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2016.03.25 議員活動

現職議員が語る二元代表制のリアル(上)

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 @giinnaviが1周年を迎えました!
 昨年3月、本誌のウェブマガジン化とともに本格稼働した公式ツイッターアカウント「@giinnavi」。タイムラインに刻々と流れるのは、議員の言葉や日常、各地の議会の動き、家庭や地域のワンシーン、そして議員の何十倍、何百倍もの市民が見守る様子や、炎上する様子。それは140字に切り取られた議員のリアルタイムの記録でした。編集部では、議員の実像をそのまま伝えてみようと、連日あらゆる党、あらゆる地域の議員のつぶやきをリツイートすることにしました。この1年で、その数は3万2,000、フォロワーは1,600余に。あるときバックナンバー記事を紹介したところ、一晩で1万以上のインプレッションがカウントされたときには素直に驚くとともに、「力のある情報」は、人と人を「つなげる」ことができると確信しました。
 今回の座談会は、このビッグデータの中から、編集部が特に気になる発信を続ける議員にお集まりいただきました。すると、皆さんにはある共通点があったのです――。

20160325_9_1

【参加者】左から
〇黒川滋さん(朝霞市議会議員(埼玉) 2期)
〇鷹羽登久子さん(大府市議会議員(愛知) 3期)
〇半田伸明さん(三鷹市議会議員(東京) 4期)

「無風」「無投票」に石を投げたら

――皆さん、本日は3月議会でお忙しい中お集まりいただきありがとうございます。今回の企画は、①多選議員で、②ツイッターを単なる「選挙対策」以上に利用し、③つぶやきの中に「政策」が見える、そんな議員にお集まりいただきました。地域も経歴もばらばらな3人の皆さんには、実はある共通点があったのです。
 その共通点とは、「議会内少数派」ということ。日々の議会で向かい風にさらされながらも、選挙になると各人の「政策」に支持者が確実についている。外から見えにくい、地方政治の密室に、SNSを武器に風穴を開ける議員の存在に、「自治」や「選挙」の未来の姿が示されているのではないか。そこで、本日はツイッターの小さな窓から見えてきた「地方政治」のリアルについて、本音で語っていただきたいと思います。
 まず、外から見ていた「政治」と、現場で見た「政治」にどんなギャップがあったか、お聞かせください。
鷹羽 初めの頃、「大人のいじめ?」と思うようなことがいろいろありました。これでは子どものいじめはなくならないはずです。今はそうではないですが、当時は徹底して疎外されました。誰の紹介も推薦も受けずいきなり手を挙げた、議員のネットワークにもともとかかっていなかった人間がそこにいることが、受け入れられなかったのかな。
 今になって分かるのですが、地方議会は素性の知れない人間に対しては拒絶反応を持つのですね。正直にいえば、当時の私は議会というものに具体的なイメージすら持っていなかった。典型的無関心市民でした。たまたま「今回の選挙は無投票になりそうだ」と聞いて、それが権力の中にいる人たちの「談合」のように見えたので、そこに石を「ポチャン」と投げたいと思って出馬しました。無投票といわれていたくらいですから、誰かが手を挙げれば予定調和の人たちがたまげるだろう。私にしてみれば、それだけで最初の目標は達成したと思っていました。
 ただ議会の外からでは、談合だ何だといくら騒いでも始まらないので、議会では市民の一般的な感覚と議会が、どれだけかい離しているのか検証しようと思っていました。

鷹羽登久子さん鷹羽登久子さん

控室では仕事ができない?!

――黒川さんはいかがでしたか。
黒川 初めて議員控室に通された際に、ソファーだけあって執務机がなかったときには驚きましたね。私は、古い仕事机でよいから使わせてとお願いしたのですが、事務局長から「ここは控室なので、仕事をする場所でありません」と言われました。そこで、改めて控室の内規を見たら、二度びっくり。「16時半までに退室しなければならない」と書いてある。「何じゃこれは?」と(笑)。こちらは、「市政チェックするぞ、見てやるぞ。市の政治文化を変えるんだ」と仕事をしに来たのに。職員にとっては、市庁舎に議員が常駐されることは、鬱陶しいことなのです。
 前の職場の労働組合の事務局の仕事では、清濁併せ呑(の)むことが多く、そうしようかと思いましたが、近隣市の議員に「あなたの持ち味はいい子ということではないよ。言うべきことを言った方がいい」と言われました。逆に「もっといい人ぶらなきゃ政治的には出世できないぞ」と、政治家仲間からアドバイスを受けることもあります。
 例えば「うちの駅に急行を止めてくれ」という意見に、みんなが「そうだ、そうだ」と言ったとします。けれども沿線レベルで全体の利益を考えたら、それは得策でも何でもない。そうしたドメスティックな都合だけの議論に、少数派とはいえ世の中そんなことではない、もっと違う道を探るべきときちんと言い切ることが、私たちに対して期待されていると思っています。
 ある政党が、絶対これは正しいと「いいこと」を言ったとします。反対する余地がない。だけど、何か変だぞと思ったときには、私は疑問をつけます。それは議会では感情を逆なですることもあると思います。黒川という議員は市民の期待を裏切ると、ビラなどに書かれてしまうこともありました。

黒川滋さん黒川滋さん

二元代表制のリアル

――半田さんから見た地方議会の実情はいかがでしょうか。
半田 ずばり「与野党体制」の存在です。地方議会は選挙で選ばれた議員と、同じく選挙で選ばれた首長による「二元代表制」です。首長は、与党の代表ではありません。本来は、首長はどの議員からの問題提起も等しく受け止めなければならない。しかし、現実の地方議会で起こっていることは、国会の議院内閣制と同じ、「数の力」が全てです。
 新人当時は不思議に思ったものですが、議員自身が「与党入り」を目指して会派や首長に擦り寄る状況がよく分かりました。その時点で、「与党でない議員の存在価値は、ほぼないに等しい」と分かった。そうした現状に向き合い、与党でない議員は自己の存在価値をどこに見いだすのか、それが問われていると思いました。つまり、まず与党でなければ政策の実現を考えること自体が間違っている。
――とても刺激的なご意見ですね。
半田 結局、政策実現できる議員は与党、もっといえば市長なわけです。我々議員にできることは、「政策を実現してください」と市長に頭を下げてお願いすることだけです。だから、少数派の議員がいくらよい政策を実現しようと発言しても、簡単に通るわけがない。そこははっきりと、「夢から覚めろ」ということですね。
 「政策を実現した」というのは、結局、政治家の自己満足なのです。極端な言い方をすれば、実現してほしい政策を、私が言う必要はない。誰か与党に言わせればいい。
 そもそも行政は強大な権限を持っている。政府が社会の秩序維持にとどまらず、一定の理念の実現を目指して国民の生活、経済活動のあり方に積極的に介入しようとする「行政国家」という概念があります。本来的には国のことを指していうのですが、自治体も似たようなことがいえます。
 例えば三鷹市の場合、トップである市長に職員1,000人弱がついています。対する議員には部下がつくわけではありません。「議会事務局職員がいるではないか」と言う方もいらっしゃいますが、「事務局職員の人事を決定するのは誰か?」と考えたら答えは簡単です。つまり、議員がはじめから信頼できるスタッフや部下というのは、ほとんどゼロというのが大前提です。
 いうまでもなく、三鷹市議会の事務局職員はみな優秀です。助けてくださる方はいっぱいいらっしゃいますよ。例えば、何か調査で23区の情報を集めてくれといったら、ぱっとやってくださいます。ただ、そういったことをやる、やらないという話と、本来的に行政と議会とが持つ権限の差、力量の差、キャパシティーの差、そういったことを考えた場合に、たかだか一議員が政策を提案すること自体がおこがましいんですね。
 「政治の世界は嫉妬とねたみの世界だ」と、これは私の言葉ではありません。以前、木村拓哉さんが総理大臣になるという「CHANGE」(フジテレビ、2008年)というドラマがありましたが、石黒賢さんが演じる国会議員が発したセリフです。政策を提案して議論をする。議会とはそういうものだというのは、あくまで学者の概念で、そういう概念の世界から脱皮することこそが、最も必要だと思います。

半田伸明さん半田伸明さん

きれいごとより「怒り」がエネルギー

――鷹羽さんは、少数派の議員は何を「武器」として戦えばよいとお考えですか。
鷹羽 規則を逆手にとるということですね。議会運営や手続に瑕疵(かし)がない限り、正式な場での発言は、たとえどんな発言でもそれをとがめだてする理由はないということです。いわゆる議会の原則と、明文化されたルールにのっとっている限りは、たとえ腹の中では「こいつ、こんなことを言いやがって」とか「こんなアクションしやがって」と思われたとしても、それを止めることはできないと、経験則から学んでいったのです。
 議会での正式な発言の機会を最大限に使って、そこで正面から言うべきことを言う。すると、たとえ与党対野党の構造の中でも、聞き捨てならなくなってくるのです。だから、それが結果として武器になったのかなと思います。
――そうしたルールは、会派などで教わったのですか。
鷹羽 いいえ、はじめから全く1人。そもそも、会派は考え方が一致する人たちでつくるものですよね。当選して2、3日のうちに、会派の考え方の説明も受けていない状態で、誰と手が組めますかといわれても、組めるわけがない。
――新人議員にとって、その最初の1週間が大変重要だと聞いています。議員になる前の活動や支援団体などはありましたか。
鷹羽 いいえ、市民活動も何もやっていませんでした。生活のためにダブルワークで、「ひーこら」働いていた人間ですから。そんな時間もなかったのです。
 よく議員は、「こんな社会にしたい」、「こんなまちづくりをしたい」という理想を掲げて、それに向かってまい進していくように語られますが、私は人間の行動の一番のエネルギーは「怒り」だと思うのです。遠い理想を語るより、目の前の現実に「このやろう!」という思いの方が間違いなくエネルギーが強い。私は「このやろう!」ベース(笑)。
 そうはいっても疑問に思ったことを、主観や感情論でおかしいと非難するだけでは、ただの言いがかりと同じです。なぜ、それがおかしいかという論拠を示すために調べて回って、世間一般との対比から課題はここにある、という説明を素直にやっていったら、だんだん皆さん耳を傾けてくれるようになりました。
――選挙はどうされましたか。
鷹羽 選挙活動のときは、道端で井戸端会議的に話をしていました。
 例えば、大府市はえらい派手な市役所が建っているのですが、市民からは「あんなものを建てちゃっていいの?」という声が上がっていました。その最終決定をしたのは、ほかでもない選挙で選ばれた議員なのですよと。「何でそんなことが起こるのか、私は知りたいし、もしそんなことがまた起こるとしたら、そうならないように行動したい。きちんと経過も分かるように説明をさせてもらいたい」と、その辺で見かけたおばちゃんとマイクを使わずに話をしていたのです。

記録し拡散するブログのパワー

――黒川さんの最大の武器は何ですか。
黒川 市議会議員になる前から、ブログを通して情報発信を継続してきたことです。政策を簡単に実現するなんていうことは、やはり与党でないとできません。しかし、時間をかけると漢方薬みたいにじわじわと効いてくることがあります。
 ブログを始めた頃は、地域福祉計画の導入を市民参加で議論を積み重ねて計画策定を進めて私も参加していたのですが、計画ができ上がると市民参加を軽視し出したのです。そこで私は、市のこの態度をブログで問題だと記事を書いていました。それから市政に反対する情報が出ているということで、行政は私のブログを気にし始め、議員たちなども「ああ、こんなこと言われちゃった」と気にするようになっていました。
 当然ですが、議員になったら議会で発言するたびにブログにも経過報告をしているので、執行部も下手な答弁はしたくないという「力」になっているのかなと思う。執行部とのやり取りを記録して書いてしまう議員だと向こうも認識していますね(笑)。今は、私の望むことはしてくれないけれど、私から問題と指摘されるであろうことはしなくなってきた傾向はあると思います。
 市政施行以来、総主流派体制のため市長選で対立候補が出るのを嫌がります。本格的な対立候補が出ると保守が割れて、大変なことになった過去があるからです。それを何とか抑えて、再び総主流派体制が強化される歴史を持つ市議会なのですが、そういう中でも不安定化を予防したいという力学から政策が実現することはまれにあります。
 半田さんや鷹羽さん、そして私のようなしがらみから自由な議員は、例えば24議席あったら1つか2つしか出ない。大多数の議席は、町内会や組合、業界などのコネクションの上に成り立っており、彼らの代表が合意形成する場として、議会の機能が求められていると思うんです。私たちのような議員ができることは、役所のやっている事業に対して、チェック機能を働かせ、その中で風穴を開けていくことしかないのかなと思うのです。

議会は自由主義的でなくてはならない

――半田さんは、地方議員の存在意義をどうお考えですか。
半田 これは三鷹市というわけではなく地方の現実として、与党の議会質問は行政が立てた計画を補完するのが役割だと思います。与党の議員は、権力者のトップである市長を支える側であると同時に、市長のサジェスチョンに基づいて、それを側面から支えていく役割が求められている。
 そうであれば、たとえ与党議員であっても本当に政策を実現するという発想があるのか疑問を感じます。首長になる政治家は、政策を実現したいからこそ予算編成権があるトップを目指すのでしょう。一方、地方議会が政策立案した、行政の計画にない事業に新たに追加される事案は、ほとんど見られません。もちろん、与党の議員も一生懸命です。議会での問題提起もあります。ただ、それは与党としての意見なのかというと、一個人の意見でしかないことが多いのです。
――では、地域住民と行政のパイプ役としての議員の存在意義についてはいかがでしょうか。
半田 逆説的ですが、議員はそんなことをやる必要はないと思っています。それは当然に行政の仕事だからです。間に議員を置かなければいけない必然性がないのです。もちろん頼ってくる人を無視するのとは違います。困っている人を行政につなぐことも、議員に求められている仕事です。ただ、私が言いたいのは、それだけに終始しているのが議員の本来の業務ではないということです。
 地域の声を拾うという発想は、民主主義的なボトムアップの考え方です。しかし、その大前提として、二元代表制の議会は自由主義的であることが重要だと、私は声を大にして言いたい。自由主義的というのは、権力の均衡が保証されているということです。国家でいうならば、司法、立法、行政の三権分立ということです。二元代表制である以上、議会本来の仕事は、権力の均衡を図るため権力のあり方をチェックすることに尽きます。

 少数派議員にそもそも政策を実現することはできないと、二元代表制への絶望が語られ話題はさらに過激な地方政治の実態に……。この続きは次回4月25日号に。乞うご期待!

 


 

〈プロフィール〉

鷹羽登久子

鷹羽登久子 たかば・とくこ
大府市議会議員。1966年愛知県知多郡美浜町生まれ、知多郡東浦町で育つ。結婚して大府市へ。元夫の転勤で広島市安佐南区、福岡市東区に延べ6年。大府市に戻り現在に至る。
学歴:東浦町立片葩小学校、東浦中学校、愛知県立刈谷北高等学校、愛知淑徳短期大学国文学科卒業(女子は4年制大学に行ったら就職できないといわれていた頃でした)。
職歴:【正規雇用又はフルタイム】河合塾予算管理室に新卒で就職。育児休業制度がなかった時代、出産を機に退職。夫実家の家業従事。自動車部品メーカーの事務正社員。飲料ベンダー会社の経理事務。【非正規】アクセサリーショップ、食品製造加工会社、ダスキンハーティ(交換に定期訪問する人)、スーパーの早朝品出し、ブックオフ倉庫で古本の仕分けやピッキング、コールセンター派遣(非正規は掛け持ちのものもありました。出産で一度正規ルートを外れると、生活のために雇ってくれるところを転々とするしかない、の典型な経歴ですね)。
成人した3人の子は独立し、今は保護猫と同居。
ホームページ http://teamtokuko.jimdo.com/
Facebook https://www.facebook.com/TakabaTokuko/
ツイッター https://twitter.com/takaba_tokuko

黒川滋

黒川滋 くろかわ・しげる
2011年12月~朝霞市議会議員、2期目。保育・介護・都市交通など都市の安心に関わる課題に取り組む。1970年生まれ。18歳まで朝霞市で育つ。高校生のときに学生運動のまねごとをしていたときの仲間の誘いで政治に接点を持ち始める。1989年進学を機に、バブル難民として札幌市で独居を始め、そのまま札幌の老舗文具卸売業に就職。9年間に選挙の支援や社会的な運動と関わりながら、北海道の市民運動、労働運動、政治が一体となって社会改革に取り組む西欧社会民主主義的な風土を体験。1998年自治体職員や公共サービスで働く人の労働組合、自治労中央本部の職員に転職。福祉や臨時・非常勤職員の運動を仕事に。2011年11月退職し、朝霞市議会議員に立候補し、12月に当選、2015年12月1,400票で2回目の当選。
ブログ「きょうも歩く」 http://kurokawashigeru.air-nifty.com/
ツイッター https://twitter.com/kurokawashigeru

半田伸明

半田伸明 はんだ・のぶあき
三鷹市議会議員。1970年福岡生まれ。11歳で三鷹市大沢台小学校に転入。三鷹第七中学校卒業。中央大学法学部法律学科入学。大学では憲法研究会に所属。特に地方自治を勉強。卒業後、あさひ銀行(現りそな銀行)入行。中小企業の財務分析に明け暮れる。財務分析能力は地方自治の健全化のための大きな武器と考える。2003年33歳で三鷹市議選に初当選。翌年、借金予算案に賛成する民主党三鷹と決別し離党。以来、政党や組織、しがらみに全く関係ない完全無所属を貫く。選挙カーを使わず、選挙ポスターも自費作成するなど、選挙に税金を使わないスタイルで、2015年には4期目の当選。妻と、10歳、6歳の息子とアパート暮らし。
ブログ http://ameblo.jp/handanobuaki/
ツイッター https://twitter.com/handa_nobuaki

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