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2023.03.30 議会改革

第15回 議会と議員と無投票

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自治体議会議員選挙が無投票になるということ

  「なり手が少ない」という懸念自体はよくいわれているし、多くのメディアでも取り上げられ、よく知られる問題となってきた。なり手不足や議会構成メンバーの多様化とあわせ、今回の統一地方選ではアナウンス効果が一定発揮されて、「なり手不足」に意気を感じて立候補してくれる人材、あるいは落選リスクが低いならと立候補する人材もいるかもしれない。もちろん、これまでと同じように、議員となって取り組みたい何かのために立候補する人材も。ただ、それでも、無投票となる議会もやはり少なくないだろう。
 「なり手がいない」「無投票になる」ということは、議会としていい人材を確保するための選抜機能が発揮されない、また議会運営の人数が足りなくなりうる。もちろんそのことは問題だ。ではそれ以外にどんな意味を持つことなのだろうか。
 議会改革にも取り組み、その評価もあげていて、しかし無投票が続く議会の議員と話しているとき、「選挙を経ていないので」という言葉を聞いた。折々に、その事実が意識されているとわかることがある。制度的にではなく、本来的に、議員としての自分や他の同僚議員の存在の根拠を支えるものとして、「選挙を経る」ことは重要なのだ。議会またその一員である議員が、「自治体の意思」を市民の代表として決める権限をもつわけだが、その権限の正統性を担保するために用意された機会としての意味を選挙が持っているということでもある。
 ほかにもある。選挙という機会は、議員と議会とにとって、自分たちという存在を認知してもらう、4年間でもっとも大きな機会で、その機会が持ちうる効果が失われることにも大きな意味がある。
 議員にとってはどうか。選挙になるかと思われながらギリギリで無投票だったとき、用意した法定選挙ビラは廃棄するしかない。選挙カーはすでに期間中レンタルしていて、車上の看板も用意してある。告示日だけは使えて、費用が出るとしても、その1日だけのことだ。金額としても、それまでの準備の時間も、損失は非常に大きい。
 そうしたある意味物理的な損失だけではない。選挙期間の7日間は、候補者たちが不特定多数の市民からできるだけ見えるところに立ち、議員に立候補する自分の意欲や活動を訴える機会だ。市民も訴えに耳を貸したり、訴えることを支えて応援したり。もちろん、ただ目にするだけ、通りすぎるだけの市民も多いだろうが、議員定数プラスアルファの人数がいっせいに動くその時期に、「選挙だ」と認識しない市民は少ないのではないだろうか。議員それぞれとその集合体としての議会を市民が意識する期間が、選挙運動の期間である。
 その期間が無投票になり、失われるものは大きい。議員にとっては、自身の訴えを多くの市民に訴え、かつ、選挙だしと耳に入れてもらえる期間、議会にとっては、その活動を立候補者全員ですることで議会の存在や活動に意識を向けてもらえる期間なのである。さらには、その訴えを通じてまちの課題に着目する市民が生まれうる期間でもある。
 もちろん、無投票となった議会で、全員がその機会が失われたことに落ち込んでいるとも限らない。楽で正直ほっとしたという同僚の声を聞いて、そのことにも落ち込んだと話す議員もいる。無投票になる見込みなら立候補しようと状況を選挙管理委員会に問い合わせる市民もいたそうだ。だが、無投票の可能性は分かっていても自分の思いや公約を伝えたいとビラを作り、断腸の思いで捨てる議員も確かに少なくない。議会改革に取り組んできた議員ならなおさらである。

土山希美枝(法政大学法学部教授)

この記事の著者

土山希美枝(法政大学法学部教授)

龍谷大学政策学部教授を経て、2021年から法政大学法学部教授。法政大学大学院社会科学研究科政治学専攻博士課程修了。博士(政治学)。専門分野は、公共政策、地方自治、日本政治。著書に『質問力で高める議員力・議員力』(中央文化社、2019年)。『「質問力」でつくる政策議会』(公人の友社、2018年)。『高度成長期「都市政策」の政治過程』(日本評論社、2007年)など。北海道芦別市生まれ。

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