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2024.08.22 議員活動

第10回 剣太14回目の命日から15回目の命日までの間

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2 剣太……15回目の命日〔母/工藤奈美〕

 今回の連載に、剣太の「15回目の命日」について、改めて思いを文字にする機会をいただきました。私の頭の中ではいろいろなことがグルグルと駆け巡り、順序よく整理してお話しすることがとても難しいのです。
 何げなく主人に尋ねてみました。「これまで剣太のことをする中で一番つらかったことって何?」。すると主人は「一番近い身内に『もういい加減、裁判はやめろ!』といわれたことかな……」と即答しました。主人の気持ちは、全てを言わなくても分かります。その言葉が意味するのは、私たちに「もう全てを諦めろ」ということなんです。
 剣太の事件、そして剣太の死を諦めるとは、剣太に起きたことを妥協し認めるということ。そんなことできるわけがない。私たちが闘う姿を見てきた身内から出た言葉だったので、主人はなおさらつらかったのでしょう。このような会話は、剣太の15回目の命日を夫婦で語る時間をつくってくれました。
 次に、「剣太が亡くなった当時、どんな感情だった?」と尋ねました。こんなことを改めて話すことはなかったので、お互いの気持ちを言葉にしました。「つらいとか悲しいとか、そんな感情ではなかった。怒りと、『何で剣太が?』って信じられない気持ち、悪い夢から覚めないような……夢の中でもがき苦しむような感覚だったな……」。二人で答え合わせでもするように当時の気持ちを思い起こしました。当時はこんな感情を口にする余裕はなく、自分の気持ちなど押し殺して、まずは顔を上げ、両手をついて立ち上がることに必死でした。
 鈴木先生といろいろな会話をする中で、こんなことをいったことがありました。「先生が、もし剣太の親であったなら、もっと早くに裁判でいい結果を出せたでしょうね」と。すると先生はいいました。「もし自分だったら、果たして同じ闘いができたかどうか……」。法を勉強された方からすれば、私たちが闘ってきた裁判は勝ち筋の見えないかなり無謀で、誰しもが「無理!」と思う内容だったのでしょう。
 ある大分県の県議にこんな一言をいわれました。「こんな勝てもしない裁判! 諦めなさい! 弁護士も勝てないことをあなたたちに伝え、やめさせるべきだ!」と面と向かって。この言葉は私に「絶対に勝つ! これを認めないのは間違っている!」、そう改めて決意させてくれました。
 裁判が終わり、年月もたっていろいろなことを見てきて思うことは、私たちが起こした国家賠償訴訟、そしてその後の住民訴訟による「求償権の行使」を求める訴訟は、法を学んでいない私たちだからこそ挑んだ裁判であったということです。知らないがゆえに、ただがむしゃらに大きな壁に体当たりすることしか術(すべ)はなく、「だって、こんなのおかしい!!」、ただその思いだけを武器に闘いを挑みました。
 無知もある意味強いのかもしれません。「ダメかもしれない……」とは一切思っていなかったのですから。たくさんの方々のお力を借りてこの裁判を勝ち取り、剣太を死に至らしめた元顧問は「重過失」と認められ責任を問われました。あのとき諦めていたら、この結果はありませんでした。諦めたら、そこから何も生まれないのです。私たちは剣太のことで一切諦めることはしません。

鈴木秀洋(日本大学危機管理学部教授)

この記事の著者

鈴木秀洋(日本大学危機管理学部教授)

日本大学大学院危機管理学研究科教授兼日本大学危機管理学部教授。元文京区子ども家庭支援センター所長、男女協働課長、危機管理課長、総務課課長補佐、特別区法務部等歴任。都道府県、市区町村での審議会委員多数。法務博士(専門職)。保育士。著書に『自治体職員のための行政救済実務ハンドブック 改訂版』(第一法規、2021年)、『行政法の羅針盤』(成文堂、2020年)、『子を、親を、児童虐待から救う』(公職研、2019年)、『虐待・ⅮⅤ・性差別・災害等から市民を守る社会的弱者にしない自治体法務』(第一法規、2021年)等。

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