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2017.01.13 議員活動

政務活動費に対する市民の不信感にどう対処するか

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全国市民オンブズマン連絡会議事務局長/弁護士 新海聡

 各地の市民オンブズマンは、1996年頃から政務活動費(当時は「調査研究費」と呼ばれていた)の使途を示す資料の開示を求め、情報公開条例に基づいて情報の公開請求を行ってきた。当時の調査研究費の支出は、条例に基づかない補助金として会派に交付されていたが、その使途を示す資料は全く公開されていなかった。このため、調査研究費は議員の第二給与だ、という批判は根強かった。しかも当時は、多くの自治体で、議会が情報公開条例の実施機関となっていなかったこともあって、調査研究費の支出文書の開示請求に対しては、文書不存在による不開示決定がなされてきた。支出関連文書は議会事務局の保管文書だ、というのだ。これに対して、いくつかの市民オンブズマンは、首長に対して、調査研究費の支出関連文書は、自治体の支出権限者である首長が保有していると解釈すべきだ、という主張をもとに、不開示処分の取消しを求める訴訟を提起した。その結果、1997年に至って仙台市や札幌市でやっと「調査費収支決算報告書」が開示された。ところが、開示された調査費収支決算報告書はA4判1枚、収入の部と支出の部の各項目に金額が記載されているだけで、領収書などは添付されていなかった。議員1人当たり年間数百万円が税金として支出されているのに、その説明がA4の1枚で済まされているのだ。これでは、議員や会派が本来調査研究費を目的外に支出していたとしても、市民が住民監査請求を提起することすらできない。そもそも、多額の税金を支出していながら、その領収書を市民に開示しないこと自体、不当だ。
 その後、2000年の地方自治法改正により、法的根拠が不明確だった調査研究費が、同法100条12項に、「普通地方公共団体は、条例の定めるところにより、その議会の議員の調査研究に資するため必要な経費の一部として、その議会における会派又は議員に対し、政務調査費を交付することができる」と規定された。これを受け、不正支出をチェックする制度を条例や規則に設けた自治体もある。しかし、そのほとんどが市民によるチェックを前提とするものではなく、会派や議長による使途のチェックにとどまっていた。全国市議会議長会が2001年9月に全国693市議会を対象に行った「政務調査費に関する調査結果」によると、収支報告書への領収書の添付を義務付けていない、すなわち、情報公開請求をしても領収書が対象文書とはならない自治体が276市(45.4%)、収支報告書に対する議長の調査権を規定していない自治体が446市(73.5%)に上った。また、都道府県、政令市、県庁所在市のうち、議員1人当たり年間100万円以上の政務調査費を支給する自治体では、皆、領収書の添付を義務付けていない、すなわち、情報公開請求をしても領収書が開示対象文書とはならない、という実態が明らかになった。政務調査費の問題は、まずは領収書を公開せよ、というテーマからスタートした。

 こうした中、全国市民オンブズマン連絡会議は2002年の全国大会で、都道府県、政令市を対象とし、2001年度の政務調査費の収支報告書の情報公開条例に基づく開示結果をもとに、各自治体の政務調査費情報の透明性を調査した。その結果、収支報告書に領収書を添付している自治体は、都道府県、政令市とも0、政務調査費による視察を行った場合の視察報告書を添付している自治体数も、都道府県、政令市とも0。収支報告書の記載に、政務調査費を支出した活動成果の記載のある自治体が都道府県では7、政令市では1で、ほとんどが活動成果の記載すらなされていないという、透明性とは程遠い状況が明らかになった。
 これ以降、全国市民オンブズマン連絡会議では、ほぼ毎年、政務調査費の透明性の調査を継続している。2002年の政務調査費の支出を対象とした2003年の調査では、初めて京都府が5万円以上の領収書を収支報告書に添付するようになったことから、京都府では5万円以上の領収書は情報公開請求によって見ることができるようになった。2003年の支出からは、岩手県がすべての領収書を収支報告書に添付することに踏み切った。その後も領収書を収支報告書に添付し、情報公開制度による開示文書の対象とする、という扱いをする自治体は増加し、2012年5月に調査(2011年度分の支出を対象)した結果では、41都道府県と全20政令市が領収書の全面添付となった。2013年の調査では、岡山県以外の46都道府県が領収書の全面添付を実現し、2015年の調査では、ついに47都道府県がすべての領収書を添付する運用をしていることが明らかになった。

 しかし、領収書の公開が実現したとはいっても、政務活動費の支出の透明性は不十分だ。私たちが領収書の公開を求めた理由は、およそ調査研究とは無縁な支出がなされていないかを市民の目でチェックすることにある。一方、領収書の公開で分かるのは、せいぜい、政務活動費が本来許されない事項に支出されていないかどうかということだけであって、領収書で裏付けられた支出が、議員や会派のどのような調査研究活動に用いられたのかまでは知ることができない。さらに、1つの議会で年間数千枚から数万枚に及ぶ領収書のコピーを取得するためには、情報公開制度による1枚10円の謄写費用の負担が、情報を遠ざける強力な壁となる。政務活動費の透明性の課題として、開示される情報の質と、開示方法が課題となった。

 ではまず、開示される情報の質に目を向けてみよう。全国市民オンブズマン連絡会議が2016年6月に行った調査では、何らかの活動報告書や視察報告書の作成を義務付け、公開あるいは公開する予定だ、と回答した自治体は、活動報告書については、都道府県では30、政令市では8。政務活動費を用いた視察の報告書についてみれば、都道府県で32、政令市では10にとどまる。さらに、活動報告書の作成を県外活動のみ(愛知県)、海外のみ(島根県)、視察報告書について海外視察のみ(埼玉県、愛知県、島根県、鹿児島県)にそれぞれ限定する自治体があるなど、開示される情報の質、量とも自治体によって大きな差がある。また、視察報告書の量もA4判1枚程度、しかも視察に同行した同一会派の議員間で報告書内容についてコピー・アンド・ペーストされたとしかいいようのない、ほぼ同一の報告書が提出される事例も報告されている。活動報告書や視察報告書の作成義務を議員に課し、市民に開示する制度を設けても、支出された政務活動費が実際にどのように役立てられたかを市民が知ることは、現状では十分とは言い難い。
 これに加えて、情報の不開示の問題がある。領収書の個人名は33の都道府県と8の政令市で不開示とされている。特に愛知県や和歌山県では、会派や議員があらかじめ領収書の情報を黒塗りにして議長に提出することまで認めている。こうなると、議会に情報公開請求し、全面開示の決定を得ても、実際に得られる文書は黒塗りのまま。不開示を裁判所で争うことはできない。こうした不開示情報の代表例として、人件費の領収書がある。政務活動費を財源とする人件費を受領した親族が、当の議員の資金管理団体に、支払われた人件費とほぼ等しい額の政治資金の寄附をしていたことが明らかになった例もある。この事例では、果たして人件費を支払うだけの労働がなされたか、その労働が政務調査活動とどのような関連があるかを明らかにする必要があるが、そのためには、人件費の領収書の氏名公開が検討されなければならない。少なくとも過去に政治資金の寄附を受けた者や一定程度の親族の場合には、開示する取扱いが検討されてよい。

5 次に、開示方法について見てみたい。領収書の謄写に伴う問題を解決する方法は、領収書をはじめとする政務活動費の情報が、自治体のウェブサイトで開示されることだ。ウェブサイトでの公開を採用又は採用を決めた自治体は2016年に増加し、同年12月20日の段階で都道府県では9県、政令市では4市となった。その原因は、いうまでもなく、富山市議会を皮切りに、全国の議会で次々と政務活動費の不正支出が明るみに出たことだ。富山市議会では、領収書の開示に1枚10円のコピー代が徴収される。年間5,000枚に及ぶ領収書の写しを取得するためには、5万円の費用が必要だ。こうした情報公開の不十分さが、「誰も情報など見ないだろう」という議員の慢心を生み出し、領収書の偽造の原因のひとつとなったのは明らかだ。再発防止のためには、富山市に限らず、まずは情報公開の徹底、すなわち、領収書はもとより、支出を記載した会計帳簿や活動の報告書などを自治体のウェブサイトで公表し、誰もが容易に支出を知ることのできる制度が必要だ。

 政務活動費の領収書や支出関係書類の情報開示が質的にも制度的にも進めば、議員が市民の目を意識することになり、政務活動費の不正支出をある程度は防ぐことができよう。また、政務活動費の無駄な支出を防止する試みとして、政務活動費の前払いをやめ、提出された領収書をチェックした上で、年度末に議会事務局が支払いをする「後払い方式」をとる京丹後市などの自治体も現れている。とはいうものの、支給額が年額1人当たり500万円を超える議会が都道府県で10、政令市で5つもある中で、十分なチェックができるか疑問だ。
 しかも、私たち市民が、政務活動費の関連資料の開示を受けた場合に感じる疑問の多くは、その支出を政務活動費という税金で賄う必要はあるか、という点だ。例えば、議員の事務所家賃に対して支出される政務活動費は、実際には議員の当選を目的とした政治活動への支出ではないか、という疑問だ。あるいは、政務活動費の使途基準に「広報、広聴費」の項目があるからといって、地方自治体の政策や地方自治制度の研究に全く関係しないお笑い芸人の招へいや地方の歴史研究に政務活動費を支出することなどは許されるか、といった事例も2016年に議論となった。2015年12月24日の名古屋高裁判決(判例時報2296号42頁)は、条例に定めのない事務所賃借料や自動車リース料への政務調査費の支出について、政務調査活動に必要であることの立証を議員に求め、様々な陳述書等の資料を精査した上、どの議員の支出も政務調査活動に必要とはいえない、と判断して、事務所賃借料と自動車リース代全額を愛知県に返還する義務を認めた。この判決については、会派側は、政務調査活動を狭く捉えすぎている、と批判したが、最終的に高裁の判断は最高裁でも維持された。

 こうした、政務活動費が実際に役立っているか、という点をチェックするためには、支出項目と領収書の存在だけをチェックし、実際に議会活動にどのように役立てたかを問わない、という現状の制度にメスを入れる必要がある。翻ってみると、本来、政務活動費は補助金だ。調査研究等を補助事業と位置付けた、抜本的な見直しが必要だ。そもそも、我々がある活動に自治体や企業から補助金を受けようとする場合には、最初に企画書と予算の見積りを提出するのが一般的だ。これに対し、予算の見積りに過大な点があれば、修正した申請をせざるを得ない。政務活動費についてもこれに倣った制度を設けるのはどうだろうか。例えば、政務活動費の給付を希望する議員や会派は、年度初めに調査研究等のテーマとこれに要する費用の見積りを記載した交付申請書を議会に提出する。この交付申請書は市民に開示するとともに、例えば、市民と有識者とで組織される第三者委員会を開催し、ここに議員や会派の代表者が出席し、申請内容について質疑応答をする。これを経て、第三者委員会が承認した範囲で議員や会派は調査研究を行い、年度末に調査研究等を実施したことの根拠資料とともに領収書の提出をする。事前の承認内容との整合性や領収書のチェックを経て、政務活動費が支給される、といった方法である。実施の根拠資料がなければ、領収書があっても支給はされないし、テーマを提示できない議員には交付されないが、これはむしろ、市民感情に適合するはずだ。そして何よりも、政務活動費を用いて議員や会派が何をしたいのかが事前に市民に公開されることによって、議員の活動に市民が関心を持ち、議会が活性化することにつながることが期待できる。

 ここ数年、政務活動費の不正支出が立て続けに大きな話題となっている。しかし、政務活動費に対する関心を、不正支出の追及にとどめたのでは、事の本質を見失う。政務活動費はもともと、議会活動を活性化することを目的として立法化されたはずだ。そうであるなら、政務活動費を用いて、議員がどのような議会活動を行ったのかを市民が容易に理解できるようにする工夫が必要ではないだろうか。そのための第一歩として、まずは議員が、政務活動費の支出とこれを用いた議会活動の成果との関連が分かるよう工夫した詳細な報告書を作成し、それを市民に伝える努力を行うことが肝要ではないだろうか。

この記事の著者

新海聡(弁護士)

1961年生まれ。1990年弁護士登録(愛知県弁護士会)。全国の市民オンブズマンから構成される全国市民オンブズマン連絡会議の事務局長(1995年〜現在)。

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