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2017.04.25 政策研究

第11回 住民自治の進展(上)――地域経営の新たな手法――

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 本連載では、政府や制度の重視から、政策過程や市民社会における様々な団体・個人の重視へと移行するといった、ガバナンス(論)を踏まえながらも、今日流布しているNPM論のような管理主義的な思考や運営にとどまるべきではないと指摘したい。それは、民主主義を強調した思考や運営の模索である。また、一般的にローカル・ガバナンスが公共サービスに矮小(わいしょう)化されていることを指摘しつつ、その視点は重要であるとしても地方政府の役割は無視できず、民主主義は地域経営にとっては第一級の位置を占めていることを強調したい(表1参照)。
 「政府は、ガバナンスにおける唯一の重要なアクターではないとはいえ、1つの重要なアクターであることは明らかである」という視点である(Pierre 2011:19)。変化してきているのはガバナンスにおける政府の役割である。地方政府は、その役割を住民、企業、NPOといった社会的アクターと連携して発揮するようになっている。その際注意したいのは、それは公共サービスの供給といった行政的側面だけではなく、住民の政治参加の手法や制度といった政治的側面があることである。

表1 ローカル・ガバナンス、協働、新しい公共の発想・対象表1 ローカル・ガバナンス、協働、新しい公共の発想・対象

 この認識は、公共をめぐる担い手論を公共サービス供給主体に限定せず、政策決定(政治的側面)にまで広げている。民主主義的正統性はローカル・ガバナンスが解決する重要課題である(Schaap 2007:534)。ガバナンス論の第二世代でも、選挙された公職者(公選職)及びそれによって構成される議会の役割も議論の対象に入る(木暮 2009)、という議論とも重なる。選挙された公職者が議論の対象として再登場している。

(2)ローカル・ガバナンス、協働、新しい公共と地域民主主義の関係
 ローカル・ガバナンスとともに、協働、新しい公共といった用語も今日流布している(1)。ローカル(都市)・ガバナンスは欧米でも用いられているが(正確にはそれらが発祥地)、日本では、これと重なる協働や新しい公共という用語も盛んに用いられている。

① 「協働」の射程
 「協働」は、行政と住民の協働、あるいは公と民の協働といったように、公共サービス供給に伴うアクター間の関係に限定して用いられることが多い。パートナーシップあるいはコラボレーションのような、対等・平等を原則とする主体間の関係を強調する協働では、公共サービスを誰が担うかといった議論に矮小化されることもある。すでに指摘したNPM論に連なる理論と実践である。自治体の財政危機や職員数減少などの資源減少は、その大きな要因の1つである。
 また、この「協働」では、公共サービスを住民、NPO、企業へと押し付けることを回避するために、協働に参加(参画)を付加して「参加と協働」とセットにして用いることもある。この協働でも、公共サービス供給論だけではなく政治的な決定の要素を付加して議論する意欲が見て取れる。
 もう一歩踏み込んで、コプロダクションとして理解した場合の「協働」は、その政治的決定の要素を含み込んで理解すべきものである。つまり、主体間の対等・平等関係だけに限定せず、その主体それぞれが協力することによって、新たな何かを生み出すという視点を含めて理解するべきである。つまり、政策形成における住民、NPO、企業による独自の提案も含まれる。これは行政への協働だけではなく、議会への協働にまで至る。また、自治体との協働だけではなく、NPO、企業と自治体との関係も協働の範囲と考えられる。そして、これらの基底には〈住民―住民〉関係とも呼べる住民の自発的・自立的活動があり、これも協働の射程に入っている(江藤 2000)。そこでは、住民が担うべきこと、自治体と協働すべきこと、自治体独自で行うことの切り分け、つまり政策形成にまで踏み込むことになる。
 このように、パートナーシップやコラボレーションとしての「協働」でも、政策形成が視野に入っており、コプロダクションとしての「協働」ではそれが含み込まれている。したがって、一般に理解されているような、「協働」を公共サービスの供給主体に限定して用いることはすべきではない。「協働」は、公共をめぐる担い手論であり、その場合の担う対象は公共サービスだけではなく政策形成にまで含み込んでいるのである。

② 新しい公共
 「新しい公共」という用語は、今日多様に用いられている。「『新しい公共』宣言」(2010年)も提出された。従来とは異なる公共の担い手を探る上で重要な鍵概念となる。とはいえ、この「新しい公共」(新しい公共空間)の中には、公共サービス供給主体に限定する議論も見受けられる。また、その延長で、従来の公共サービスを行政の論理で住民に「押し付ける」根拠としてこの用語を用いる場合もある。本連載では、討議空間としての公共も強調したい。以下、従来の公共との相違を確認しておこう。
 1つは、古い公共との相違である。「新しい公共」という場合、従来の公共=行政(官という用語が見られるが、自治体では官は用いることはできない)ではないという意味である。多様なアクターが公共を担うことを強調するのが、新しい公共である。
 もう1つは、市民的公共との相違である。行政主導に対して、市民が公共を担うのが市民的公共である。その意味では、本連載で強調する政治的側面と重なる。ただし、「新しい公共」がこれと異なるのは、市民・住民だけではなく行政(本連載では議会を含めて)も主体的に公共を担う主体として登場するという点においてである。
 多様なアクターが公共を担い、そして、その公共は公共サービスのみに限定されず、民主主義の側面も含み込まれている。つまり、「そもそも公共サービスの公共性はどこに由来するのか。この出発点からの仕切り直しをしなければならなくなる。公共空間の概念について……それはもともと〈市民的公共性〉の文脈にフィットする概念であり、その再構成をはかるさいにおいても〈市民的公共性〉の含意をどこまで浸透させることができるかが肝要である」(今村 2002:12)。公共性は住民(市民)がかかわる場の設定である。公共サービス供給の担い手論にとどまらず、政策形成にまで含み込まなければならない。

③ ローカル・ガバナンス、協働、新しい公共の関係
 ローカル・ガバナンス、協働、新しい公共は、関係があるどころか重なり合う、あるいは軌を一にしているものである。再度整理すると、公共をめぐる議論にはその内容を吟味する方向と(政策の重点分野、長期か短期の視点か等、足立 2009:序章)、その担い手を議論する方向があり、後者はさらに公共サービス供給主体論と政策決定論を含んでいる。担い手論はこれらのローカル・ガバナンス、協働、新しい公共には共通している。とはいえ、公共サービス供給主体論に限定せず、政策形成・決定の議論に含み込む必要がある。
 このように考えると「ガバメントからガバナンスへのシフト」は「ある意味では誤った視座である」(Pierre 2011:139)。政府が政治過程から捨て去られたわけではなく、政治過程への広範なアクターの包括という変化があるだけである。政治過程における政府の役割の変化を問うことが重要である。その際、管理主義的な発想からの議論だけではなく、政治的、そして民主主義的な議論が必要となっている。

江藤俊昭(山梨学院大学大学院研究科長・法学部教授博士)

この記事の著者

江藤俊昭(山梨学院大学大学院研究科長・法学部教授博士)

山梨学院大学大学院研究科長・法学部教授博士(政治学、中央大学)。 1956年東京都生まれ。1986(昭和61)年中央大学大学院法学研究科博士後期課程満期退学。専攻は地域政治論。 三重県議会議会改革諮問会議会長、鳥取県智頭町行財政改革審議会会長、第29次・第30次地方制度調査会委員等を歴任。現在、マニフェスト大賞審査委員、議会サポーター・アドバイザー(栗山町、芽室町、滝沢市、山陽小野田市)、地方自治研究機構評議委員など。 主な著書に、『続 自治体議会学』(仮タイトル)(ぎょうせい(近刊))『自治体議会の政策サイクル』(編著、公人の友社)『Q&A 地方議会改革の最前線』(編著、学陽書房、2015年)『自治体議会学』(ぎょうせい、2012年)等多数。現在『ガバナンス』(ぎょうせい刊)連載中。

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