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2016.04.11 議会改革

第31次地方制度調査会と住民自治(上)

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山梨学院大学大学院社会科学研究科長・法学部教授 江藤俊昭

 2016年3月16日、第31次地方制度調査会の答申(「人口減少社会に的確に対応する地方行政体制及びガバナンスのあり方に関する答申」)が出ました。地方議会制度や監査委員制度、従来の議会改革との関連や地方自治法の今後の改正動向等につき、江藤俊昭山梨学院大学大学院社会科学研究科長・法学部教授にご寄稿いただきました。2回に分けて掲載します。

目次
(上)
1 31次地制調答申をめぐる評価
2 諮問と答申の構図
3 答申に含まれている議会改革の到達点Ⅰ
  ――三議長会からの提案に関する答申の制度改革――
(下)
4 答申に含まれている議会改革の到達点Ⅱ
5 議会と監査委員制度改革
6 地方制度調査会のもう一歩

1 31次地制調答申をめぐる評価

 第31次地方制度調査会(以下「31次地制調」という)答申が総会を経て(2016年2月29日)、安倍晋三首相に手渡された(同年3月16日)。タイトルは「人口減少社会に的確に対応する地方行政体制及びガバナンスのあり方に関する答申」である。「地方消滅」、「地方創生」への対応としての「地方行政体制及びガバナンス」を探るものである。後述するように、タイトルは大幅に異なるが、最近では広域連携については30次地制調答申(「大都市制度の改革及び基礎自治体の行政サービス提供体制に関する答申」)、またガバナンス(とくに議会制度や監査委員制度)については29次地制調答申(「今後の基礎自治体及び監査・議会制度のあり方に関する答申」)とも重なる部分も多い。
 答申についての評価は今後盛んに議論されることになるであろう。答申案の段階では、「存在感薄れる地制調」(『日本経済新聞』2015年12月7日付)、といった論評にとどまらず、答申の重要な制度改革内容である住民訴訟に関する抜本的な批判(阿部泰隆「地方制度調査会における住民訴訟制度改正の検討について」『自治研究』92巻1号(2016年1月号))も行われていた(1)。また、本稿で指摘するように、答申は、従来の答申内容の延長の論点も多いし、地方自治法(以下「自治法」という)改正に結びつく論点は多いとはいえない。
 こうした冷めた見方、批判などは考慮すべきだと思われるが、同時に活用できる論点も多い(2)。本誌の読者がとりわけ関心を持つ議会にかかわる提案は、法改正に至るものは少ない。とはいえ、議会改革の到達点や動向を探る重要な提案も含まれている。逆にいえば、この中には法改正を待たずとも可能な内容も多いが、議会改革を進める視点から31次地制調答申を読むこともできる。
 なお、答申に含まれる議会が活用できる提案は、何も地方制度調査会が発見したものではない。すでに先駆議会が悩みながら実践した実績に基づいている。したがって、議会改革という住民自治の実践が広がり、地制調でも認知されていることに留意していただきたい。

 以下、次の論点を議論する。

・31次地制調の諮問事項と答申内容(法改正の想定、読む際の留意点):2章
・三議長会からの提案とその対応(ほとんどは反映していない答申):3章
・答申に含まれている議会改革の到達点と問題点(広がった議会改革の実践の認知、議会事務局改革の問題点、幅広い人材の確保についての具体性のなさ):4章
・監査委員制度への評価(議選の監査委員制度の選択制の導入の提案を含めて、監査機能の充実を考える):5章
・自治法内での改革を超える視点の重要性:6章

2 諮問と答申の構図

(1)諮問事項と答申の構図
 31次地制調が設置されたのは、2014年5月15日である。首相による諮問事項は次の通りであった。

表1 31次地制調の諮問事項表1 31次地制調の諮問事項

 31次地制調が設置された時期は、一方では「地方消滅」というキーワードが全国を席巻した時期であった。「増田レポート」が提出され「消滅可能性都市」が実名で紹介され、「まち・ひと・しごと創生法」が制定されたのと同時期である。
 他方では、新たな時代の「地方行政体制及びガバナンスのあり方」に関する改革はすでに行われていた時期でもある。連携協約によって、広域連携(自治体間連携・補完)は新たな段階に突入している。また、議会基本条例制定自治体数は、着実に増加し約800までに至り、新たな議会像をめぐる議論と改革が行われていた。
 こうした時期の課題に応える答申が期待されていた。しかし、後に確認するように、法改正にまで至らないさまざまな提案によって、「地方創生」の施策にとって、自治法改正が必ずしも必須ではないことは明らかになった。とはいえ、答申の項目は、諮問の項目に沿っているわかりやすい構成となっている。第1章が基本的な視点、第2章が人口減少社会に対応する地方行政体制、第3章が人口減少社会に対応するガバナンス、といった構成である(表2左欄は目次)。
 つまり、今日の人口減少社会に対する対応として、地方行政体制の確立、ガバナンスの確立を探るという問題構成になっている。「地方行政体制を確立することが、人口減少対策を的確に講じることにつながる」、「適切な役割分担によるガバナンスは、地方公共団体に対する住民からの信頼を向上させ、人口減少社会に的確に対応することにも資する」というものである。
 地方行政体制とガバナンスの確立について答申の概要については、表2を参照していただきたい(表2右欄は答申の論点)。この答申から法律(自治法)改正に直接結びつく事項はそれほど多くはないと思われる。「次の国会以降に提出」(190国会(2016年、常会)以降)とされている。下線を付しているのは、現時点では自治法改正の可能性にとどまるが、それを確認しておきたい。これらの事項のうち法改正に至らないものもあるであろうし、他の事項が法改正になる可能性もある。議論の末に答申に盛り込まれ、現時点で想定される法改正の事項の参考として理解してほしい。

表2 31次地制調答申の目次と答申の論点(概要)表2 31次地制調答申の目次と答申の論点(概要)
 

(2)31次地制調答申を理解する上での留意点
 答申を読む上での基本的視点を確認しておきたい。

① 現状認識と提案の射程
 「人口減少社会」への対応という視点は重要である。「地方圏において、早くから人口減少問題と向き合ってきた市町村」の存在を的確に把握していることも評価してよい。とはいえ、答申に見られるように問題解決を法改正によるものか、運用によるものか、それともこうした制度改革ではなく他の施策で行うべきか冷静に判断すべきであろう。

② 行政サービス主体の重層性=「総合行政主体」論からの離脱
 市町村の重要性が指摘され、いわゆるフルセット主義に基づく「総合的な行政主体」論は採用されていない。「住民に身近な行政サービスを総合的に提供する役割を有する市町村」という文言があるが、この「総合的」の意味は、単独で担うべきということではない。そもそも、総合性とは、行政サービスに関して政策過程全般にわたって自治体がかかわり、都道府県も含めて自治体間連携・補完によって提供することである(3)。「総合」の意味の逸脱としての「総合的な行政主体」論は採用されず、その是正が行われている。「あらゆる行政サービスを単独の市町村だけで提供する発想は現実的ではなく」という認識に立っている。ここから、後述するように広域連携や地方独立行政法人などの外部資源の活用が強調されている。すでに、29次地制調答申で市町村合併は「一区切り」となっているが、市町村合併は、三大都市圏で合併は進んでいないことを踏まえた連携のあり方を、また市町村合併により議員定数が大幅削減している状況の説明の中で指摘されているだけである。
 市町村合併の推進が他人事であり、一昔前の出来事として認識しているように読めるが、自治の現場では、合併によって生じた問題(支所の廃止、周辺地域での大幅な人口減少等)に悩み苦しんでいる住民・自治体もあることを忘れるべきではないし、そのことに対する議論の欠如は大いに問題である。

③ 市町村の基礎原則からの都道府県による補完
 市町村の都道府県による補完において、判断要素や補完の対象となる事務・補完の方法についての指摘は、30次地制調答申にも指摘はあったが具体的となっている。判断要素は、市町村と都道府県の「合意」が前提となること(市町村ごとに補完される事務が異なる)、対象となる事務について、都道府県が同種の事務を行っている場合(容易:道路等のインフラ、地域振興、地域保健等)、分担して処理している場合(一定の時間を要する:介護保険、義務教育等)、都道府県が分担していない場合(慎重に検討:住民基本台帳、戸籍等)、に区分されている。27次地制調の議論の中で提起された「事務配分特例方式」(西尾私案)も都道府県による補完であるが、それが人口規模による「強制」であるのに対して、31次地制調答申では「合意」を強調していること、および補完される対象の具体性の明示により大きな異論は見られない。なお、都道府県による補完が行われた後で、市町村がその補完を解除する手法は明確ではない。それについては定める必要がある。

④ 住民訴訟の改革の問題
 ガバナンスについて議会と首長の関係、議会制度、監査委員制度は、後述する。ここでは、住民訴訟の四号訴訟の改革の論点についてのみ確認しておこう。損害賠償責任による首長・職員への委縮効果等を強調して、その低減等のために、軽過失の場合における損害賠償責任の首長や職員個人への追及のあり方を見直し(答申自体では明確ではないが、過失責任主義を重過失責任主義に変更(軽過失免責)、あるいは首長等の個人が負担する損害賠償額に限度額を設けること(あるいはその両方)が想定できる)、裁判所により財務会計行為の違法性や注意義務違反の有無が確認される工夫が示されている。また、損害賠償請求権の訴訟係属中の放棄の禁止が提起される。さらに、損害賠償請求を認める判決確認後、請求権を放棄する場合は監査委員等の意見聴取を必要とすることも提案されている。ただし、これについては、批判も見られる。しかも、抜本的なものである(4)。これらの論点を踏まえて慎重に議論すべきである。

3 答申に含まれている議会改革の到達点Ⅰ――三議長会からの提案に関する答申の制度改革――

 この答申を契機とした議会改革をめぐる法改正はほとんどないと想定される。全国都道府県議会議長会・全国市議会議長会・全国町村議会議長会は、31次地制調に対して提案(「地方制度調査会における重点検討項目について」)を行ってきた(表3左欄)。これについての大きな進展があったとはいえない(表3右欄)。

表3 三議長会の提案と地制調の対応(答申内容)表3 三議長会の提案と地制調の対応(答申内容)

 この中で、法改正に結びつくのは、「決算不認定の場合の首長の対応措置について」である。重要な制度改革である。ただし、すでに専決処分の不認定の場合の首長の対応の法改正もされており、それに準じたものである。専決処分の対象として、副知事および副市町村長の選任を対象から除外したとともに、条例・予算の専決処分について議会が不承認としたときは、首長は必要と認める措置を講じ、議会に報告する改正である。決算の不認定の場合も同様な措置が講じられるのは当然であろう。
 なお、「その理由を示した場合については」と限定を付しているのは、議会側にも説明責任を求めているためである。わざわざ答申に念を押すように書き込まなければならないこと自体問題(説得的な理由もなく不認定が行われる場合があるのか、あるいは首長側での議会不信があるのか)である。
 ところで、三議長会からの提案は、議会の権限や権威を強化する意味で住民自治を進める上でも妥当なものであろう。とはいえ、より重要なことは、首長が制定する規則は条例に基づくことを明確化すべきであろう。憲法では、「この憲法及び法律の規定を実施するために、政令を制定すること」(憲法73⑥)となっているのに対して、自治法では「普通地方公共団体の長は法令に違反しない限りにおいて、その権限に属する事務に関し、規則を制定することができる」(自治法15①)となっている。ようするに、規則は条例に根拠を有するようにすることが必要である。いわば政令と法律の関係と同様な〈条例―規則〉体系を創り出すことは不可欠である(5)
 三議長会が提案した事項だけではなく、投票率の低下・無投票当選者率の増加などへの対応、選挙制度改革なども議論する必要がある。31次地制調答申では、このいわば地方政治の活性化について、指摘はあるものの具体策はない。主に自治法を対象とした審議会となってきたためということもあるのであろうが、地方政治、地方自治にとっての重要な問題についての熱意に欠けているといわざるを得ない。以下、31次地制調答申における議会をめぐる制度改革論を検討することにしたい。

―この続き(下)は4月25日更新予定です(編集部)


(1) 従来の議論や団体からの要望等を考慮した体系的な解説として、渕上俊則「第31次地方制度調査会の調査審議事項について~人口減少下における持続可能な形での行政サービスの提供とガバナンスの充実強化」『地方自治』818号(2016年1月号)、参照。
(2) 答申が確定する総会において、専門小委員会委員から今回の答申案は、専門小委員会の全会一致のものではないという「異例」の発言が行われ(総会では地方6団体や国会議員の委員の発言に終始することが一般的)、専門小委員会の議論の中では、専門ではない、といった枕詞や、勉強になったなどの感想が聞かれた。これらのことは、本文で指摘した冷めた見方や批判の背景にあったと思われる。ちなみに、最後の専門小委員会から総会まで、また総会から首長への答申まで、かなりの時間を要したことも珍しい。
(3) たとえば、「『総合的』とは、関連する行政の間の調和と調整を確保するという意味の総合性と、特定の行政における企画・立案、選択、調整、管理・執行などを一貫して行うという総合性との両面の総合性を意味する」(松本英昭『新版 逐条地方自治法〈第7次改訂版〉』学陽書房、2013年、14頁)。
(4) 阿部、前掲論文、参照(以下括弧内の数字は頁数)。さまざまな論点が提示されているが、「権利放棄議決を制限するという方に重点が置かれて」説明されていること(24頁)、「裁判所の事後的判断に恐れをなして、委縮するから必要な施策も講じられないので、過失があっても免責してくれというのであれば、法治国家における首長の資格はない」(「長等の適任者の確保に関しては、法令無視のものが委縮して、選挙に出ないのであれば、本当に法治国家にふさわしいものが当選するので望ましい」)(11頁)、「議会に放棄の権限を認めるのは一見民主主義に適合するように見えるが、逆である。住民訴訟は、議会の多数派が違法な予算支出を認めたり、首長を監督しなかった違法に対して、少数派が提起して民主主義と法治主義を回復しようとするものであるから、そこで違法とされたのに、多数派の議会の権利放棄を裁量として許容するのは、多数派の横暴を招来し、民主主義を否定するものである」(21-22頁)、などが示されている(最後の論点は、筆者自身「逆」の解釈をしていたが、改めて考える必要のある論点である)。阿部氏は、31次地制調委員にこの論文と同様な内容の文書を提出している。
 また、日本弁護士連合会は、31次地制調の動向を見ながら「住民訴訟制度の見直しについては、唯一『見直しの方向性』が具体的に提起されており、早急に立法化される可能性がある」として軽過失免責に対して反対を表明している(「地方公共団体の長等の責任追及について、軽過失を免責する方向での住民訴訟制度の見直しに反対する意見書」)。当連合会は、専門小委員会の議論が終了した1月26日付でこの意見書を総務大臣および31次地制調委員に提出している。
(5) 自治法によって〈条例―規則〉体系を確立する必要がある。西尾勝30次地制調会長が常に指摘している論点である(たとえば、第8回全国市議会議長会研究フォーラム(旭川市)での基調講演(報告書))。それ以前でも、できるだけ条例に移動させる実践は必要である。法改正を待たなくとも、「条例の規則への委任事項を審査し、重要なものは確認的議決をする手続を確立する」、「規則に委任した基本事項について点検し直し、必要なものは条例に戻す作業を進める」ということはできる(第2次地方(町村)議会活性化研究会『分権時代に対応した新たな町村議会の活性化方策~あるべき議会像を求めて~』(最終報告)2006年、36-37頁)。

江藤俊昭(山梨学院大学大学院社会科学研究科長・法学部教授)

この記事の著者

江藤俊昭(山梨学院大学大学院社会科学研究科長・法学部教授)

山梨学院大学大学院研究科長・法学部教授博士(政治学、中央大学)。 1956年東京都生まれ。1986(昭和61)年中央大学大学院法学研究科博士後期課程満期退学。専攻は地域政治論。 三重県議会議会改革諮問会議会長、鳥取県智頭町行財政改革審議会会長、第29次・第30次地方制度調査会委員等を歴任。現在、マニフェスト大賞審査委員、議会サポーター・アドバイザー(栗山町、芽室町、滝沢市、山陽小野田市)、地方自治研究機構評議委員など。 主な著書に、『続 自治体議会学』(仮タイトル)(ぎょうせい(近刊))『自治体議会の政策サイクル』(編著、公人の友社)『Q&A 地方議会改革の最前線』(編著、学陽書房、2015年)『自治体議会学』(ぎょうせい、2012年)等多数。現在『ガバナンス』(ぎょうせい刊)連載中。

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