3 新しい分野「フェムテック」の登場
(1)海外の動向
こうした女性の健康課題を解決するため、2010年頃より、海外では、スタートアップ企業が新しい製品やサービスの提供を始めた。例えば、月経を管理するアプリや、膣内に挿入して骨盤底筋のトレーニングを行う機器、乳房に装着しておくことで自動的に搾乳を行う機器等、これまでにない新しいサービスや機器が登場している。
それらの製品・サービスを指す言葉として、「女性」を意味するFemaleと、「技術」を意味するTechnologyを組み合わせたFemtech(フェムテック)という言葉が使われるようになった。
(2)国内産業の動向
我が国におけるフェムテック分野のサービスは、スタートアップ企業を中心に、2019年は約50サービスだったところ、2020年には約100サービスへと倍増した。2020年を、我が国における「フェムテック元年」だとする声もある。
フェムテックの主要な三つの分野の動向としては、
① 生理関係では、既存のナプキン、タンポンといった生理処理用品のほかに、吸水ショーツ、月経カップといった新たな製品が登場している。
② 不妊治療・妊活支援の分野では、不妊治療をめぐる疑問に答えるオンライン相談サービス等が始まっている。こうしたサービスには、個人での利用者もいるが、事業主が福利厚生の一環として、サービス提供会社と契約し、女性従業員の不妊治療、妊活を支援するケースも出てきている。
③ 更年期の分野では、更年期に伴う症状は人によって異なり、ホットフラッシュ(ほてり・のぼせ等)、頭痛、うつ・不安感、膣内の乾燥による痛み(歩くだけでも痛いという人もいる)、尿漏れ等、多種多様な症状がある。また、更年期からの骨密度の低下が、その後の骨粗しょう症につながるともいわれている。我が国では、尿漏れを防ぐための骨盤底筋のトレーニングを行う機器や、オンラインによりトレーニング指導を行うサービス等がある。
4 国も「フェムテック」に注目している
(1)閣議決定に「フェムテック」の文字が表れた
政治・行政もフェムテックに注目し始めている。
去る6月18日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2021」、いわゆる「骨太の方針」では、初めて「フェムテックの推進」という文言が盛り込まれ、国としてフェムテックの推進に取り組むことが示された。
(2)経済産業省による実態調査、実証実験
経済産業省は、2020年度にフェムテック産業の実態調査を行った(7)。また、2021年度は、約20の事業者を公募し、フェムテック製品・サービスの社会実装を目指した実証実験を行う予定である。
(3)フェムテック振興議員連盟
政治の動きとしては、2020年10月に、自民党国会議員の有志による「フェムテック振興議員連盟」が発足した。
同議員連盟では、
① 先進的な技術で、⽣理期間を快適に過ごせる社会に
② 不妊治療を含む妊活を⽀援することにより、⼦どもを望む⼈が希望を実現できる社会に
③ 更年期の諸問題を解決し、社会・経済のリーダーとなる世代がより活躍できる社会に
という3本の大きな柱を掲げ、これらの課題解決にどのように政策的に取り組むべきかを、厚生労働省、経済産業省等の関係省庁や、フェムテック関連事業者とともに議論しているところである。
フェムテック振興議連盟第6回総会の様子(2021年5月13日)
去る3月には、良質なフェムテック製品の普及に向け、新しく登場している製品が、医薬部外品や医療機器等、薬事制度上どのように位置付けられるのか、関係省庁と産業界とで早急に協議すべきであるとする提言がとりまとめられ、官房長官、自民党、関係省庁に提出された。
加藤官房長官への申し入れに同席。左端が筆者(2021年3月15日)