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2014.09.10 政策研究

人口減少時代のシティプロモーション 選ばれる自治体で生き残れ 第1回 効果の上がるシティプロモーション

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シティプロモーションごっこ遊び

 人口を維持し増加させるためには、「対策」ではなく「政策」という発想が重要である。
 対策は「現実対応」になる。それは「今、目の前にある問題を何とかしたい」という一心で取り組むことを意味する。どうしても狭視眼的な見地からの行動になってしまう。
 一方で、政策は未来志向である。未来志向には希望が湧いてくる。様々な観点から可能性を探ることになる。その結果、心にも余裕が生まれ、成功の軌道に乗りやすくなる。そして未来志向を確立するためには、しっかりとした政策研究が大切である。
 もちろんシティプロモーションを担当する職員は、政策研究をしたつもりになっている。しかし、筆者が「このターゲットはどのようにして決めたのですか」と尋ねると「みんなで意見交換をして決めました」と回答が返ってくる。再度、筆者が「それは定性的な話であって、定量的な観点からどのようにしてターゲットを決めたのですか」や「たとえ意見交換という定性的であっても、意見を出した当事者は数値に基づいて意見を述べていると思われるので、その数値を出してください」と聞くと、「意見交換の中から何となく出てきた」や「そんな数値はありません」と回答が戻ってくる。これは、はっきりいって政策研究ではない。「政策研究ごっこ」をしている状態である。
 政策研究ごっこから登場したシティプロモーションは、「シティプロモーションごっこ」である。見た目はしっかりとしているが、まねごと、偽装であり、中身がないため、そのシティプロモーションは、本物には当然かなわない。その結果、シティプロモーションの所期の目的は達成できないだろう。
 このことを指摘すると、一部の職員には本音として「別に達成できなくてもいい。だって、その頃には人事異動で担当を外れているから」という声がある。もし、現在シティプロモーションを担当している職員が、こういう考えを少しでも持っているようならば、その自治体は消滅に突き進んでいくことになる。この点は注意しなくてはいけない。

議員視察とシティプロモーション

 本稿は、筆者が現場に入り実感したことを「総論」という位置付けで言及してきた。読者は議員が多いと思われる。シティプロモーションを展開する自治体には「甘さ」があるため、この点をしっかりと指摘してもらいたい。そうしないと住民の福祉の増進は実現しない。
 注意しなくてはいけないことは、シティプロモーションは一手段という事実である。例えば「定住人口の増加」を実現したい場合、その手段は多々ある。シティプロモーション「だけ」で定住人口が増加するわけではない。ところが、自治体の中にはシティプロモーションを絶対的な手段として捉えている場合が少なくない。シティプロモーションに期待することはとてもいいことである。しかし過度の期待は禁物である。冷静にシティプロモーションを実施していくことが肝要である。
 S自治体は、シティプロモーションに積極的に取り組んでいる。そして最近では、シティプロモーションの先進的な自治体と称されている。確かに、その自治体はマスメディアで目にする機会が増えてきた。しかし、あえて苦言を呈すると、冷静にその活動を捉えることが大切である。確かに認知度は上昇している。一方で定住人口、交流人口は減少している。そして財政も悪化している。このような状況でシティプロモーションが成功したといえるのだろうか。
 現実的には様々な指標が悪化している。しかしS自治体が先進事例と称されているため、シティプロモーションに後発の自治体が、その先進事例をベンチマーク(見本)として、シティプロモーションに取り組んでいる。議員視察も相次いでいる。視察した議員が議会で「S自治体を参考にしてシティプロモーションを実施したらどうか」などと執行部に提案している。
 繰り返すが、その自治体は、確かに認知度は上昇しているが、具体的な様々な数字は改善していない。むしろ悪化している。何ごともそうであるが、冷静に捉えることが大切である。一時の躍進ではなく、地道なシティプロモーションが重要である。そして議員視察も冷静に捉えていくことが求められる。

* * *

 次回は、効果を上げるシティプロモーションについて言及する。キーワードは、ターゲット戦略、とがった活動、実効性の担保などである。


⑴ 筆者はカタカナ表記を使わず、できるだけ平仮名表記にすることを勧めている。なぜならば、カタカナ表記は読み手にとって曖昧になり、言おうとすることが伝わらない可能性があるからだ。2013年6月には、テレビ番組で理解できない外来語が多く使用されていることで精神的苦痛を負ったとして、岐阜県の男性がNHKに対し141万円の慰謝料を求める訴えを名古屋地裁に起こした。カタカナを多用する自治体も、いつかは訴えられてしまうかもしれない。「カタカナに慣れてしまって、どうしていいか分からない」と、もし読者が号泣する状態ならば、国立国語研究所の「『外来語』言い換え提案」を参考にするとよいだろう。例えば、アイデンティティーは「独自性」や「自己認識」と言い換える。ガバナンスは「統治」と表現する。カタカナは平仮名にした方が相手に親切である。
⑵ あくまでも朝日新聞、産経新聞、毎日新聞、読売新聞だけであり、他紙においては1980年代半ば以前から登場している事例があるかもしれない。
⑶ 筆者が「危惧している」と言うだけでは「言うだけ星人」である。筆者は言うだけ星人にはなりたくないと思っている。そこで筆者が中心となり、2013年8月に「シティプロモーション自治体等連絡協議会」を立ち上げた。現在、オブザーバー会員も含めて約30団体で活動している。なお、言うだけ星人とは「評論や批判だけして関係者にはならない人」を意味している。URLは下記のとおりである。ぜひ、ご訪問いただきたい。http://www.citypromotion.jp/
⑷ 政策研究を実施するひとつの組織として自治体シンクタンクがある。自治体シンクタンクとは「地方自治体の政策創出において徹底的な調査・研究を行い、当該問題を解決するための提言を行うために組織された機関(団体)」と定義できる。戸田市政策研究所、かすかべ未来研究所、新宿区新宿自治創造研究所、三芳町政策研究所など全国の市区町村に40ほど存在している。
⑸ これから10年も経過すれば、時代の背景も大きく変わり、国民の意識も変化する。その結果、明確に縮小都市を掲げる自治体も登場してくると思われる。しかし現時点では、国民の意識は、まだ拡大都市路線であり、時期尚早のような気がする。筆者の感覚では、国民は「人口減少を受け入れることは頭では分かっているけれど、気持ち的に納得できない」という状況と思われる。
⑹ 国土交通省の定義によれば、情報交流人口とは「自地域外(自市町村外)に居住する人に対して、何らかの情報提供サービスを行う等、情報交流を行っている登録者人口」と定義している。この情報提供の手段はインターネットのほか、郵便やファックス等も含まれる。最も重要な点は、不特定多数に対する情報提供サービスではなく、個人が特定でき、何らかの形で登録がなされていることにある(登録者人口)。民間企業でいう「囲い込み戦略」である。囲い込み戦略とは、「自社の財(商品)やサービスの利点や特徴、特異性を顧客(消費者)に訴えることで、顧客に満足を提供しリピート行動を喚起しようという考え方」と定義される。
⑺ 定住人口とは、その自治体に住んでいる人である。交流人口とは、その自治体に訪れる(交流する)人を意味する。その自治体を訪れる目的としては、通勤や通学、買物、観光など、特に内容を問わないのが一般的である。
⑻ シビックプライドは、しばしば「都市に対する誇りや愛着」という意味で使用される。
⑼ 住民を既存住民と潜在住民に分けて考えることが重要である。既存住民とは、「今住んでいる住民」である。まずは、この住民を対象に引っ越してもらわない政策を展開する必要がある。そして潜在住民という考えも大切である。潜在住民とは「自分の自治体外に住んでいる住民」を意味する。相模原市の場合は、相模原市外の住民であり、八王子市民かもしれないし、秋田市民かもしれない。
⑽ 住民ニーズ(needs)とは、文字どおり「必要性」のことであり、「人間生活の上で、ある充足状況が奪われている状態」と定義できる。原則として、自治体は全ての住民を対象にニーズを充足させていかなくてはいけない。住民ウオンツ(wants)とは、文字どおり「欲求」のことであり、「ニーズを満たした上で、特定のものを欲しいという欲望」である。全ての住民のウオンツを満たしていくと自治体は破綻してしまう。そこで、メイン・ターゲットを設定し、彼ら彼女らのウオンツを充実させていく。一方で住民ミーズ(meeds)という考えもある。これは「I」「My」「Me」の「Me」であり「私を…」を意味する。例えば「私の家の前の道路に信号機をつくって」という独りよがりな欲求である。つまり「社会や地域の福祉の増進を考えていない、その人だけの欲求」と定義できる。これは無視して構わない。

牧瀬稔(一般財団法人地域開発研究所)

この記事の著者

牧瀬稔(一般財団法人地域開発研究所)

一般財団法人地域開発研究所 一般財団法人地域開発研究所主任研究員、法政大学大学院公共政策研究科兼任講師。横須賀市都市政策研究所、財団法人日本都市センター研究室等を経て、2005年より財団法人地域開発研究所所属。戸田市政策研究所(戸田市政策秘書室)政策形成アドバイザー、かすかべ未来研究所(春日部市政策課)同、新宿自治創造研究所(新宿区総合政策部)同、鎌倉市政策創造専門委員(鎌倉市政策創造担当)、横須賀市土地利用調整審議会(委員長職務代理)、三芳町芸術文化懇談会委員(委員長職務代理)等、多数歴任。シティプロモーション自治体等連絡協議会調査研究部会長。著書に『条例探訪─地域主権の現場を歩く』時事通信社(2012年)、『地域魅力を高める「地域ブランド」戦略』東京法令出版(編著、2008年)、『地域力を高めるこれからの協働』第一法規(共著、2006年)など。 ホームページ http://homepage3.nifty.com/makise_minoru/

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