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2017.01.13 議員活動

政務活動費に対する市民の不信感にどう対処するか

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 しかし、領収書の公開が実現したとはいっても、政務活動費の支出の透明性は不十分だ。私たちが領収書の公開を求めた理由は、およそ調査研究とは無縁な支出がなされていないかを市民の目でチェックすることにある。一方、領収書の公開で分かるのは、せいぜい、政務活動費が本来許されない事項に支出されていないかどうかということだけであって、領収書で裏付けられた支出が、議員や会派のどのような調査研究活動に用いられたのかまでは知ることができない。さらに、1つの議会で年間数千枚から数万枚に及ぶ領収書のコピーを取得するためには、情報公開制度による1枚10円の謄写費用の負担が、情報を遠ざける強力な壁となる。政務活動費の透明性の課題として、開示される情報の質と、開示方法が課題となった。

 ではまず、開示される情報の質に目を向けてみよう。全国市民オンブズマン連絡会議が2016年6月に行った調査では、何らかの活動報告書や視察報告書の作成を義務付け、公開あるいは公開する予定だ、と回答した自治体は、活動報告書については、都道府県では30、政令市では8。政務活動費を用いた視察の報告書についてみれば、都道府県で32、政令市では10にとどまる。さらに、活動報告書の作成を県外活動のみ(愛知県)、海外のみ(島根県)、視察報告書について海外視察のみ(埼玉県、愛知県、島根県、鹿児島県)にそれぞれ限定する自治体があるなど、開示される情報の質、量とも自治体によって大きな差がある。また、視察報告書の量もA4判1枚程度、しかも視察に同行した同一会派の議員間で報告書内容についてコピー・アンド・ペーストされたとしかいいようのない、ほぼ同一の報告書が提出される事例も報告されている。活動報告書や視察報告書の作成義務を議員に課し、市民に開示する制度を設けても、支出された政務活動費が実際にどのように役立てられたかを市民が知ることは、現状では十分とは言い難い。
 これに加えて、情報の不開示の問題がある。領収書の個人名は33の都道府県と8の政令市で不開示とされている。特に愛知県や和歌山県では、会派や議員があらかじめ領収書の情報を黒塗りにして議長に提出することまで認めている。こうなると、議会に情報公開請求し、全面開示の決定を得ても、実際に得られる文書は黒塗りのまま。不開示を裁判所で争うことはできない。こうした不開示情報の代表例として、人件費の領収書がある。政務活動費を財源とする人件費を受領した親族が、当の議員の資金管理団体に、支払われた人件費とほぼ等しい額の政治資金の寄附をしていたことが明らかになった例もある。この事例では、果たして人件費を支払うだけの労働がなされたか、その労働が政務調査活動とどのような関連があるかを明らかにする必要があるが、そのためには、人件費の領収書の氏名公開が検討されなければならない。少なくとも過去に政治資金の寄附を受けた者や一定程度の親族の場合には、開示する取扱いが検討されてよい。

5 次に、開示方法について見てみたい。領収書の謄写に伴う問題を解決する方法は、領収書をはじめとする政務活動費の情報が、自治体のウェブサイトで開示されることだ。ウェブサイトでの公開を採用又は採用を決めた自治体は2016年に増加し、同年12月20日の段階で都道府県では9県、政令市では4市となった。その原因は、いうまでもなく、富山市議会を皮切りに、全国の議会で次々と政務活動費の不正支出が明るみに出たことだ。富山市議会では、領収書の開示に1枚10円のコピー代が徴収される。年間5,000枚に及ぶ領収書の写しを取得するためには、5万円の費用が必要だ。こうした情報公開の不十分さが、「誰も情報など見ないだろう」という議員の慢心を生み出し、領収書の偽造の原因のひとつとなったのは明らかだ。再発防止のためには、富山市に限らず、まずは情報公開の徹底、すなわち、領収書はもとより、支出を記載した会計帳簿や活動の報告書などを自治体のウェブサイトで公表し、誰もが容易に支出を知ることのできる制度が必要だ。

この記事の著者

新海聡(弁護士)

1961年生まれ。1990年弁護士登録(愛知県弁護士会)。全国の市民オンブズマンから構成される全国市民オンブズマン連絡会議の事務局長(1995年〜現在)。

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