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2022.06.27 議員活動

第1回 剣太からのバトン─時間は当事者の気持ちを軽くしない

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第2 時間は当事者の気持ちを軽くしない

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中学でケーキづくり

 これまで、剣太事件を取り上げた番組は数多くあるが、事件後10年目の両親の姿を追ったものとして、JNNドキュメンタリー『ザ・フォーカス「剣太の命~闘い続けた10年目の夏~」』(2018(平成30)年12月16日放送)がある。
 この番組では、剣太の両親、英士さんと奈美さんが、テレビ局に保管されていた剣太の昔の映像を視聴している姿を映している。
 =小学5年生の剣太=
 小学5年生の剣太が、農業体験をしている場面。画面の剣太に向かって声をかける二人。
[奈美さん]:「あっ剣ちゃん、剣ちゃん!」、「なつかしい、剣太、元気?!」
[奈美さん]:「(剣太は)絶対に敷き詰めるっていったら、(種を)きれいに敷き詰める(子だから)な」
[英士さん]:「おまえ(剣太)らしいな」
[奈美さん]:「久しぶりに剣君に会えたなぁ。なつかしいなぁ。あぁ、なつかしい、うれしいなぁ」
 =場面が変わり、今度は高校生の剣太=
 2008(平成20)年、高校生になった剣太がカメラの前に立つ。剣太は、10年後の夢(将来のひととき)を語る。
[剣太]:(泳ぐ姿と日差しを浴びている姿を表現する短髪の剣太)「竹田高校1年剣道部、工藤剣太です。10年後の私は、髪を伸ばしていて、好きになった子と一緒に海外旅行をして楽しんでいます」
 再び、剣太に声をかける奈美さん。
[奈美さん]:「剣くーん!」
 剣太をじっと見つめながら、涙を拭う二人。
 そして、自分を必死に奮い立たせようとして、剣太の母になれたことの幸せを語る奈美さんの姿が映される。
 この報道番組のひとこまは、剣太が亡くなってから(この事件では剣太は殺されたとの表現以外どのような表現を用いても不適切に思える)、ご両親が提起してきた国家賠償訴訟(地裁、高裁、最高裁)と求償権訴訟(地裁、高裁、高裁確定)の闘いが小休止した10年目の瞬間をとらえたものである。
 この番組で気丈に振る舞う両親の姿は、かえって、喪失感が一分たりとも埋められていないことを感じさせるものであった。
 筆者は、これまで虐待・DV事案、学校事故・いじめ事件等の事案に関して、紛争ケースを職務上数多く経験してきた。また、個人的にも多くの事件等に直面し、相談を数多く受けてきた体験を持つ。こうしたつらく苦しい事件と重ね合わせ、何とか剣太事件を理解しようとしている。
 しかし、本当の意味で筆者は、英士さんと奈美さんの心情を理解できていないのであろうといつも胸に手を当てる。同じ思いを追体験しようという努力は必要なことであろうと繰り返す。しかし、話を聞けば聞くほど、想像を絶する苦しみと悲しみ、怒り、自責の念など様々な思いがあふれ出続け、一瞬たりとも安らかな時間が存在しなかった十数年であったことがひしひしと伝わってくる。
 英士さんからは、「先生、先生は本当に人を殺したいって思ったことありますか?!」と問われたことがある。
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父との写真

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母との写真

 そして、奈美さんからは、「先生、私何度も自殺しようと思ったんです。早く剣太のところ行こうと思って。剣太のほかにも大事な子どもたちを育てていかなくてはならなかったのにね……」、「健康診断なんて受けないよ。だって明日死んでもいい。今日でもいいって思って生きてきたから。健康診断受けずに余命宣告されれば、そんなうれしいことはない……」と聞かされた。
 どんな気持ちでこれまでかろうじて生きてきたかの一端を、日々教えてもらっている。
 筆者の想像を絶する思いの中で、今でも何とか気持ちを封じ込めながら一日一日を生きているのであろう二人の言葉、そうした二人の紡ぎ出す言葉を、少しでも残し、伝えていくことは、学校事故や行政事件を多く担当してきた立ち位置にいる筆者の使命であろうと考える。その思いも、この連載で皆さんに伝えたいと思う。
 剣太のために闘い続けてきた二人は、今では、全国の類似事件、多くの遺族の思いを背負い、背負わされながら、剣太のための闘いを、未来の子どもの命を守るための闘いにつなげている。多くの支援を受けつつ、多くの人を巻き込みながら、満身創痍(そうい)になりながらも、剣太の遺(のこ)したメッセージを後世に伝えるために、子どもの命を守るために、未来の扉を開き続けている。その闘いをたどってみる。
 

鈴木秀洋(日本大学危機管理学部教授)

この記事の著者

鈴木秀洋(日本大学危機管理学部教授)

日本大学大学院危機管理学研究科教授兼日本大学危機管理学部教授。元文京区子ども家庭支援センター所長、男女協働課長、危機管理課長、総務課課長補佐、特別区法務部等歴任。都道府県、市区町村での審議会委員多数。法務博士(専門職)。保育士。著書に『自治体職員のための行政救済実務ハンドブック 改訂版』(第一法規、2021年)、『行政法の羅針盤』(成文堂、2020年)、『子を、親を、児童虐待から救う』(公職研、2019年)、『虐待・ⅮⅤ・性差別・災害等から市民を守る社会的弱者にしない自治体法務』(第一法規、2021年)等。

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