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2020.03.25 議会運営

【続・緊急寄稿】緊急事態にも議会として動ける、そして動かなければならない!~議会による検証・提言は行政対応を豊富化

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山梨学院大学法学部・大学院教授 江藤俊昭

【論点】
A 危機状況の強調しすぎは民主的統制が疎かになる。
B 危機状況に即した議会改革の第2ステージの応用を実践する。
① 緊急事態(危機状況)の中身を冷静に判断(議会は動けるしうごかなければならない)
(行政対応の検証(以下②)は大雑把にならざるを得ない。行政への提言(同②)、議会の対応の検証・改革(以下③)が急がれる。)
②行政対応について議会による検証・提言(=行政対応を豊富化)
③議会の対応の検証・改革
④必要があれば国への要請
⑤これら①~④を作動させるため、特別委員会の設置を

新型コロナウィルスへの議会対応

 新型コロナウィルスの感染拡大は一向に終息しない。世界的にみればますます拡大し、パンデミックと評されている。早急に治療法の発見が急がれる。同時に人や物の移動制限が行われようになり、グローバル化された社会が今までに経験したことのない社会的経済的問題を引き起こしている。現状、日本は「持ちこたえている」状況ということだ。地方議会もまさにこの渦の中にいる。地方での、そして「住民自治の根幹」である議会がこの危機状況にどうかかわるか。
 少なくとも議論しなければならない論点は、2つ(プラス1)ある。この状況で対応している地域政策と組織・手続きに対する議会による検証と提言、及びそれらへの議会のかかわり方の検証・改革(プラスとして国への要請)である。その際、時間軸の設定が必要である。つまり危機状況の段階を考慮することだ。後述するような危機状況ならば、議会運営の検証・改革、および行政への提言を率先して行い、〔行政の対応の検証〕は大雑把(いわば「ざっくり」)にならざるを得ない(行政の動きを停滞させないように注意)(1)。これは、危機状況を冷静に判断しつつ、議会改革の第2ステージの応用である。

表 議会の役割(再考) hyou

 議会の作動にあたって、今日の危機状況を認識しておく必要がある。行政はもとより、議会・議員は壊滅していない。感染予防を注意深く行えば(座席間隔、換気、マスク着用等の注意によって)、議会は作動できる。危機状況の確定が曖昧だと、「危機だ、危機だ」ということで民主的統制など議会の役割も疎かになるからである(2)。まさに、危機状況の中身を問いながら、行政をサポートする議会が問われている(3)
 危機状況としては様々なものが想定されるが、近年では例えば大規模地震、豪雨によって自治体機能が停止する場合もある。今回の場合は治療薬が未だ発見されていないウィルス感染拡大という危機であって、世界的には緊急事態宣言を行っている国や自治体も散見されるが、現状日本では衣食住は少なくとも供給されている(自治体閉鎖ではない)。長期化する可能性があるとはいえ、現時点では、行政も議会も議会はもとより行政も機能している。行政の能力を意識して議会はその監視・提言を行う。自治体機能は壊滅していない。現時点ではそういう危機状況である。
 第1回(3月)定例会(定例月会)の特例を提案したのは、対応に即効性が求められたからである(『議員NAVI』2020年3月5日)。傍聴禁止や一般質問禁止は住民自治原則から逸脱していること(一般質問辞退は次善の策)、危機状況下での議会運営を住民自治の原則から事前に検討すること(議会版BCP(業務継続計画)の豊富化)、を指摘した。それは、感染防止の観点というより、まず首長等が緊急的な対応が求められていたからである。今後は行政も動けるし、議会も動けることを前提に議論を進める必要がある。
 すでに第1回(3月)定例会は終了(閉会)している頃だろう。今回緊急に提言する第2弾の本稿では、一般質問や傍聴の取り扱い方といった議会運営ではなく、危機状況下の地域経営に議会がかかわる手法を検討する。危機を強調しすぎることで議会・議員は思考停止になり、首長に(権限委任とはいえないまでも)地域経営を委ねる発想に陥りがちである。議会としてこの緊急時に作動することこそが、行政対応を豊富化するということを強調したい。

議会による行政対応に対する検証と提言による行政対応の豊富化

 議会には、危機状況下で実施された自治体の政策を検証することが課せられている。同時に、継続する危機状況の下で(局面は移動し多様な問題が噴出することを認識しながら)、議会として多様な住民の声を聞き、地域状況を把握して検証と政策提言することも必要となっている。
 いずれも、地域政策体系とそれを推進する組織・手続きを問うことになる。治療薬の研究は民間や国の研究機関等に委ねざるを得ない。感染拡大の防止・治療への対応だけではなく問題は連鎖し、対応は複眼的になる。地域政策体系として、感染防止策と医療体制整備の政策、住民生活の負荷の軽減政策、そして経済対策といった複眼的思考とその実践が必要である。組織・手続きについては、危機管理部門の体制や、決定の際の手続きを念頭においている。

① 行政対応の検証
 行政対応の検証には、政策とその策定の手続きの妥当性が含まれる。まず政策そのものについては、感染拡大の押さえ込みを軸とする。ただし、これは単に医療の充実・連携にとどまらない。これらはまた、問題の連鎖を引き起こす。
 たとえば、学校の休校措置は、安倍首相から要請されていた。小中高、特別支援学校の休校措置、期日の妥当性等が問われる。休校した場合の学業、給食の代替措置はどの程度議論したのか。学校休校だけではなく、児童館・公立図書館なども休館となる中で、休校の際の「居場所」の設定(子ども食堂の支援等)を検討したのか。休暇をとらざるを得ない保護者の補償問題について自治体としてどう考えるのか。この事例をとっても、1つの対応は、問題の連鎖を引き起こす。したがって、感染拡大の防止のための対応であっても、規模だけではなく連鎖的問題が生じ、対応への検証は容易ではない。
 また、その対応組織の作動の妥当性、危機管理部門の対応も今後検証する必要がある。前述の休校措置は教育委員会事項である。ほとんどの自治体で実施された休校について、教育委員会はどのような議論をしたのであろうか。専門家の意見をどの程度参考にしたのか。どの程度児童、教員や保護者当の声が活かされたのか(こどもの権利条例制定自治体の対応も問われる)。そして、教育委員会の議論において、児童等をめぐる連鎖的問題の発生とその対応についてどの程度議論して決断したのであろうか。
 問題は連鎖しているので検証も容易ではない。とはいえ、今後のためにも地域政策体系と組織の作動についての検証が、議会としても不可欠である。

② 今後の対応の提言・提案
 すでに指摘した対応を念頭において、新たに生起する問題群に対して、議員・議会として提案することは必要である。議員は、議会の構成員であるとともに、地域リーダーである。地域の現状を踏まえた提案が可能である。「地域エゴ」と揶揄される場合もあるが、地域の問題抜きに地域政策は語れない。また、議員は自治体を超えた議員間ネットワークを有している。それらの情報を自治体の対応に活かすことは有用である。
 地震や豪雨といった災害時と同様に、個々の議員が行政に働きかけることは、行政の停滞を招く。そこで、委員会等によって議員の情報や提案を議会として受け止め集約し、行政に提言するべきである。

危機状況に対応する議会の創造

 議会が政策体系を意識し検証や政策提言を行うための手法を模索したい。平常時(通常状況)では、すでに「議会からの政策サイクル」が開発され、いくつかの議会で実践されている。危機状況での開発である。議会は、問題意識を有して調査研究することが必要である。これらを進めるには、特別委員会の設置が必要である。

① 行政の対応への評価、今後の対応を提言する特別委員会設置
 地域政策体系や組織・手続きへの議会の検証、および提言を行うには、議会として特別委員会等を設置して主題的に扱う必要がある。
② 議会運営の検証
 第1回(3月)定例会(定例月会)の対応の検証を行う(一般質問辞退等)。上記①の行政対応への評価・提言をする特別委員会で行ってもよい。議会版BCPにおいて、「インフルエンザ」が対象となっている自治体もあるが(滋賀県大津市)、そうでない議会では、今後はこうしたウィルスへの対応を議会版BCPに組み込むことが必要となっている。
 たとえば、議員は「議事堂に参集」することになっている(全国三議長会のそれぞれの標準会議規則1)。庁舎、議事堂が残存している場合でも(4)、例外的に換気のよい場所に移動して開催することを規定することも必要だ(残存していない場合は当然規定)(5)。この場合、傍聴者の権利を阻害しないルール整備が不可欠である(周知徹底)。
 また、行政組織への検証・提言にまで及ぶ。なお、前述のように、休校を決めるのは教育委員会である。委員人事に同意するのは議会である。ここでどのような議論があったかを検証するとともに、そもそも教育委員の同意基準を議会として設定しているかどうかも問われる。これを機会に、行政委員会・委員の同意・選挙基準を設定してほしい。
③ 住民・専門家の意向を聞きながら行う
 行政の対応や議会の対応、また問題状況について住民や経済界、NPOからヒアリングを行うべきである。それらの対応の検証にあたっては、専門家の意見収集は不可欠である。

国への要請:意見書等の活用

 危機状況において明確になった問題について、国への要請が必要である(意見書等の活用(自治法99))。

① 政策をめぐる財源・権限をめぐる要請
 感染拡大、そしてこの対応に伴う社会的経済的問題の連鎖には、いままで以上に、自治体と国との連携が必要である。検討を踏まえて、権限・財源の要請を行う。また、新型インフルエンザ等対策特別措置法(改正)やそれに基づく緊急事態宣言の対応に関しても国に要請してよい。
② 組織運営に関する要請
 危機状況下の議会対応における課題を抉り出すことが前提である。今回の危機状況において、議事堂への参集は可能であるし、会議規則の改正により議事堂以外での参集を模索すべきである。ウィルスの汚染の蔓延にともない議員が参集でいないことも想定できる。たとえば、テレビ議会の検討を国に要請することを想定している 。

***

 「危機」における政治は、首長のリーダーシップを強調する。危機という不安が首長のリーダーシップを要請するからだろう。本小論では、緊急事態(危機状況)の中身を問いながら、この状況の打開のために、議会が行政対応を検証・提言することで、行政の対応力を増進する手法を模索した。本稿のデッサンは、議会の実践によって豊富化される。
 本小論で議論した危機状況の段階は変化する。「地獄絵」を想定しながらも冷静な判断が議会には求められている。
 感染拡大が終息することを祈念して…。

(1) 筆者は、検証によって実効性ある提案が可能だと主張してきた。危機状況では、原則を保持しつつ変更も柔軟にあってよいし、その場合原則とルールを設定しておく必要があると考えている。
(2)  危機の強調は、首長の作動を肯定し議会の沈黙を要請する議論に親和性がある。もっとも民主的だといわれたワイマール共和国の時代に、カール・シュミットは危機を強調し例外状況には大統領独裁が必要だとしてナチズム政権に道を開いている。危機の認識は重要である。危機の強調で思考停止に陥るのではなく、危機を具体的に想定し、大統領に全権委任するのではなく、具体的に民主的統制を構想する必要があった。例外の極端な強調とは異なり、危機を常態の議論の中に含みこむことが全権委任の独裁者を呼び起こさない(江藤)。本小論は、議会は動けるということ、評価と提言など行政のサポートの重要性を提起している。
(3)  議会版BCPの想定と、今回の感染拡大の危機の異同を考えたい。議会版BCPは意義あるものである。たとえば大津市議会BCPは、地震、水害だけではなく、その他(大規模火災などの大規模な事故、原子力災害、新型インフルエンザなどの感染症、大規模なテロなど)が対象となる。ただし、東日本大震災を契機とした策定であったために、発生時期(会議中、会議時間外、議員が自治体内にいないとき)、時期(初動期、中期、後期、1か月~(平常時の議会体制へ))、といった構成となっている。今回の感染拡大リスクは、期間はもちろん、その程度も刻々替わる。こうした要因を含みこんだ、新たな議会版BCP策定が求められる。
(4)  議事堂は、「本会議場、傍聴席、委員会室、議員控室、議長及び副議長室、応接室、議会事務局の事務室、図書室その他の議会活動に必要な一切の物的施設」と規定されているが(地方議会運営研究会 2014:165)、ここでは本会議場、傍聴席、委員会室をまずもって想定している。
(5)  平常時でも、「青空議会」「地域議会(さまざまな地域で開催する議会)」を行うことも想定している。
(6)  筆者は、会議は議員が参集して討議することだと考えている。とはいえ、参集できない危機状況でも必要な場合があるかもしれない。また、今回の場合のように高齢者や持病を有しているリスクの高い場合、通常状況でも病気や出産で出席できない場合や、過疎地域において参集する時間的余裕のない場合など、状況にあわせて(議論する手段として)部分的に活用することの検討は必要だと考えている。現時点では、表決は参集すべきだと考えている。

〔参考文献〕
江藤俊昭(2011)「地域政治における首長主導型民主主義の精神史的地位」『法学新報』118巻第9号
江藤俊昭(2016)『議会改革の第2ステージ』ぎょうせい
江藤俊昭(2016-2020)「新しい議会の教科書」『議員NAVI』2016年5月25日号~

地方議会運営研究会(2014)『地方議会運営事典 第2次改訂版』ぎょうせい
都市問題研究会/全国市議会議長会(2014)『「都市における災害対策と議会の役割」に関する調査報告書』

江藤俊昭(山梨学院大学法学部政治行政学科・大学院社会科学研究科教授)

この記事の著者

江藤俊昭(山梨学院大学法学部政治行政学科・大学院社会科学研究科教授)

山梨学院大学法学部政治行政学科・大学院社会科学研究科教授  博士(政治学、中央大学) 1956年東京都生まれ。 1986(昭和61)年中央大学大学院法学研究科博士後期課程満期退学。専攻は地域政治論。 鳥取県智頭町行財政改革審議会会長、山梨県経済財政会議委員、第29次・第30次地方制度調査会委員(内閣府)、総務省「町村議会のあり方に関する研究会」委員、全国町村議会議長会「議員報酬等のあり方に関する研究会」委員長、等を歴任。現在、マニフェスト大賞審査委員、全国町村議会議長会特別表彰審査委員、議会サポーター・アドバイザー(栗山町、芽室町、滝沢市、山陽小野田市)、地方自治研究機構評議委員、など。 主な著書に、『議員のなり手不足問題の深刻化を乗り越えて』(公人の友社)『議会改革の第2ステージ―信頼される議会づくりへ』(ぎょうせい)『自治体議会の政策サイクル』(編著、公人の友社)『Q&A 地方議会改革の最前線』(編著、学陽書房、2015年)『自治体議会学』(ぎょうせい)等多数。現在『ガバナンス』(ぎょうせい刊)、『議員NAVI』(第一法規)連載中。

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