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2014.09.10 政策研究

人口減少時代のシティプロモーション 選ばれる自治体で生き残れ 第1回 効果の上がるシティプロモーション

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消滅可能性都市の衝撃

 2014年5月8日に民間研究機関「日本創成会議」(座長・増田寛也元総務相)が発表した調査結果が多くの自治体に衝撃を与えた。同調査は2040年までに全国の計896自治体で20 ~ 39歳の女性が半減するとし、そのような自治体を「消滅可能性都市」と表現した。この「消滅可能性都市」は危機感をあおるだけであり、行き過ぎている感じがある。そうはいっても、日本の人口は確実に減少しつつある。自治体が消えて滅びる「消滅」までとはいかなくても、「存続不可能自治体」が登場するかもしれない。
 都道府県のうち岩手県や秋田県などが、人口減少対策のための全庁的な組織を設置し、その数は17道県に達したという報道があった(読売新聞2014年7月15日)。都道府県に限らず、多くの市区町村においても、同様な組織が設置されつつある。
 人口減少を克服する一手段として注目を集めるのが、「シティプロモーション」や「シティセールス」である(以下では、原則として「シティプロモーション」に統一する)。昨今では、シティプロモーションに取り組む自治体が相次いでいる。シティプロモーションの意味は、実は様々ある(このことは後ほど言及する)。一言で表現するならば「都市や地域の売り込み」となる。本稿では2回にわたって、シティプロモーションの現状や課題について言及する。今回は「シティプロモーションとは何か」という内容について、初歩的な視点から紹介していく。

シティプロモーションの歴史

 自治体は「カタカナが大好き」という性質のため、ここ数年で一気にシティプロモーションが使われるようになった。少し前は「地域ブランド」という言葉をよく耳にした。シティプロモーションという語句がいつから使われ始めたのか、過去の新聞記事から探してみた(図1)。使用した新聞は、朝日新聞、産経新聞、毎日新聞、読売新聞になる。この4紙を遡ると、シティセールスは1980年代半ばに福岡市が使用している。新聞記事を確認すると、1989年に福岡市東京事務所の中に「シティセールス担当課」が誕生している。当時としては21世紀を見据えて、時代の最先端を行く先進的な取組と評価できる。
 一方で、シティプロモーションという言葉は、1990年代後半に和歌山市が初めて使用したようだ。新聞記事から分かることは、和歌山市は1990年代後半に「シティプロモーション推進課」を設置している事実である。2000年に同課は室へ格上げされ、同市の総合計画や歴史、文化を宣伝し、観光客や企業、国際大会の誘致などを進め、和歌山市の発展につなげていくことを目的として活動していた。
 過去の取組を概観すると、シティプロモーションは意外と歴史があることが理解できる。そして成功した自治体がある一方で、なかなか成果を導出できず苦労している自治体もある。格言に「歴史は繰り返す」とある。実はそうではない。真実は歴史を学ばない人が「同じ歴史を繰り返す」のである。過去のシティプロモーションの成功と失敗をしっかりと学ぶことが重要である。

バブル化する
シティプロモーション

 図1からシティプロモーションがブームとなっていることが理解できる。ある意味、完全に「バブル状態」といえるかもしれない。これはシティプロモーション・シンドローム(症候群)ともいえる。過去、図1と同様な曲線を描いた語句に「地域ブランド」や「B級グルメ」などがある。バブルとは「泡のように消えやすく不確実なもの」という意味がある。このままであると、シティプロモーションも不確実のまま一過性に終わってしまう可能性がある。この点について、筆者は勝手に危惧している。シティプロモーションが流行している今こそ、地に足の着いたシティプロモーションが求められる。

図1:主要4紙における「シティプロモーション」、「シティセールス」という語句の1年間の登場回数の推移

 昨今の状況は、まさに「出羽守(でわのかみ)」化現象である。本来、出羽守とは出羽国を治めた国守のことを指す。ここで使用している意味は、「…では」と多用する悪しき傾向を意味している。具体的にいうと、「◯◯市『では』シティセールスを実施し成果を上げて…」や「△△市『では』シティプロモーションを展開し市民の愛着を形成し…」という「では」ばかりを強調することを意味する。
 自治体はよくいうと「競争意識」が激しいため、他自治体の取組が気になる。一方で悪くいうと「横並び意識」があるため、やはり他の自治体の状況が気になって仕方がない。これは自治体としての明確な意思がないことを表している。
 出羽守とならないためにも、改めて「何のためにシティプロモーションを実施するのか」と問いかけた方がよいだろう。特にシティプロモーションは手段であり目的ではない。この点を履き違えている取組が実に多い。再度「何のために実施するのか」を考えることにより、目的も明確化してくる。そして、効果を上げるシティプロモーションにしていくためには、政策研究は必須である。しっかりとした政策研究が、地に足の着いたシティプロモーションにつながっていく

牧瀬稔(一般財団法人地域開発研究所)

この記事の著者

牧瀬稔(一般財団法人地域開発研究所)

一般財団法人地域開発研究所 一般財団法人地域開発研究所主任研究員、法政大学大学院公共政策研究科兼任講師。横須賀市都市政策研究所、財団法人日本都市センター研究室等を経て、2005年より財団法人地域開発研究所所属。戸田市政策研究所(戸田市政策秘書室)政策形成アドバイザー、かすかべ未来研究所(春日部市政策課)同、新宿自治創造研究所(新宿区総合政策部)同、鎌倉市政策創造専門委員(鎌倉市政策創造担当)、横須賀市土地利用調整審議会(委員長職務代理)、三芳町芸術文化懇談会委員(委員長職務代理)等、多数歴任。シティプロモーション自治体等連絡協議会調査研究部会長。著書に『条例探訪─地域主権の現場を歩く』時事通信社(2012年)、『地域魅力を高める「地域ブランド」戦略』東京法令出版(編著、2008年)、『地域力を高めるこれからの協働』第一法規(共著、2006年)など。 ホームページ http://homepage3.nifty.com/makise_minoru/

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