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2021.04.12 政策研究

住民を社会的弱者にしないために自治体・議会・議員はどうあるべきか

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2 議会・議員の果たすべき役割

 筆者はこれまで、文書・法務・裁判(23区法務部)担当、監査(住民監査請求)担当、秘書担当、危機管理(災害弱者・安全・安心まちづくり・暴力団)担当、ジェンダー(男女平等・DV・ストーカー対応)担当、児童福祉(児童虐待)担当と、一人の行政担当者が歩むポストとしては、比較的稀有(けう)なポジションを担当してきた。法務を土台にそれぞれの部門での行政課題を解決してきた。管理職として組織の動かし方を念頭にマネジメントにも関わり、かつ、警察、消防、病院、大学、民間・NPO各種団体等多機関と連動することで問題解決に取り組んできた。こうした自治体公務員としての歩みとその後の研究者としての全国の自治体の調査・研修・フィールドワークを通して今強く感じることがある。それは、自治体の施策提言・実現における議会・議員の果たす役割の大きさである。
 日本国憲法では、地方自治制度の章が設けられている。憲法の究極の価値とされる憲法13条が規定する個人の尊厳(前段)と個々人の幸福追求権(後段)を保障するためには、国における三権分立制度とともに、地方自治制度が不可欠であると考えたのである。地方自治の本旨は、自由主義の観点から国から独立したガバナンス機能(団体自治)と民主主義の観点から住民参画機能(住民自治)をその内実とする。国と地方の関係は上下関係ではなく対等な関係であり、担うべき射程・所掌が異なるにすぎない。このことは地方分権一括法制定後、一層明確になって現在に至る。
 そして、地方自治制度は、憲法13条の地方自治法上の表れである「住民の福祉の増進」(地方自治法1条の2)を究極の理念として掲げ、その実現手段としては、国と異なり執行機関と議会との二元的代表制を定める。国の議会と内閣の関係に比して、より住民に近い立ち位置で執行機関と議会とが住民の福祉の増進のために、政治・政策・施策に関して、抑制と均衡を行うことが理念型として定められている。
 執行機関のみでなく議会そして議会を構成する議員が持つ施策実現に向けた影響力は国の場合に比してはるかに迅速かつ直接的であり、地域住民に対し負っている責務は大きい。

3 社会モデルとしての社会的弱者に向き合う

 ここまで、自治体の重点的に取り組むべき課題を挙げ、議会・議員の果たすべき責務の大きさについて論じてきた。
 では、上記の重点課題に対して、どのような視座・構えが必要なのであろうか。いわゆる社会的弱者という用語が使われ、ともすると「社会的弱者のための」施策というアプローチがされる。しかし、根本的には、まずは自治体側のマインドリセットが必要である。思考の軸・土台として、社会的弱者側に原因を求める医療モデルから社会モデルへの転換が重要なのである。すなわち、社会的弱者といわれる状況がつくられている原因は、社会にあり、行政の施策・制度設計にあるという理解である。
 行政の諸制度は、「標準」、「普通」という行政側が考えた住民像を基にした制度設計で組み立てられている。多様で様々な住民を包摂し、それらに対応することをむしろ原則とする制度変更が必要なのである。抽象的な住民などは誰一人としていない。凸凹を想定した社会的モデルとしての自治体行政(財政手当・人事対応・法制度づくり)が求められているのである。

4 自治体の施策のけん引者として──展望

 こうした状況への取組みは、国よりもむしろ地方議会と地方議員こそが、よくなし得ることである。議員は、住民と一番近い位置にいて、直接住民の泣き笑いを見て、感じているはずである。日々住民から日常生活における子育て相談、被害相談、高齢者サービスの不備や障害対応の欠如などの相談を受けたり、保育園や小中学校でのいじめや教師の問題などの情報も相当耳に入っているであろう。日頃から防災訓練を行い、地域で災害時の避難所開設を担当する議員もいよう。このように地域に密着した活動をしている議員が、執行機関が出してきた議案や施策の説明を聞き、間違いを指摘するだけではもったいないではないか。どんどん施策提言をして、社会的弱者を生まない地域づくりの先頭に立ってほしい。
 筆者は、コロナ禍の今だからこそ、そうした活動を援護するために『虐待・DV・性差別・災害等から市民を守る 社会的弱者にしない自治体法務』(第一法規、2021年)を執筆した。本書を議員の皆さんに送る。データも豊富に収めている。住民の安全・安心を守っていくための政策立案の武器として身に着け、研修や勉強会で大いに使ってほしい。なお、本書は、筆者の実務家及び学者としての歩みの記録であり、魂を込めて書いた書である。さっと読んで全部理解できるほど簡単な本ではなかろう。しかし、だからこそ、分かりづらい点などがあったら、遠慮せず対話の場に呼んでほしい。喜んで対話相手として皆さんの自治体に出向いていきたいと思う。

<著者近著>
(タイトルクリックで詳細ページに遷移します)

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虐待・DV・性差別・災害等から市民を守る社会的弱者にしない自治体法務

 

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『自治体職員のための行政救済実務ハンドブック 改訂版』

鈴木秀洋(日本大学危機管理学部准教授)

この記事の著者

鈴木秀洋(日本大学危機管理学部准教授)

元文京区子ども家庭支援センター所長、男女協働課長、危機管理課長、総務課課長補佐、特別区法務部等歴任。都道府県、市区町村での審議会委員多数。法務博士(専門職)。保育士。著書に『自治体職員のための行政救済実務ハンドブック 改訂版』(第一法規、2021年)、『行政法の羅針盤』(成文堂、2020年)、『子を、親を、児童虐待から救う』(公職研、2019年)等。

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