大槌新聞 菊池由貴子
「議員の役割を果たしてほしい」──。岩手県大槌町の旧役場庁舎(以下「旧庁舎」という)の解体に熟慮を求めていた住民団体代表は、解体直前までそう訴え続けました。議員の役割とは何か。議員は誰に寄り添うべきなのか。これまでの取材から、旧庁舎問題をめぐる大槌町議会の動きを振り返ります。
東日本大震災で人口の約1割が死亡・行方不明に
岩手県沿岸の真ん中に位置する大槌町。東日本大震災で人口の約1割に当たる1,286人が死亡・行方不明となりました。町は震災時、過去の津波浸水区域にあった旧庁舎前に災害対策本部を設置。避難勧告や避難指示を出すこともなく、当時の加藤宏暉町長ら町職員39人が死亡・行方不明となりました。
町議会、旧庁舎問題の議論避ける
2011年8月、町職員OBの碇川豊氏が町長選挙で初当選。2013年3月には旧庁舎の一部を震災遺構として保存する方針を表明しました。ところが、2015年8月の町長選挙では平野公三氏が、上司だった碇川氏を1,000票差で破り初当選。旧庁舎の扱いが大きく変わりました。
平野氏は震災時、防災担当の総務課主幹で、町災害対策本部にいましたが、旧庁舎屋上に素早く逃げて助かった経緯があります。選挙期間中から旧庁舎の解体を訴え、10月には年度内解体の方針を示しました。理由として平野町長は、震災遺構として保存した場合の維持管理費や、「旧庁舎を見るのがつらい」とする住民感情を挙げました。
当時の議会は、前町長を支持した議員が大半で、議員からは、「維持管理費の正確な資料を出して」、「住民の保存・解体(を望む声)は半々だ」などの意見が相次ぎました。議会は平野町長に対し、解体予算案を12月議会に出さないよう求める意見書を提出。震災犠牲者の慰霊の場が整備されるまでの間、震災検証や震災遺構としての価値検討をすべきだと提案しました。
議会の要請を受け、平野町長は解体予算案の提出を断念しましたが、それに対する議会の対応は不可解でした。平野町長を評価し、12月議会で予定されていた旧庁舎に関する質問を取り下げました。ある町民は、「議会で正々堂々と議論してほしかった」と残念がりました。