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2017.01.13 議員活動

政務活動費に対する市民の不信感にどう対処するか

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 政務活動費の領収書や支出関係書類の情報開示が質的にも制度的にも進めば、議員が市民の目を意識することになり、政務活動費の不正支出をある程度は防ぐことができよう。また、政務活動費の無駄な支出を防止する試みとして、政務活動費の前払いをやめ、提出された領収書をチェックした上で、年度末に議会事務局が支払いをする「後払い方式」をとる京丹後市などの自治体も現れている。とはいうものの、支給額が年額1人当たり500万円を超える議会が都道府県で10、政令市で5つもある中で、十分なチェックができるか疑問だ。
 しかも、私たち市民が、政務活動費の関連資料の開示を受けた場合に感じる疑問の多くは、その支出を政務活動費という税金で賄う必要はあるか、という点だ。例えば、議員の事務所家賃に対して支出される政務活動費は、実際には議員の当選を目的とした政治活動への支出ではないか、という疑問だ。あるいは、政務活動費の使途基準に「広報、広聴費」の項目があるからといって、地方自治体の政策や地方自治制度の研究に全く関係しないお笑い芸人の招へいや地方の歴史研究に政務活動費を支出することなどは許されるか、といった事例も2016年に議論となった。2015年12月24日の名古屋高裁判決(判例時報2296号42頁)は、条例に定めのない事務所賃借料や自動車リース料への政務調査費の支出について、政務調査活動に必要であることの立証を議員に求め、様々な陳述書等の資料を精査した上、どの議員の支出も政務調査活動に必要とはいえない、と判断して、事務所賃借料と自動車リース代全額を愛知県に返還する義務を認めた。この判決については、会派側は、政務調査活動を狭く捉えすぎている、と批判したが、最終的に高裁の判断は最高裁でも維持された。

 こうした、政務活動費が実際に役立っているか、という点をチェックするためには、支出項目と領収書の存在だけをチェックし、実際に議会活動にどのように役立てたかを問わない、という現状の制度にメスを入れる必要がある。翻ってみると、本来、政務活動費は補助金だ。調査研究等を補助事業と位置付けた、抜本的な見直しが必要だ。そもそも、我々がある活動に自治体や企業から補助金を受けようとする場合には、最初に企画書と予算の見積りを提出するのが一般的だ。これに対し、予算の見積りに過大な点があれば、修正した申請をせざるを得ない。政務活動費についてもこれに倣った制度を設けるのはどうだろうか。例えば、政務活動費の給付を希望する議員や会派は、年度初めに調査研究等のテーマとこれに要する費用の見積りを記載した交付申請書を議会に提出する。この交付申請書は市民に開示するとともに、例えば、市民と有識者とで組織される第三者委員会を開催し、ここに議員や会派の代表者が出席し、申請内容について質疑応答をする。これを経て、第三者委員会が承認した範囲で議員や会派は調査研究を行い、年度末に調査研究等を実施したことの根拠資料とともに領収書の提出をする。事前の承認内容との整合性や領収書のチェックを経て、政務活動費が支給される、といった方法である。実施の根拠資料がなければ、領収書があっても支給はされないし、テーマを提示できない議員には交付されないが、これはむしろ、市民感情に適合するはずだ。そして何よりも、政務活動費を用いて議員や会派が何をしたいのかが事前に市民に公開されることによって、議員の活動に市民が関心を持ち、議会が活性化することにつながることが期待できる。

 ここ数年、政務活動費の不正支出が立て続けに大きな話題となっている。しかし、政務活動費に対する関心を、不正支出の追及にとどめたのでは、事の本質を見失う。政務活動費はもともと、議会活動を活性化することを目的として立法化されたはずだ。そうであるなら、政務活動費を用いて、議員がどのような議会活動を行ったのかを市民が容易に理解できるようにする工夫が必要ではないだろうか。そのための第一歩として、まずは議員が、政務活動費の支出とこれを用いた議会活動の成果との関連が分かるよう工夫した詳細な報告書を作成し、それを市民に伝える努力を行うことが肝要ではないだろうか。

この記事の著者

新海聡(弁護士)

1961年生まれ。1990年弁護士登録(愛知県弁護士会)。全国の市民オンブズマンから構成される全国市民オンブズマン連絡会議の事務局長(1995年〜現在)。

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