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2017.04.25 政策研究

第11回 住民自治の進展(上)――地域経営の新たな手法――

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山梨学院大学大学院社会科学研究科長・法学部教授 江藤俊昭

今回の論点:住民、議会・議員、首長等の新たな三者間関係を構築する

 「住民自治」が実現する舞台として、地方自治の二層制と二元的代表制を確認してきた。また、新たな住民自治を作動させる上での標準装備として、自治・議会基本条例と総合計画の重要性と新たな論点を検討した。
 今回から、それらの舞台や装備の下で活動、あるいはそれらを改革するアクターの動向を確認したい。結論を先取りすれば、住民、議会・議員、首長等の新たな三者間関係の模索、である。
 地域経営は、従前の行政主導から多様なアクターが担うものへと変化してきている。本連載で強調する住民参加の進展や議会改革の動向は、まさにそれを探ることと同一である。さらに、その動向と軌を一にして、ローカル・ガバナンス、協働、新しい公共という用語が、「ガバメントからガバナンスへ」という文脈で活用されるようになってきている。これは、先進諸国に共通して見られる現象であるが、日本の場合、地域経営において地方自治自体が確立していなかった(中央集権制)。したがって、日本においては、地方分権改革を進め地方政府を確立するという課題と、地方行政だけではなく多様なアクターが地域経営を行うガバナンスの確立という課題への取組みを同時に進めなければならない(二面作戦)。
 今回(及び次回)はローカル・ガバナンス、協働、新しい公共といった、新たな三者間関係を模索する上で理解しておくべき用語(概念装置)を確認しておこう。同時に、新たな住民自治、民主主義を模索する上で、間接(代表)民主制を主として理解する立場と、逆に直接民主制こそが主とする立場とがあり、それらの意味を理解しつつも、これらを統合する重要性を強調したい。いわば、新住民自治論の提示である。
① 新たな三者間関係を模索する上で有用なローカル・ガバナンス、協働、新しい公共を確認する。
② ローカル・ガバナンス、協働、新しい公共の批判とそれを検討する。
③ 住民自治を考える上での間接民主制重視と直接民主制重視を考える。
④ 間接民主制と直接民主制の両側面を重視した新住民自治論を確認する。

1 地域経営におけるガバナンスの2つの意味

(1)ローカル・ガバナンスの登場――公共サービスの提供とともに地域民主主義の実現――
 地方分権改革によって地域経営の自由度が向上したが、今日、地域経営にはもう1つの大きな変化がある。それは、行政主導の地域経営から様々なアクターによるものへの変化である。効率性、コスト意識、サービスの顧客志向、公共サービスの生産と提供のボランタリー部門の参入等が重視され、委託化、民営化、公民パートナーシップ、NPOによる地域経営手法が採用されるようになった。
 こうした議論を推し進めたのが、「ガバメントからガバナンスへ」といわれるガバナンス(論)の台頭である。それは、制度や政府の役割を強調するものから「ガバメント(政府、制度)なき統治」までの範囲があるが、社会の様々なアクターの政治行政過程への社会的包摂という点では共通している。

☆キーワード☆
【地域経営】
 本連載で使用する「地域経営」という用語には、2つの意味を含めている。
 1つは、自治体経営との相違である。自治体経営は、本連載と同様にローカル・ガバナンス等といった新たな動向を視野に入れているものもあるが、特に自治体の動向、その中でも行政改革が強調される。したがって、議会の動向や対抗運動等は軽視される。極論すれば、自治体経営の議論では行政へと焦点が当てられる。他方、地域経営は、ローカル・ガバナンス等の新たな動向を踏まえて、その自治体経営をより広い視野から議論する。これは次の点とも連動する。
 もう1つは、公共サービス供給の主体の多様化だけではなく、政治的側面(民主主義)の思考と制度を重視することである。これは、今回検討する主旋律である。
 この後者の論点は、もともと地方政府の2つの側面をめぐって起きた論争とも関係がある。1つは、地方政府の政治的側面である。選挙された公職者の役割を重視する民主主義に連なる議論である。もう1つは、地方政府の行政的側面である。地方政府をサービスの生産と提供を通じて集団的な要求と利害を解決する公的組織と考える、管理を重視する議論である。後者の系である「管理主義的な次元は、1990年代後半から2000年代を通じて、明らかに地方政府の民主主義的参加主義的な次元に優位するようになった」(Pierre 2011:33)。また、管理主義的な側面の強調といっても、地方政府ではなく公共サービス供給をめぐってのNPO、企業の存在が重視された。その要因は、中央政府と地方政府の財政危機であった。そして財政危機に触発され民間経営手法の公共サービスへの採用を進めたニュー・パブリック・マネージメント(NPM)の台頭であった。ローカル・ガバナンスの台頭はこれを背景としているし、同時にそれを進めている。

図 地域経営手法の変化の概念図図 地域経営手法の変化の概念図

江藤俊昭(山梨学院大学大学院研究科長・法学部教授博士)

この記事の著者

江藤俊昭(山梨学院大学大学院研究科長・法学部教授博士)

山梨学院大学大学院研究科長・法学部教授博士(政治学、中央大学)。 1956年東京都生まれ。1986(昭和61)年中央大学大学院法学研究科博士後期課程満期退学。専攻は地域政治論。 三重県議会議会改革諮問会議会長、鳥取県智頭町行財政改革審議会会長、第29次・第30次地方制度調査会委員等を歴任。現在、マニフェスト大賞審査委員、議会サポーター・アドバイザー(栗山町、芽室町、滝沢市、山陽小野田市)、地方自治研究機構評議委員など。 主な著書に、『続 自治体議会学』(仮タイトル)(ぎょうせい(近刊))『自治体議会の政策サイクル』(編著、公人の友社)『Q&A 地方議会改革の最前線』(編著、学陽書房、2015年)『自治体議会学』(ぎょうせい、2012年)等多数。現在『ガバナンス』(ぎょうせい刊)連載中。

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