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2018.04.25 議会改革

地方議会のゆくえ(中) ──総務省「町村議会のあり方に関する研究会 報告書」を読む──

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山梨学院大学大学院社会科学研究科長・法学部教授 江藤俊昭

 本稿は、サブタイトルにある総務省「町村議会のあり方に関する研究会 報告書」(以下「報告書」という)を検討することを目的としている。当初、その報告書が対象とする「小規模市町村議会のゆくえ」(あるいは「小規模議会のゆくえ」)を主タイトルとしていた。しかし、本稿全体を読めば理解していただけるように、対象は小規模市町村議会であろうとも、その制度化に当たっての発想はそれに限った問題ではなく、地方議会全体、さらには住民自治の問題にかかわる。そこで、主タイトルを「地方議会のゆくえ」とした。

〈目次〉
はじめに──報告書への期待?──
1 研究会設置の目的と報告書の概要
 (1)研究会設置の背景と目的
 (2)報告書の概要
2 報告書の基本的問題
 (1)「国からの改革」、「集権制」、「行政体制強化」
 (2)「議事機関」の軽視
 (3)2つの議会は住民自治を推進するのか 〔以上前回〕
3 実現可能性からの問題と留意点
 (1)パッケージの要素の連動性の疑問
 (2)集中専門型の非現実性
 (3)多数参画型の非現実性
 (4)なり手不足解消策の非現実性
4 なり手不足を考える上での報告書の違和感
 (1)現場からの声には応えず
 (2)町村総会の非現実性という違和感
 (3)小規模市町村に限定する違和感
 (4)先駆議会が目指す議会 〔以上今回〕
5 なり手不足問題の正攻法
 (1)なり手不足の要因
 (2)なり手不足解消の正攻法
6 小規模議会のゆくえ──さらなる一歩:多様な議会の創造
 (1)なり手不足解消のもう一歩:地方議会間連携と法律改正の提言
 (2)広範な制度改革に──「拡張性」のさらなる拡張を
 (3)全国町村議会議長会や全国市議会議長会等からの異論
むすび──温情主義的改革とは異なるもう1つの改革を

3 実現可能性からの問題と留意点

(1)パッケージの要素の連動性の疑問
 報告書が提起した新しい2つの議会の方向は、それぞれの要素は連動しているというが、その説得的な説明はない。
 連動する可能性があるのは、契約と財産の取得処分の議決事件からの除外と兼業禁止の緩和だけであろう。これとて、契約と財産の取得処分の議決事件からの除外をしなくとも、兼業禁止規定の緩和や、除斥規定の運用によって乗り切れる場合もある。仮に、契約と財産の取得処分の議決事件からの除外と兼業禁止の緩和との連動を模索するとしても、純粋二元代表制を目指す自治体基本構造を創出する自治体全体の問題として考えるべきであって、多数参画型議会だけに限るべきではない。しかも、契約と財産の取得処分の議決事件からの除外が提案される多数参画型の通年議会の運用であっても、首長の専決処分の廃止は提言されていないことから、議論は不十分である。
 契約等の議決事件からの除外と兼業禁止規定緩和との連動を制度化するのであれば、少なくとも次の3点は留意すべきである。
 ① 契約と財産の取得処分の議決権限は、執行にかかわる権限であることから、純粋二元代表制の方向は理論上可能である。しかし、いくつかの留意点がある。まず、議決権の廃止なので、条例の改正とともに住民投票にかけることが必要だろう。その上で、透明性の確保、監査機能の充実とともに、一定規模以上の契約等については住民投票にかけるなどの住民統制が必要となる。
 ② 専決処分(自治法179)の廃止。通年期制、通年議会を開催するのであれば、専決処分は必要なくなる。
 ③ 契約と財産の取得処分が議決の対象になっていることで、首長との緊張関係が生まれていることもある。現在、3議長会が政令基準の削除を提言しており、そのような状況で議決事件から削除することは困難である。
 以上、多数参画型議会を検討する上での論点は、契約や財産の取得処分の議決事件からの除外と連動した兼業禁止の緩和だと思われる。
 多くの議会や住民が、なり手不足の対策として考えているのは、兼業禁止の緩和であろう。具体的にいえば、非営利の農林組合、社会福祉法人といった団体の役員の兼業禁止の廃止であって、すべてではない。それを行えば事足りるのではないか。この点は再度検討したい。
 また、報告書が提案するパッケージのそれぞれの要素の実現性は希薄である。例えば、生活給の保障はどのように実現できるのか、具体的手法は明確ではない。飯綱町議会や北海道浦幌町議会などがさらなる議会改革を進めるために、議員報酬を住民との懇談により検討・努力しながら増額している先進的な取組みは、この報告書からは読み取れない。
 集中専門型に付置される抽選による議会参画員の制度化は、1つの試みとして評価しうるが、その実現性は応諾率、権限、国籍等に起因する問題も抱えている。また、他の住民参加システムも重要であり、議会参画員制度だけを強調するのは制度設計上問題もある。今回提案された法制度による議会参画員とは別に、すでに住民参加システムとして先駆議会では、議会サポーター制度、議会(だより)モニター制度など、多様な展開が運用によってされている。

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江藤俊昭(山梨学院大学大学院社会科学研究科長・法学部教授)

この記事の著者

江藤俊昭(山梨学院大学大学院社会科学研究科長・法学部教授)

山梨学院大学大学院研究科長・法学部教授 博士(政治学、中央大学) 1956年東京都生まれ。 1986(昭和61)年中央大学大学院法学研究科博士後期課程満期退学。専攻は地域政治論。 三重県議会議会改革諮問会議会長、鳥取県智頭町行財政改革審議会会長、第29次・第30次地方制度調査会委員等を歴任。現在、マニフェスト大賞審査委員、議会サポーター・アドバイザー(栗山町、芽室町、滝沢市、山陽小野田市)、地方自治研究機構評議委員など。 主な著書に、『続 自治体議会学』(仮タイトル)(ぎょうせい(近刊))『自治体議会の政策サイクル』(編著、公人の友社)『Q&A 地方議会改革の最前線』(編著、学陽書房、2015年)『自治体議会学』(ぎょうせい、2012年)等多数。現在『ガバナンス』(ぎょうせい刊)連載中。

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