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2014.09.10 政策研究

人口減少時代のシティプロモーション 選ばれる自治体で生き残れ 第1回 効果の上がるシティプロモーション

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シティプロモーションの意味

 シティプロモーションを実施している自治体にほぼ共通していることは、「拡大都市」を目指している点が挙げられる。自治体は未来の政策展開を考えるときに「拡大都市」と「縮小都市」がある。
 拡大都市とは、「人口減少時代においても、積極的に良い行政サービスを提供することで、今までどおりに人口の拡大を目指す」ことである。あるいは「周りが人口を減少させる中で、人口の維持を達成しようとする自治体」も拡大都市と捉えることができる。国は2060年に1億545万人を目標人口と掲げている。この数字は今から17%減の数字である。2060年の時点で人口を17%減以内でとどめようとする自治体も、拡大都市として捉えることができるかもしれない。
 一方で縮小都市は、「人口減少の事実を受け入れ、人口が減少しても元気な自治体をつくっていく取組」である。2060年の時点で人口減が17%以上を是認する場合は縮小都市かもしれない。一般的に人口が減少すれば税収も低下する可能性がある。その結果として行政サービスの縮小や職員数の減少等も余儀なくされるかもしれない。そのような理由から、現時点において明確に「縮小都市を採用している」と公式に説明している自治体は(あまり)聞かない
 人口減少時代に、何とか人口を維持しようとする思考がシティプロモーションに向かわせる。多くの自治体が拡大都市を採用することは、結果として自治体間競争を招くことになる。自治体間競争は「地方自治体がそれぞれの地域性や空間的特徴などの個性(特色)を生かすことで、創意工夫を凝らした政策を開発し、他地域から住民等を獲得すること」と定義できる。この定義は、やや言い過ぎた感があるものの、すでにこのような取組は少しずつ起きつつある。自治体間競争がいいか悪いかは読者の価値判断である。しかし実際に起こりつつある事実である。
 拡大都市を前提とした、シティプロモーションの具体的な取組は、まずは①認知度を高めることから始まることが多い。そして②情報交流人口、③定住人口、④交流人口の増加を目指す活動でもある。さらに、⑤現在生活している住民が愛着心を持つことも重要である(シビックプライド)。その結果、様々な住民から「選ばれる自治体」に変貌する能動的な活動である。様々な住民は自然人だけではない。法人も対象である。そこで、⑥企業誘致もシティプロモーションの活動となる(図2)。

図2:シティプロモーションの6つの取組
①認知度を高める(自治体の知名度向上)
②情報交流人口の拡大
③定住人口の獲得
④交流人口の増加
⑤既存住民が愛着心を持ち移出ストップ(シビックプライド)
⑥企業誘致 等

もちろん、ここで記した取組以外もシティプロモーションの活動に該当する場合もあるだろう。
 そして筆者は、①から⑥をまとめて「都市や地域の売り込み」と称している。この言葉の「売り込み」がとても大切である。すなわち「何を」、「誰に」売り込むのかが重要である。しかし、この「何を」と「誰に」ということが不明瞭なシティプロモーションが多い。その結果、シティプロモーションは成果を上げられずにいる。そもそも①から⑥の目的が曖昧なシティプロモーションが多いため成果が上がらないのが現状である。この「何を」、「誰に」という考えは、まさしく民間企業の「営業」そのものである。その意味で、シティプロモーションは自治体の営業活動と換言してもよいだろう。
 表は、既存の行政計画から捉えるシティプロモーション等の意味である。自治体により、シティプロモーションは様々な意味があることが理解できる。それぞれの定義の底流にあるものは「都市や地域の売り込み」という部分で比較的共通していると考える。

表:行政計画等から抽出する「シティプロモーション」、「シティセールス」の内容・意義

本来はセールス・プロモーション

 経営学に「セールス・プロモーション」という用語がある。自治体のように「(シティ)セールス」と「(シティ)プロモーション」が分けられているのではなく、一緒に使われている。その意味は「キャンペーンなどを利用して、消費者の購買意欲や流通業者の販売意欲を引き出す取組全般」になる。一般的に民間企業におけるセールス・プロモーションは、①消費者向け、②流通チャネル向け、③社内向けの3種類に大別できる。
 この観点で考えると、自治体のシティプロモーションは、①住民(既存住民+潜在住民)向け、②(自分たちにとって関係のある)民間企業向け、③職員向けの3種類に大別できる。それぞれに対してシティプロモーションを実施していくことが求められる。簡単にいうと、関係者を巻き込み、ファン(熱心な支持者や愛好者)を創造する取組である。
 本来は「セールス・プロモーション」と一緒になって使われるべきである。しかし、自治体の世界に入ると「セールス」と「プロモーション」が分けて使われている。実は「セールス」と「プロモーション」は密接に関係しており、別々に考えることはできない概念である。
 言葉の意味を確認する。セールスは「販売すること。特に外交販売」という意味がある。プロモーションとは「助長、推進、奨励」と定義される。販売戦略(セールス)を考え、そして実際に販売活動にまい進する(プロモーション)ことが「セールス・プロモーション」である。そして販売活動をしていくためには、①「何を売るのか」という「商品」と、その商品を②「誰に売るのか」という「対象層」が明確でなくてはいけない。
 しかし、自治体は売る商品が不明瞭の場合が多い。これは商品の欠如を意味する。そして対象層が老若男女の全てという場合が多い。これは対象層がないことを意味する。この状況では都市や地域の売り込みは成功しない。
 自治体がシティプロモーションを進める上で重要なことは、まずは老若男女全ての住民ニーズを充足した上で、次に一部の住民をメイン・ターゲットとして設定することである(対象層の明確化)。そしてメイン・ターゲットとした住民ウオンツを提供していくための取組(販売商品の決定)が求められる。対象層の明確化と販売商品の決定は、特に順序があるわけではない。政策研究を行い、その過程で決めていけばよい。
 筆者が自治体の現場に行くと、シティプロモーションをする前段階で「何を販売するか」が決まっていない事例が多い。このことを指摘すると、「いや、売るものはある」と反論の声がある。しかしその内容は「あれを売ろう」や「これも売ろう」と売るものが多すぎる場合がほとんどである。それは「販売戦略がない」と全く同じである。そのほか様々な要因が複合的に絡み、シティプロモーションがうまくいかない状況にある。具体的な手段は、次回言及する。

牧瀬稔(一般財団法人地域開発研究所)

この記事の著者

牧瀬稔(一般財団法人地域開発研究所)

一般財団法人地域開発研究所 一般財団法人地域開発研究所主任研究員、法政大学大学院公共政策研究科兼任講師。横須賀市都市政策研究所、財団法人日本都市センター研究室等を経て、2005年より財団法人地域開発研究所所属。戸田市政策研究所(戸田市政策秘書室)政策形成アドバイザー、かすかべ未来研究所(春日部市政策課)同、新宿自治創造研究所(新宿区総合政策部)同、鎌倉市政策創造専門委員(鎌倉市政策創造担当)、横須賀市土地利用調整審議会(委員長職務代理)、三芳町芸術文化懇談会委員(委員長職務代理)等、多数歴任。シティプロモーション自治体等連絡協議会調査研究部会長。著書に『条例探訪─地域主権の現場を歩く』時事通信社(2012年)、『地域魅力を高める「地域ブランド」戦略』東京法令出版(編著、2008年)、『地域力を高めるこれからの協働』第一法規(共著、2006年)など。 ホームページ http://homepage3.nifty.com/makise_minoru/

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