大津市議会議会運営委員会委員長 竹内照夫
大津市議会は、先進的な施策等を表彰する「マニフェスト大賞」で、平成25年度は「大学との連携による議会からの政策提案」のテーマで「議会グランプリ」、平成26年度も「地方議会初となる議会BCP(業務継続計画)」のテーマで「審査委員会特別賞」の受賞という2年連続の栄誉に浴した。これまで、滋賀県の県都でありながら、必ずしも全国では存在感を示せなかった大津市議会が、いかにして変わってきたのかについて、私見を交えて述べてみたい。
加速した議会改革
大津市議会では、議会改革のテーマについては、副議長を委員長とする議会活性化検討委員会で議論してきた。平成11年に同委員会が設けられて以来、様々なテーマが議論され、改革が実行されてきたが、大きく加速したのは前述の「議会グランプリ」の受賞テーマである「大学との連携による議会からの政策提案」が軌道に乗ったことである。それまでの議会活動は、行政の監視機能に特化されたものであったが、外部から専門的知見を導入し、「政策検討会議」と称する会派を超えた議員間討議の仕組みが定着することによって、政策提案機能が飛躍的に向上したのである。
その成果が、平成24年度には「子どものいじめの防止に関する条例」、平成25年度には「議会BCP(業務継続計画)」の策定につながり、平成26年度は「議会基本条例」と「災害等対策基本条例」を策定中であり、その全てに知的資源ともいえる大学の専門的知見を生かしている。
従前は執行部とのやりとりが主体で、外部機関との関わりや市域を超えての情報発信などとは無縁であり、他の地方議会を意識する機会も多くはなかった。しかし、議会グランプリを受賞してからは、視察受入件数やメディアで取り上げられる機会も増え、必然的に全国のレベルを意識することとなり、大津市議会議員としてのモチベーションも確実に高まっている。
大津市議会の強み
そして視察対応などで、他の議会から不思議がられるのが、会派を超えた議員間の関係性と、事務局との距離感である。例えば議会によっては、安易に他会派の控室に出入りするようなことは、スパイ行為との誤解を生むため、あり得ない行動とされているようであるが、大津市議会では極めて日常的風景である。プライベートでも、異なる会派議員同士での個人的な酒席、混成議員チームでの市民レガッタ参戦(ナックルフォアに異なる会派議員が同乗するので、文字どおりの「呉越同舟(!?)」である)、全議員での大忘年会などが、自然発生的に行われている。大津市議会ではごく普通のこれらのことが、会派を超えた議員間討議ができる雰囲気を形成するものなのかもしれない。
もちろん、その前提としては、少数会派であってもその主張を尊重するという文化があってのことである。具体的には、3人以上の交渉会派であることが構成委員の要件である議会運営委員会においても、委員長裁量でオブザーバーである非交渉会派にもできる限り意見表明の機会を設けている。それは私自身にも一人会派であった時代があり、そのときの経験を今に生かしているのである。
次に議会事務局との距離感については、私が平成12年に初めて議長を務めたときから、常に事務局職員に対しては、「いい意味でのエリート意識を持て」と言い続けてきた。今でこそ、議会事務局は首長の支配下から離れた議会のための組織との認識が定着してきた。しかし、当時は大津市議会でも執行部職員の着ける市章と議会事務局バッジの2つを背広に着けて、その正当性を主張し譲らない議会事務局長が出向してくるなど、職員にも任命権者である議長に仕えるという意識がなかったのである。その根底には外局に出されたとの劣等感があり、そのような職員が本気で議会のために働こうとするとは思えないため、だからこそ「エリート意識を持て」と言いたいのである。
幸いにして、近年の議会事務局職員の士気は高く、議会改革を進めるには今のタイミングしかないと他の議員にも訴えかけてきた結果、事務局職員との協働文化も定着し、その成果として、数々の議会改革が達成できた。
そして、最初は分不相応だと私自身も思って聞いていたが、議会事務局は「議会局」であるべきだとの職員の意見を入れて、異論を唱える会派も説得し、大津市議会事務局は来年度から「議会局」に組織再編することとなった。事務局職員のモチベーションアップを図ることも、議員の重要なミッションであろう。
“議会改革の集大成”としての議会基本条例
先にも述べたとおり平成26年度は私が座長を務める政策検討会議で、議会基本条例を策定中である。議会基本条例は、これまでの議会改革の集大成であるとともに、これからも不断の努力を重ねていくことの市民との約束でもある。条例であるから、例規としての形式は踏襲しなければならないが、少しでも一般の市民の方々にも分かりやすいものでなければならない。そして、これを機に、市民にとって分かりにくい議会に関する例規構成を、シンプルにすることが必要だと思っている。
具体的には、議会として大事なことは基本条例を見れば全て分かるようにすべく、地方自治法によって条例で定めることが義務付けられている、議員定数や報酬、定例会の回数、議決事件、市長に委任する専決処分についての条例を、基本条例に統合することとした。もちろん、全てを基本条例に書き込むのは適当でないが、少なくともどの例規を見れば知りたい情報が得られるかまでは、基本条例で分かるようにしようと考えている。
その前提としては、議会運営ルールを定めた「先例」や「申合せ」をも市民に分かりやすくするために、昨年度行った会議規則の条例化があるわけであるが、基本条例の制定によって、例規構成全般の再構築が完了する予定である(会議規則条例化の詳細については、後掲の記事を参照されたい)。
市民の幸福の最大値である山頂を目指して
議員には、それぞれが所属する政党や出身母体、個人の経歴や居住地域などの違いに由来する様々な主義主張がある。また、地方議員になった動機も様々であるが、少なくとも議員として目指すべきは、市民の幸福を追求することであることに異論はないはずである。それは登山に例えれば、目指すべき頂上であり、各議員や会派の主義主張の違いは山頂を目指すルートの違いにすぎないというのが、私の持論である。そして、議会内でその共通理解が得られるかが、会派を超えた議員間討議が成立するかどうかの分岐点だと思う。
それは議会と首長との関係においてもまたしかり、単に対立をあおるだけの関係が市民の幸福につながるとは思えず、また、地方自治制度において二元代表制がとられた趣旨ではないであろう。
今はまだ詳細不明だが、議会提案で制定した「子どものいじめの防止に関する条例」を、市長からの提案で改正しようとの動きがある。執行部職員には、議会提案で制定された条例を執行部から改正に動くことに心理的抵抗感もあったようであるが、遠慮はいらない。要はその改正内容が、本当に大津の子どもたちのためになるのか、ただそれだけであり、市民の幸福の最大値である山頂を目指すのみである。この原稿が世に出る頃には決着していると思うが、今はこれからの議論の行方が楽しみである。
大津市議会基本条例の特色
① 法で制定義務がある条例事項は基本条例で規定し個別条例は原則廃止、及び委任専決処分事項を議会例規で規定
② 議会からの条例提案・議案修正に対する市長等の意見陳述の機会を設けることを明記
③ 議会BCPによる災害時の議会の行動基準を明記
④ 議会からの政策立案を担う政策検討会議と、専門的知見の活用手法として、大学との連携推進を明記
⑤ 議会事務局の「議会局」への改編を規定
●議会のプロファイル
議会名 | 大津市議会(滋賀県) 議長 園田 寛 |
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定 数 | 38人(平均年齢:57歳、男女比31:7) |
会 期 |
通年議会導入につき、定例会は年1回 (通常会議は2月、6月、9月、12月) |
人 口 |
2000年国勢調査 309,793人 2005年国勢調査 323,719人 2010年国勢調査 337,634人(増減率4.3%) |
産業構造 |
2010年国勢調査 1次産業 1,812人 2次産業 34,680人 3次産業 107,204人 |
標準財政規模 |
2014年度当初予算 111,866百万円(議会関係予算677,017,000円) |
連絡先 |
〒520-8575 滋賀県大津市御陵町3-1 電話:077-528-2640 HP:http://www.city.otsu.lg.jp/gikai/ |