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2016.04.11 議会改革

第31次地方制度調査会と住民自治(上)

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3 答申に含まれている議会改革の到達点Ⅰ――三議長会からの提案に関する答申の制度改革――

 この答申を契機とした議会改革をめぐる法改正はほとんどないと想定される。全国都道府県議会議長会・全国市議会議長会・全国町村議会議長会は、31次地制調に対して提案(「地方制度調査会における重点検討項目について」)を行ってきた(表3左欄)。これについての大きな進展があったとはいえない(表3右欄)。

表3 三議長会の提案と地制調の対応(答申内容)表3 三議長会の提案と地制調の対応(答申内容)

 この中で、法改正に結びつくのは、「決算不認定の場合の首長の対応措置について」である。重要な制度改革である。ただし、すでに専決処分の不認定の場合の首長の対応の法改正もされており、それに準じたものである。専決処分の対象として、副知事および副市町村長の選任を対象から除外したとともに、条例・予算の専決処分について議会が不承認としたときは、首長は必要と認める措置を講じ、議会に報告する改正である。決算の不認定の場合も同様な措置が講じられるのは当然であろう。
 なお、「その理由を示した場合については」と限定を付しているのは、議会側にも説明責任を求めているためである。わざわざ答申に念を押すように書き込まなければならないこと自体問題(説得的な理由もなく不認定が行われる場合があるのか、あるいは首長側での議会不信があるのか)である。
 ところで、三議長会からの提案は、議会の権限や権威を強化する意味で住民自治を進める上でも妥当なものであろう。とはいえ、より重要なことは、首長が制定する規則は条例に基づくことを明確化すべきであろう。憲法では、「この憲法及び法律の規定を実施するために、政令を制定すること」(憲法73⑥)となっているのに対して、自治法では「普通地方公共団体の長は法令に違反しない限りにおいて、その権限に属する事務に関し、規則を制定することができる」(自治法15①)となっている。ようするに、規則は条例に根拠を有するようにすることが必要である。いわば政令と法律の関係と同様な〈条例―規則〉体系を創り出すことは不可欠である(5)
 三議長会が提案した事項だけではなく、投票率の低下・無投票当選者率の増加などへの対応、選挙制度改革なども議論する必要がある。31次地制調答申では、このいわば地方政治の活性化について、指摘はあるものの具体策はない。主に自治法を対象とした審議会となってきたためということもあるのであろうが、地方政治、地方自治にとっての重要な問題についての熱意に欠けているといわざるを得ない。以下、31次地制調答申における議会をめぐる制度改革論を検討することにしたい。

―この続き(下)は4月25日更新予定です(編集部)


(1) 従来の議論や団体からの要望等を考慮した体系的な解説として、渕上俊則「第31次地方制度調査会の調査審議事項について~人口減少下における持続可能な形での行政サービスの提供とガバナンスの充実強化」『地方自治』818号(2016年1月号)、参照。
(2) 答申が確定する総会において、専門小委員会委員から今回の答申案は、専門小委員会の全会一致のものではないという「異例」の発言が行われ(総会では地方6団体や国会議員の委員の発言に終始することが一般的)、専門小委員会の議論の中では、専門ではない、といった枕詞や、勉強になったなどの感想が聞かれた。これらのことは、本文で指摘した冷めた見方や批判の背景にあったと思われる。ちなみに、最後の専門小委員会から総会まで、また総会から首長への答申まで、かなりの時間を要したことも珍しい。
(3) たとえば、「『総合的』とは、関連する行政の間の調和と調整を確保するという意味の総合性と、特定の行政における企画・立案、選択、調整、管理・執行などを一貫して行うという総合性との両面の総合性を意味する」(松本英昭『新版 逐条地方自治法〈第7次改訂版〉』学陽書房、2013年、14頁)。
(4) 阿部、前掲論文、参照(以下括弧内の数字は頁数)。さまざまな論点が提示されているが、「権利放棄議決を制限するという方に重点が置かれて」説明されていること(24頁)、「裁判所の事後的判断に恐れをなして、委縮するから必要な施策も講じられないので、過失があっても免責してくれというのであれば、法治国家における首長の資格はない」(「長等の適任者の確保に関しては、法令無視のものが委縮して、選挙に出ないのであれば、本当に法治国家にふさわしいものが当選するので望ましい」)(11頁)、「議会に放棄の権限を認めるのは一見民主主義に適合するように見えるが、逆である。住民訴訟は、議会の多数派が違法な予算支出を認めたり、首長を監督しなかった違法に対して、少数派が提起して民主主義と法治主義を回復しようとするものであるから、そこで違法とされたのに、多数派の議会の権利放棄を裁量として許容するのは、多数派の横暴を招来し、民主主義を否定するものである」(21-22頁)、などが示されている(最後の論点は、筆者自身「逆」の解釈をしていたが、改めて考える必要のある論点である)。阿部氏は、31次地制調委員にこの論文と同様な内容の文書を提出している。
 また、日本弁護士連合会は、31次地制調の動向を見ながら「住民訴訟制度の見直しについては、唯一『見直しの方向性』が具体的に提起されており、早急に立法化される可能性がある」として軽過失免責に対して反対を表明している(「地方公共団体の長等の責任追及について、軽過失を免責する方向での住民訴訟制度の見直しに反対する意見書」)。当連合会は、専門小委員会の議論が終了した1月26日付でこの意見書を総務大臣および31次地制調委員に提出している。
(5) 自治法によって〈条例―規則〉体系を確立する必要がある。西尾勝30次地制調会長が常に指摘している論点である(たとえば、第8回全国市議会議長会研究フォーラム(旭川市)での基調講演(報告書))。それ以前でも、できるだけ条例に移動させる実践は必要である。法改正を待たなくとも、「条例の規則への委任事項を審査し、重要なものは確認的議決をする手続を確立する」、「規則に委任した基本事項について点検し直し、必要なものは条例に戻す作業を進める」ということはできる(第2次地方(町村)議会活性化研究会『分権時代に対応した新たな町村議会の活性化方策~あるべき議会像を求めて~』(最終報告)2006年、36-37頁)。

江藤俊昭(山梨学院大学大学院社会科学研究科長・法学部教授)

この記事の著者

江藤俊昭(山梨学院大学大学院社会科学研究科長・法学部教授)

山梨学院大学大学院研究科長・法学部教授博士(政治学、中央大学)。 1956年東京都生まれ。1986(昭和61)年中央大学大学院法学研究科博士後期課程満期退学。専攻は地域政治論。 三重県議会議会改革諮問会議会長、鳥取県智頭町行財政改革審議会会長、第29次・第30次地方制度調査会委員等を歴任。現在、マニフェスト大賞審査委員、議会サポーター・アドバイザー(栗山町、芽室町、滝沢市、山陽小野田市)、地方自治研究機構評議委員など。 主な著書に、『続 自治体議会学』(仮タイトル)(ぎょうせい(近刊))『自治体議会の政策サイクル』(編著、公人の友社)『Q&A 地方議会改革の最前線』(編著、学陽書房、2015年)『自治体議会学』(ぎょうせい、2012年)等多数。現在『ガバナンス』(ぎょうせい刊)連載中。

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