大津市議会では、「市民に開かれた議会」を目指して議会改革を推し進めており、平成26年2月「会議規則や傍聴規則の条例化」や平成24年5月「新旧対照表方式による例規改正」を主体とした議会法制の抜本的見直しを行った。これは、市民の権利をより尊重することや、議会運営を市民に分かりやすく伝えることに主眼を置いたものである。なお、文中意見に関する部分は筆者の個人的見解であることをあらかじめご了解いただきたい。
会議規則の条例化に当たって
まず、今回の会議規則の条例化の動機について述べたい。
そのようなことを考えた第1の理由は、一般的な法体系と議会例規体系との乖離である。一般的には、「形式的効力の原理」によって、条例は規則の上に位置付けられている。しかし、議会の世界では議会機能の中心となる本会議は規則に、議会内部の審査機関である委員会については条例で定めることとされていることから、会議規則の方が上位と考える方が自然ではないか? と考えた。そうであるならば、一般的な条例と規則の上下関係と異なる位置付けをあえてする理由は何であろうか。
一方で、両者は並列関係であるとする考えもあるが、「形式的効力の原理」からは法形式が異なれば当然に上下関係が生じ、あえて並列関係であるとするなら、異なる法形式をとる必然性はどこにあるのであろうか。
また別の論点としては、会議規則は改正に議決を要するとされているが、執行部では制定改廃に議決を要するのが条例、長限りで機動的に制定改廃できるのが規則との理解が一般的である。なぜ議会で定める規則は改正に議決を要するのであろうか。
場合によっては、議会運営委員会での決定を経ての議長告示を、議会の意思としてもよいのではないか? 議会の意思決定は議決しかあり得ないとするならば、条例形式で規定する方が、より自然なのではないか?
これらの疑問が、今回の議会例規構成見直しの原点となった。
会議規則が「規則」であるデメリット
では、会議規則が「規則」とされてきた理由は何であろうか。
研究者の世界では、要約すると以下のような意見があるようである。
まず形式的には、法に「会議規則を設けなければならない」と規定されている以上、それ以外の法形式をとることは許されないとの考えである。
また、実質的には、議会は自治体としての意思決定機関であり、その意思決定ルールを他の機関が決めることはあり得ないとの考え方から、首長も提案権を持ち、再議権を行使しうる条例で定めることはできないとの考えである。
しかし、形式論については、題名と法形式が一致しない例規もあり、法の立法趣旨は会議に関するルールを定めることにあり、規則という法形式をとることまでも定めていないと解釈するものである。
実質論についても、条例であっても常に議会と首長双方に提案権を認めるという法解釈、運用がされているわけでもない。一方で会議規則を規則としておくことには、以下のようなデメリットがあり、比較衡量すると会議規則を廃し、会議条例と会議規程に再編することが、市民の利益になると考えたものである。
(1)市民の権利保障が不十分であること
憲法上の権利である「請願」に関する要件事項が、市民の直接請求によって改正可能な条例でなく、議会でしか制定改廃できない規則で定められていることは、憲法の規定趣旨に鑑みると適当でない。また、「秘密会の実施」及び「議会内の秩序保持」に関する事項や「傍聴規則」全般に関しても、市民に拘束力を及ぼしうる規定を、本来、機関内部のルールを定めるべき規則に置くことに関して同様である。
(2)「法秩序の構成原理」における疑義
憲法を頂点とする法秩序の論理的一体性を確保するための原理とされているもののうち、下記の観点からも疑問が生じる。
① 「形式的効力の原理」の観点
異なる法形式相互間においては、その効力の上下関係を認めることによって、法令相互間の矛盾を解決しようとする考え方から、一般に条例の形式的効力は規則に優先すると解されている。しかし、実態上「会議規則」が「委員会条例」の上位と解される議会の法体系は、一般的な法体系(法─条例─規則)と異なるが、独自の法体系をとる実体的利益に乏しい。
② 「所管事項の原理」の観点
法形式の相違に応じて所管事項を定め、それぞれの規定内容の競合を避けようとする考え方からは、委員会についての会議規則と委員会条例のそれぞれの所管事項が必ずしも明確でない。また、本会議は規則の定めのみであるが、委員会については、法の定めにより委員会条例が制定され、「条例に定めのない事項については会議規則の定めるところによる」とされているが、議会内部の審査機関である委員会だけを、あえて条例と規則に分けて規定する必然性に欠ける。
(3)実務上の機動的運用が阻害されること
会議規則は「規則」でありながら、その制定改廃に議決を要するとされていることは、実務上の詳細な手続規定を含む会議規則の運用上、機動性を欠く一面を否定できない。条例から規則に委任して運用上の機動性を確保しようとする執行部における例規の常識からは、議会例規に限ってそのような運用を認めないことに合理性を見いだし難い。
議会運営ルールの「見える化」の促進
会議規則を会議条例と会議規程に分離することによって、議会運営ルールの「見える化」という大きなメリットが得られる。従来、議会運営は、先例や申合せによる部分が多く、それを知らない傍聴人には理解できない状況も多々生じてきた。
先例や申合せはウェブ上で検索しても各自治体の例規集に含まれないことが多く、市民はもとより、執行部職員でさえその内容を容易に知ることができない自治体も多い。これは、市民への積極的な情報公開が問われている現在の行政常識からは、かなり特異な状況である。
こういった状況を改善するためにも、手続に関する条項などを議長告示である会議規程に移し、より機動的な運用を可能とするとともに、先例、申合せなどの内容もできる限り会議規程に移した。これは例規集に登載することによって、市民が容易に内容を知り得る状況を実現し、議会運営ルールの「見える化」を促進するものである。
例規を考える視点
会議規則を廃しての条例化については、議会事務局研究会会員からも多くの反対意見をいただいた。やはり主な反対論拠は、規則という法形式も含めて法定されており、それによって外部からの介入可能性を排除するところに意義があるというものである。
確かに法律論として一理あるとは思うが、疑問を感じるのは、そこに市民視点はなく、内部視点の解釈論であることだ。執行部であれば市民権利に関わる規定を、長限りで決めてしまえる規則に置くこと自体が批判されるのではないか。まして市民の権利保護よりも組織の都合を優先して、法形式を選択するということが許容されるとは思えない。もちろん地方議会に法改正の権限がない以上、議論が解釈論になりがちなことも一定やむを得ない。しかし、地方議会においても解釈の枠を超えて実現できることがあるはずである。
その実例は、三重県議会基本条例に附属機関条項が盛り込まれたことである。当時は地方自治法138条の4の反対解釈として、議会には附属機関は設置できないとの見解が一般的で、総務省や知事からも違法との指摘を受けていた。しかし、その後、明文で禁止されていないので設置可能との解釈が一般的になり、法改正を待たずに多くの地方議会が追随した。それは、総務省見解とは異なっても、議会に附属機関を置くことが、結果として市民利益になるとの考えがオーソライズされた結果である。本来は立法論で対処すべきものであっても、解釈論で現場ニーズに応えた好例だと思う。
「市民に開かれた議会」を実現するために
例規は目的を達するための手段にすぎず、学術的意義よりも市民利益を優先したものであるべきである。また、抜本的には法改正が必要と思われても、当面は市民視点からの解釈、運用でその障壁を突破しようとするスタンスも必要だと考えている。
大津市議会の会議規則を廃しての条例化は、もちろん現行法でも先に述べた解釈論で適法との立場ではあるが、長期的には立法論での決着を望むものである。いずれにしても、少なくとも一部の人にしか理解できない例規構成が、市民目線で考えたときにふさわしいものとは思えない。
何よりも、地方議会改革が求められている理由には、議会が市民から分かりにくく、遠い存在になってしまっていることがある。したがって、市民にとって分かりやすい例規構成とすることや、「新旧対照表」による例規改正方式の導入など、地方議会法制についての改革の取組も、地道ではあるが「市民に開かれた議会」の実現に資するものと確信している。