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2020.11.10 議員活動

第3回 中央防波堤埋立地の帰属を巡る江東区・大田区の紛争を考える

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境界を定めるための判断基準はどのようなものか

千葉貴仁〔弁〕 地方自治体同士での境界確定について、リーディングケースとなる最高裁判決はあるのでしょうか。
中川〔弁〕 茨城県真壁郡真壁町と同県筑波郡筑波町との境界を巡って、境界が筑波山の分水嶺にほぼ沿う線なのか、分水嶺よりさらに北側の山腹を走る線なのかが争点となった事件について判断した最高裁判決があります(最一小判昭和61年5月29日民集40巻4号603頁)。
千葉〔弁〕 この判例はどのような規範(判断基準)を示したのでしょうか。
中川〔弁〕 まず、江戸時代における関係町村の当該係争地域に対する支配・管理・利用等の状況を調べます。その「おおよその区分線」が分かった場合には、これを基準として境界を確定することになります。そして、区分線が分からない場合には、以下のような事情を考慮の上、「最も衡平妥当な線」を見いだしてこれを境界と定めるものとしています。
【最も衡平妥当な線を見いだすための事情】
① 当該係争地域の歴史的沿革
② 明治以降における関係町村の行政権行使の実状
③ 国又は都道府県の行政機関の管轄
④ 住民の社会・経済生活上の便益
⑤ 地勢上の特性等の自然的条件
⑥ 地積
千葉〔弁〕 判例は、どうして「江戸時代」における状況を調べるよう求めているのでしょうか。
中川〔弁〕 江戸時代から存続した町村の区域が明治政府によって承継され、それが現在の町村の区域をなしているからです。
千葉〔弁〕 「最も衡平妥当な線」というのは、どのようなものですか。
中川〔弁〕 判例では、この「最も衡平妥当な線」を判断するに当たっては、「等距離線主義」が採用されています(最三小判平成10年11月10日判例地方自治185号18頁)。今回の題材の裁判例も等距離線主義を採用しています。
千葉〔弁〕 「等距離線主義」というのは、どのような基準なのでしょうか。
中川〔弁〕 その線上のどの点においても、その点から両市町村の水際線(水域と陸域の、境界線あるいは境界域)上の最も近くにある点への距離が等しいような線を境界とする考え方です。
千葉〔弁〕 等距離線主義以外に境界を決める方法はないのですか。
中川〔弁〕 関西国際空港の空港島の帰属を定めるときに編み出された方式である、平行線比例按分方式というものもあります。これは大阪府知事が学識経験者の研究会で編み出した方法で、各市町村の海岸線を直線の形で沖に平行移動して境界を決める方式です。

江東区・大田区の紛争について

滝口〔弁〕 今回の題材の裁判例では、江東区と大田区はどのような主張をしたのでしょうか。まず、江東区はいかがでしょうか。
中川〔弁〕 双方の主張は多岐にわたっていますが、ここではあえて単純化して述べさせていただきます。江東区は、第1次的申立てで、中央防波堤埋立地の全部が江東区に帰属するとしつつ、第2次的申立てで、現在の水際線を起点とする等距離線を基本とし、最も衡平妥当な境界線を確定すべきとする考えです。判例の判断基準との関係では、①「江戸時代のおおよその区分線」を判断できない、②中央防波堤埋立地が東京都のごみ問題解決のための埋立地であり、ごみの埋立処分に伴う江東区民の多大な忍耐と犠牲の上に造成されたという歴史的経緯などから「最も衡平妥当な線」を見いだすべきといった主張をしています。
滝口〔弁〕 大田区についてはいかがでしょうか。
中川〔弁〕 大田区の主張についても、ここではあえて単純化します。大田区は、中央防波堤埋立地の全部が大田区に帰属するとの考えです。判例の判断基準との関係では、①海苔(のり)養殖や漁場の利用状況などから「江戸時代のおおよその区分線」を判断できる、②羽田空港や東京港との一体的な活用が必要であり、住民の社会・経済生活上の便益があることなどを考慮して「最も衡平妥当な線」を定めるべきであるといった主張をしています。
滝口〔弁〕 裁判所はどのような判断基準を採用したのでしょうか。
中川〔弁〕 先ほどの判例と同様の判断基準です。まずは「江戸時代のおおよその区分線」を判断し、これを判断できないときに、等距離線を考慮して「最も衡平妥当な線」を判断しています。
滝口〔弁〕 裁判所は「江戸時代のおおよその区分線」についてどのような判断をしたのでしょうか。
中川〔弁〕 「江戸時代のおおよその区分線」を判断できないものとしました。
滝口〔弁〕 等距離線を確定しましたか。
中川〔弁〕 現在行政区域として確定している水際線を前提に等距離線を確定しました(江東区89.3%対大田区10.7%)。

 

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【本件で裁判所が採用した等距離線図】
出典:判決文に別紙7として添付されているもの
(東京地判令和元年9月20日判時2442号38頁)


滝口〔弁〕 等距離線のままの認定をしたのでしょうか。
中川〔弁〕 いいえ。等距離線を踏まえて、埋立地の管理・利用状況などの各種の修正要素を考慮しました。最終的には「江東区79.3%対大田区20.7%」という判決を言い渡しています。

 

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【東京地裁判決で確定した内容】
出典: 江東区ホームページ「中央防波堤埋立地の帰属について」(https://www.city.koto.lg.jp/010121/kuse/shisaku/torikumi/20191007.html)

中川洋子(弁護士)

この記事の著者

中川洋子(弁護士)

東京大学法科大学院修了、2015年弁護士登録(第一東京弁護士会)。経営法曹会議会員。第一東京弁護士会労働法制委員会委員。著書・論文として「多様化する労働契約における人事評価の法律実務」(労働開発研究会・共著)、「現在の制度検証から労働組合との交渉まで 制度変更時のプロセスに即した実務課題と紛争予防の視点」(中央経済社「ビジネス法務」2020.12)。

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