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2023.03.30 議会改革

第15回 議会と議員と無投票

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法政大学法学部教授 土山希美枝

「なり手不足」をどう考えるか

  「なり手不足」が懸念される中、統一地方選挙がやってくる。筆者は、「なり手不足」問題は、直接には議員という職業の「処遇とやりがい」の問題、つまり人々の間での議会や議員のあり方や価値に対する理解と評価の問題である、と指摘したことがある。「なり手不足」という一般状況に、そうした理解と評価が要因としてある以上、即効性のある方策は少ない。定数減は、多くの場合、議会の存在を薄くする彌縫策(びほうさく)だ。
 「処遇とやりがい」だが、処遇についてみれば、なり手不足がより深刻と思われる小規模自治体では、処遇を高める努力もされているが、期待されている層、いわゆる社会の現役世代や若者を議員という職業に他の職業から多く誘引できるほど一気に高めることは難しいし、そもそもが、小規模議会に限らず、4年に1回失職するリスクのある職業なのだ。
 やりがいについていえば、議員も議会ももっと語り、もっと伝えるべきだ。議員という職責にどんなやりがいがあって、どんな魅力があるのか。その場である議会にどんな価値があるのか。社会の中の議会や議員に対する理解や評価を更新することは、「なり手不足」の問題だけではないが、「この議会に立候補するかどうか考える」者にとっては重要なことだ。就職活動の学生が、現役社員の声を求めて訪問することを想像すればいい。
 議員の「なり手不足」の一般状況に対してではなく、「なり手不足」問題を抱える個別の議会にとっての対策としていえるとすれば、「議員になってほしい人を口説く」ということも挙げておきたい。現在の議員と議会に対する一般の理解や評価が高いと感じている人は多くないだろう。そんな中で、議員になろうという動機をもつ人はいわば「物好きなひと」だ。できれば、こんにち求められる議員と議会のあり方を理解して、議員としてわがまちの政策課題を提起する、その職責に取り組んでくれる人材、この人に議員になってほしいと思う人材に、そのまちの事情通である議員たちに心当たりがない、あるいは探しても見つからない、そうした状況が一般的なのだろうか。そうだとすると事態は相当に深刻だが、果たしてそうだろうか?
 そうした人材をさがし、議員に立候補してほしい人がいたら、立候補してくれるよう口説かないなどもったいないことだ。もちろん、口説いたから当選を保証するなどということはあり得ないし、他の立候補者と同様のルールで選挙を勝ち抜いてもらわないといけない。でも、立候補を決めるための情報、例えば「処遇とやりがい」や議員としての生活のあり方、立候補後の選挙活動の仕方、当選したあとの議会や同僚議員の雰囲気は詳しく伝えられるだろう。相談にも乗れるだろう。良い人材を求める企業が、企業説明やリクルーターをおくことを考えればいい。「他のライバルを増やすような活動はできない」といわれるだろう。「議員として」はその気持ちは理解できる。ただ、だから、「議会として」の課題に取り組むことが、取り組む人が、皆無なのだとしたら、「議会として」の当事者意識が問われることもやむを得ないのではないか?
 立候補するということは、立候補したことがある人の多くにとってそうであるように、人生を変える転職だ。特に、いま問題とされている属性の偏差を変え、多様な人材を求めているのであれば、人生を変える選択の重さを超えて立候補しようと決意する「気持ち」になってくれるための方策やはたらきかけが、自分のときよりさらに強くしないと、新しい「なり手」は出てこないのではないか。
 めぼしい人材を直接口説くのは、個別の地域の、特定の選挙で行われることで、「今回、このまちで、あなたに立候補してほしい」ということだが、「なり手不足」問題に、おそらくそれ以外の即効性のある対策は難しい。処遇を変えることは簡単ではないし、「やりがい」についてもそうだ。多くの場合、「議員になりたくて議員になる」というより「取り組みたいこと(政策課題やまちに貢献すること)があって議員になる」し、議員になってほしい人材も後者であろう。そうであれば、そうした「取り組みたいこと」がある人材(そうした人材は、言ってしまえば、この現状ではものずきでありがたい人材だ)に、それができる、またそのために労力を費やす価値がある「場」と「職業」であると思ってもらう必要がある。
 それは議会と議員が社会にとって必要で有益な存在だと理解してもらうことと同義だ。そして、立候補者だけでなく、人々に広くそう理解してもらうことが、「なり手不足」の根治治療というか体質改善につながる対策なのではないだろうか。そのためには、議会が、実績、それは筆者の言い方では議会をヒロバとした議論による自治体〈政策・制度〉に対する「制御」となるのだが、そうした実績を重ねそれを周知することが継続的に求められる……というか、その取組みはそもそも議会が本来果たすべきミッションであって、本来するべきことの質量をより充実させ、それをしっかり広報するという、永続的な改革の実践に帰結する。「なり手不足」は、社会全体の議会への市民の無関心を嘆き、メディアのあり方に不満をいうだけでは変わらないし、ましてや地方自治法が多少書きぶりを変えたからといって変わらない。
 最近の例で、「なり手不足」に危機感を持っていて、議会としてではないが数名でこれはと思う人材を口説くこともし、議会改革にも熱心に取り組んでいた自治体が無投票になった例がある。議会改革をすすめたことが「たいへんな職責」と思われてしまったのではないか、ともいわれていた。本当に難しい。だが、そうした議会で議員になることを「いい」と思ってくれる人材、議員としてともに活動してほしいと思える人材を探すことは、なにより「まちのため」に必要だ。自治体の枠を超えて有志の議員で、あるいは議会の多様化に期待する市民で、関心のある市民向けのセミナーや勉強会を行う活動も近年見られ始めた。当事者である議会、議会同士の連携、議長会での取組みにも期待される。
 根治治療も対症療法も、もちろん今次の統一地方選挙には間に合わない。むしろ、今回の選挙のあと、次にむけて、「議会として」人材のリクルートに取り組むときにあらためて考えていただきたい。「なり手不足」はまだ続く。立候補しうる人にとっては「処遇とやりがい」の問題であって、議会にとっては人材のリクルートという問題である。

土山希美枝(法政大学法学部教授)

この記事の著者

土山希美枝(法政大学法学部教授)

龍谷大学政策学部教授を経て、2021年から法政大学法学部教授。法政大学大学院社会科学研究科政治学専攻博士課程修了。博士(政治学)。専門分野は、公共政策、地方自治、日本政治。著書に『質問力で高める議員力・議員力』(中央文化社、2019年)。『「質問力」でつくる政策議会』(公人の友社、2018年)。『高度成長期「都市政策」の政治過程』(日本評論社、2007年)など。北海道芦別市生まれ。

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