づくりのためのマニュアル」(https://www.mhlw.go.jp/bunya/koyoukintou/pamphlet/dl/30k.pdf
(4)厚生労働省「不妊治療と仕事の両立について」(https://www.mhlw.go.jp/content/11901000/000705287.pdf
(5) 厚生労働省・前掲注(4)
(6) 日本医療政策機構・前掲注(1)
(7) 経済産業省・前掲注(2)

松本玲央奈(一般社団法人メディカル・フェムテック・コンソーシアム理事長)

この記事の著者

松本玲央奈(一般社団法人メディカル・フェムテック・コンソーシアム理事長)

松本玲央奈(まつもと・れおな) 一般社団法人メディカル・フェムテック・コンソーシアム理事長 松本レディースリプロダクションオフィス院長 東京大学大学院医学研究科博士課程修了・医学博士 日本産婦人科学会産婦人科専門医・指導医、生殖医療専門医 ■参考URL 一般社団法人メディカル・フェムテック・コンソーシアム ウェブサイト https://femtech.or.jp/

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