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2020.03.25 議会運営

【続・緊急寄稿】緊急事態にも議会として動ける、そして動かなければならない!~議会による検証・提言は行政対応を豊富化

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国への要請:意見書等の活用

 危機状況において明確になった問題について、国への要請が必要である(意見書等の活用(自治法99))。

① 政策をめぐる財源・権限をめぐる要請
 感染拡大、そしてこの対応に伴う社会的経済的問題の連鎖には、いままで以上に、自治体と国との連携が必要である。検討を踏まえて、権限・財源の要請を行う。また、新型インフルエンザ等対策特別措置法(改正)やそれに基づく緊急事態宣言の対応に関しても国に要請してよい。
② 組織運営に関する要請
 危機状況下の議会対応における課題を抉り出すことが前提である。今回の危機状況において、議事堂への参集は可能であるし、会議規則の改正により議事堂以外での参集を模索すべきである。ウィルスの汚染の蔓延にともない議員が参集でいないことも想定できる。たとえば、テレビ議会の検討を国に要請することを想定している 。

***

 「危機」における政治は、首長のリーダーシップを強調する。危機という不安が首長のリーダーシップを要請するからだろう。本小論では、緊急事態(危機状況)の中身を問いながら、この状況の打開のために、議会が行政対応を検証・提言することで、行政の対応力を増進する手法を模索した。本稿のデッサンは、議会の実践によって豊富化される。
 本小論で議論した危機状況の段階は変化する。「地獄絵」を想定しながらも冷静な判断が議会には求められている。
 感染拡大が終息することを祈念して…。

(1) 筆者は、検証によって実効性ある提案が可能だと主張してきた。危機状況では、原則を保持しつつ変更も柔軟にあってよいし、その場合原則とルールを設定しておく必要があると考えている。
(2)  危機の強調は、首長の作動を肯定し議会の沈黙を要請する議論に親和性がある。もっとも民主的だといわれたワイマール共和国の時代に、カール・シュミットは危機を強調し例外状況には大統領独裁が必要だとしてナチズム政権に道を開いている。危機の認識は重要である。危機の強調で思考停止に陥るのではなく、危機を具体的に想定し、大統領に全権委任するのではなく、具体的に民主的統制を構想する必要があった。例外の極端な強調とは異なり、危機を常態の議論の中に含みこむことが全権委任の独裁者を呼び起こさない(江藤)。本小論は、議会は動けるということ、評価と提言など行政のサポートの重要性を提起している。
(3)  議会版BCPの想定と、今回の感染拡大の危機の異同を考えたい。議会版BCPは意義あるものである。たとえば大津市議会BCPは、地震、水害だけではなく、その他(大規模火災などの大規模な事故、原子力災害、新型インフルエンザなどの感染症、大規模なテロなど)が対象となる。ただし、東日本大震災を契機とした策定であったために、発生時期(会議中、会議時間外、議員が自治体内にいないとき)、時期(初動期、中期、後期、1か月~(平常時の議会体制へ))、といった構成となっている。今回の感染拡大リスクは、期間はもちろん、その程度も刻々替わる。こうした要因を含みこんだ、新たな議会版BCP策定が求められる。
(4)  議事堂は、「本会議場、傍聴席、委員会室、議員控室、議長及び副議長室、応接室、議会事務局の事務室、図書室その他の議会活動に必要な一切の物的施設」と規定されているが(地方議会運営研究会 2014:165)、ここでは本会議場、傍聴席、委員会室をまずもって想定している。
(5)  平常時でも、「青空議会」「地域議会(さまざまな地域で開催する議会)」を行うことも想定している。
(6)  筆者は、会議は議員が参集して討議することだと考えている。とはいえ、参集できない危機状況でも必要な場合があるかもしれない。また、今回の場合のように高齢者や持病を有しているリスクの高い場合、通常状況でも病気や出産で出席できない場合や、過疎地域において参集する時間的余裕のない場合など、状況にあわせて(議論する手段として)部分的に活用することの検討は必要だと考えている。現時点では、表決は参集すべきだと考えている。

〔参考文献〕
江藤俊昭(2011)「地域政治における首長主導型民主主義の精神史的地位」『法学新報』118巻第9号
江藤俊昭(2016)『議会改革の第2ステージ』ぎょうせい
江藤俊昭(2016-2020)「新しい議会の教科書」『議員NAVI』2016年5月25日号~

地方議会運営研究会(2014)『地方議会運営事典 第2次改訂版』ぎょうせい
都市問題研究会/全国市議会議長会(2014)『「都市における災害対策と議会の役割」に関する調査報告書』

江藤俊昭(山梨学院大学法学部政治行政学科・大学院社会科学研究科教授)

この記事の著者

江藤俊昭(山梨学院大学法学部政治行政学科・大学院社会科学研究科教授)

山梨学院大学法学部政治行政学科・大学院社会科学研究科教授  博士(政治学、中央大学) 1956年東京都生まれ。 1986(昭和61)年中央大学大学院法学研究科博士後期課程満期退学。専攻は地域政治論。 鳥取県智頭町行財政改革審議会会長、山梨県経済財政会議委員、第29次・第30次地方制度調査会委員(内閣府)、総務省「町村議会のあり方に関する研究会」委員、全国町村議会議長会「議員報酬等のあり方に関する研究会」委員長、等を歴任。現在、マニフェスト大賞審査委員、全国町村議会議長会特別表彰審査委員、議会サポーター・アドバイザー(栗山町、芽室町、滝沢市、山陽小野田市)、地方自治研究機構評議委員、など。 主な著書に、『議員のなり手不足問題の深刻化を乗り越えて』(公人の友社)『議会改革の第2ステージ―信頼される議会づくりへ』(ぎょうせい)『自治体議会の政策サイクル』(編著、公人の友社)『Q&A 地方議会改革の最前線』(編著、学陽書房、2015年)『自治体議会学』(ぎょうせい)等多数。現在『ガバナンス』(ぎょうせい刊)、『議員NAVI』(第一法規)連載中。

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