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2015.09.25 議員活動

議員と議会の広報戦略

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小金井市議会議員 白井亨

議会と住民の間に横たわる大きな溝

 私は、地方議員になる2年前まで、市議会に興味関心を持つことはありませんでした。毎晩夜遅くまで働き、小金井市という街はただ寝に帰るだけのところでした。住宅地が広がる地域であれば、そういう方は多いのではないでしょうか。その後、子どもが生まれたことで視野が広がり、地域に興味を持ち、人と知り合い、地域活動を担うようになってから初めて、行政との接点ができました。さらに全国的ニュースにもなった、市の“可燃ごみ処理問題”を通じて、市議会というものの存在にも目を向けるようになったのです。
 その理念を知れば知るほど、“行政執行を監視し、場合によっては自ら政策提案する”という地方議会の役割は重要であると感じ、また、こうした二元代表制という仕組みの素晴らしさを認識しました。しかし理念は別として、実際には国会の政治システムである議院内閣制の擬似バージョンが地方議会で行われており、各地方議員は本来求められている役割を本当に理解しているのか、不思議に思ったものです。
 さらに、地方議員は本来その地域で最も身近な存在であるはずが、住民からは最も遠い存在と感じられがちであり、住民は住民で「議会は分からない」という認識がまん延し、いわば悪循環が構築されているように見えました。なぜでしょうか、議会と住民の間には大きな溝ができ上がってしまっていたのです。

議会業界では、効果的な広報戦略を立て実行するノウハウがない

 私は2013年3月に選挙を経て議員になった際、まずは議員の役割を住民にきちんと知ってもらうことがスタートだと思っていました。小金井市議会が2012年に行った住民意向調査(市議会についての無作為抽出アンケート)によると、議員の活動を知っている人は約4割、二元代表制について知っている人はわずか1割という結果でした。その反面、「議員の報酬が高い」と回答する住民は多く、住民には議会を評価するための情報や考えの軸がないことが分かりました。これまで各議員も議会活動の情報発信に各自で努めてこられたはずですが、住民に対してどうもうまく伝わっていないようです。これは、相手の立場に立って広報活動をしてこなかったことが原因だと私は考えています。

図1 地方議会や議員の役割、二元代表制は住民に理解されていない(筆者作成議会報告資料より抜粋)図1 地方議会や議員の役割、二元代表制は住民に理解されていない(筆者作成議会報告資料より抜粋)

 結局、地方議会業界では、『広報』を体系立てて考え、整理するノウハウが存在しないのです。これまで各議員がやってこられた活動報告の仕方といえば、チラシを作成し駅前配布やポスティングをする、ホームページを制作する、ブログやSNSなど新しいメディアツールが出てくればそれに何とか対応はしている、という状態といえます。考えられる情報発信のためのツールは使っているし、トレンドに対応できる議員も少なくないと思います。ただし、そこに哲学がないのです。私は前職でコミュニケーションデザインに関する仕事をしていたものですから、その問題点にはすぐに気がつきました。やり方がまずかったのです。

議員活動における広報戦略を立てよう~大切なのは、受け手のアクションイメージ

 まず私は自らの議員活動をどう効果的に住民に伝え、アクションしてもらうかを盛り込んだ設計図を描きました。それが、いわゆる議員活動における広報戦略です。先述したように、いろいろな情報発信ツールを使うことはどの議員もやっていることです。私がこだわっているポイントは、①各ツール等の役割を明確にしたコミュニケーション設計、②コンテンツマネジメント(内容・質・量)、③デザインマネジメントの3点です。
 時間や予算が限られる中で、いかに効果的な住民とのコミュニケーションを図ることができるか、「MECE」(ミーシー)(1)の視点も取り入れて広報活動を体系的に整理し、目標(ゴール)を設定し、そこまでのストーリーを描いて戦術に落とし込んでいきました。

STEP1 情報発信ツール等の役割を明確にしたコミュニケーション設計を まずは、各情報発信ツールの役割を明確にするための整理を行います。ネットメディア、ペーパーメディア、リアルイベントに分け、その中でそれぞれのツールの役割を設定します。

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 重要なのは、これらの情報発信ツールを単に「使う」ということだけではなく、どういうルートで住民に情報を提供し続けることができるか、ということを考えることです。住民へのリーチの幅を増やし、接触頻度を増やすことで、受け手に情報が蓄積されていきます。私の場合は、ホームページは“総合案内”であり、チラシ(ペーパーメディア)やTwitterが“知るキッカケ”であり、Facebookやブログで情報を深め、事務所や議会カフェという“リアルイベント”に来てもらうことで「市政を自分ゴト化する」という動線設計をしました。

図2 戦略上のゴールまで見据えて、広報全体を設計する図2 戦略上のゴールまで見据えて、広報全体を設計する

 広報戦略上のゴールは、議会カフェへの参加やこがおも事務所への来訪に置いています。私は政党にも所属せず、どの団体からも支援を受けない立場です。「議員に相談をしたいけれども特定の政党への接触は敷居が高い」と感じている人は、特に都市部では多いのではないでしょうか。そんな方たちの受け皿になれればと思っています。
 実際に、ある男性が駅前で私のチラシを受け取り、そのチラシを家でパートナーに手渡し、その女性が私のTwitterで情報をとり、ある日事務所にふらりと立ち寄られ、相談を持って来られた、というようなことがありました。議員という人種との接触は、人生で初めてだったそうです。結局その方は、相談を持ちかけた件で陳情書を議会へ提出することになり、時間がかかったものの小金井市議会全会一致で採択、という成果にまでつながっています。ここまで理想どおりの例は少ないかもしれませんが、実感値としては、市政に興味関心を抱き具体的なアクションに結びつく方が増えています。根本的に目指している「市政に興味関心を持つ人の底上げ」は時間がかかりそうですが、少しずつ目に見えて成果が出てきていると確信しています。

STEP2 発信するコンテンツの内容・質・量をマネジメント  先述したように、情報発信ツールはそれぞれ役割が異なることから、ツールによって発信する情報の質的切り分け(マネジメント)も行っています。場合によっては、別のツールで同じ情報を発信することもありますが、基本的にはTwitterとFacebookの連動は使いません。

図3 やみくもに発信するのではなく、発信するコンテンツをマネジメントすることが大事図3 やみくもに発信するのではなく、発信するコンテンツをマネジメントすることが大事

 また、住民の興味関心を高めることを念頭に置いているため、コメント数や「いいね!」数のチェックにより、発信する情報を都度工夫しています。議員と議会について知らない住民が多いことを踏まえ、議員報酬明細書を毎月公開したり、Facebookでは飽きられないように発信頻度を1日1回程度に抑えたりなどして、こちらから発信する情報の内容と量を大まかにマネジメントしています。
 市政情報も重要ですが、普段の議員の仕事やその日常生活が見えるようにすることが、議員を身近に感じてもらうキッカケづくりでもあると考え、個人名のFacebookでは自分自身の子育てや日常のことなども定期的に盛り込み、「地方議員としての白井亨の日常生活」をあえて赤裸々に見せることも心がけています。3年目を迎えるあたりからは、「質と量」の双方において小金井市議会議員で№1を目指し、具体的な目標数値を設定して取り組んでいます。何事もマイルストーンが大切です。

STEP3 読んでもらえなければ意味がない~デザインマネジメントの重要性  良い情報をいくら大量に出しても、読んでもらえなければ意味がありません。そこでデザインマネジメントを試みています(図4)。地方議会業界ではデザインへの価値観がゼロといっても過言ではありません。まずは、それを変えたいと思いました。デザインマネジメントとしては、会派のロゴ(元は政治団体のロゴ)を作成し、キーカラーとサブカラーを設定し、使うフォントの種類を決め、一貫したデザインで情報発信ツールを制作してきました。

図4 市政に関心が低い若者層(20〜40代)に親和性の高いデザインを意識図4 市政に関心が低い若者層(20〜40代)に親和性の高いデザインを意識

 また、オールターゲットデザインでは、他の議員との違いが分かりづらいと感じています。議員になる前に感じていたのは、さも「政治ビラ」というだけで拒否反応を起こしている層が大勢存在するのではということでした。それらを仮説とし、特に市政に関心が低い若者層(20〜40代)に親和性の高いデザインを意識して制作しています(内容自体は全住民向け)。「これまで政治ビラは読むことがなかったけど、こういうデザインなら読もうと思う」と多くの方から評価もいただき、一定の成果は出せていると実感しています。

議会広報も、住民の立場に立った広報を

 議会広報にも上記と同じことがいえると考えています。これまでは、単に「議会のホームページを設けないといけない」というレベルでの広報だったのではないでしょうか。単に情報を公開していることに満足し、受け手である住民目線に立ったコンテンツマネジメント及び情報発信がなされてきていない、と感じています。
 パレートの法則(2)というものがあります。8対2の法則、又はばらつきの法則ともいわれます。あくまで経験則に基づいて経済学者が唱えた法則ですが、これを「住民の市政への関心」に当てはめてみます。自ら情報をとりにいき、また発信する市政に興味関心が高い主体的な住民の層が2、それ以外が8と考えます。ただし、その8も細分化すると6対2となるとされます。いわば、2:6:2の法則であり、後ろの2は何をしても反応しない層なので、どういう工夫をしても市政に興味関心を持つことはありません。前の2の層は主体的に情報をとる層ですから、私たちが積極的に働きかけないといけないのは真ん中6の層といえます。
 真ん中6の層、こういった住民を対象にして、議会の広報を考えないといけません。各議員の情報発信と同様に、最近は総体の議会としてもTwitterやFacebook公式ページを設けて情報発信に工夫をするということも、ようやく一般化してきました。ただし、そこには広報戦略が欠けているのです。ターゲットとどこで接触して、どの情報を目にしてもらい、その後どうアクションをとってもらうのかといったことを、全体を見据えて設計しないと、決して効果的な広報がなされているとはいえません。そのために最も大切なのは「現状把握」です。議会が住民からどう見られているのか、どういうニーズがあるのか、を定点観測する必要があります。それを基に、広報の手段である情報発信ツールの役割定義を踏まえて、コンテンツマネジメントを行っていくことが理想です。一方的な思いだけで情報発信に取り組んだとしても、受け手が得たいタイミング・手法・内容でなければ、効果は薄いと考えます。
 議会の広報戦略で先進的な取組をしている議会としては、例えば、流山市議会が挙げられます。現在の同市議会ホームページ(図5)の作成に当たっては、まず民間や大学との共同プロジェクトでサイトを制作・公開、その後ユーザーがどのコンテンツを見ているかを計測・把握して、コンテンツ配置などを変えるという工夫をしたと聞いています。民間では当たり前の取組ですが、地方議会ではまだこういう取組は稀有(けう)だと認識しています。

図5 流山市議会では市議会ホームページをオープン後、ユーザービューを計測・把握し、コンテンツ配置などを改善図5 流山市議会では市議会ホームページをオープン後、ユーザービューを計測・把握し、コンテンツ配置などを改善

議会そのものの活性化があっての、広報である

 最後に、決して間違ってはならないのは、議会のあり方を抜きにして広報のみの強化に取り組んではならないということです。それは全く議会の役割を果たせているとはいえません。そもそも取り組むべきことは、二元代表制の下で議会の役割を最大限発揮できる、議会内の合意形成とその仕組みづくりです。そこに住民意思をさらにくみ取り反映させるために、広報戦略が必要となるという構図であると認識しています。それは議員単位の活動広報も同様です。テクニックに走るだけで政策や活動などの内容が伴っておらず、住民へ当たり障りのない情報のみを提供し、「見た目だけの投票行動」へ拍車をかける危険性もあります。まずは議員・議会としての活動ありきです。
 広報はあくまで手段であり、何のための広報なのか、突き詰めて考え議論することが必要ではないでしょうか。広報のみならずいろいろな分野において民間企業の文化から10年以上遅れている議会業界ですが、こういう状況を一新し、広報を効果的に活用して地方議会が住民にとって“使える”議会にすることこそ、私の本望です。


(1) 「MECE」(ミーシー)とは、Mutually Exclusive, Collectively Exhaustiveの頭文字をとったもので、モレなくダブリなく、という意味。
(2) 所得分布の経験則。全体の2割程度の高額所得者が社会全体の所得の約8割を占めるという法則。マーケティングなど様々な分野で応用されている考え方。20対80の法則、ニハチの法則ともいう。

白井 亨(しらい とおる)

この記事の著者

白井 亨(しらい とおる)

東京都小金井市議会議員(2013年4月から現職)、会派 小金井をおもしろくする会(1人会派)所属。どこの政党にも所属せずどの組織からも支援を受けず素人市民でチームを作り未来の小金井市を創る為にまずは市議会議員に。元会社員(株式会社シー・レップにて企業や学校のコミュニケーション&プロモーション企画・制作のディレクター兼営業)。関西大学社会学部卒業。1975年生まれ、大阪府枚方市出身、2007年から小金井市民。

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