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2020.08.25 議員活動

第2回 福岡市屋台基本条例から「まちづくり」を考える

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「名義借り」は許可の対象なのか

加藤 終戦の混乱期の闇市から屋台営業が始まって、それが時代の経過とともに既得権益となってしまった印象があります。そういうグレーな部分についてお聞きしたいです。例えば、すでに廃業している人や名義貸しをしている人は、もちろん排除されるのですよね?
花田 そのとおりです。この人たちを除くことに異論はないでしょう。実態がないわけですから。
加藤 では、名義を貸すのではなく、借りている人はどうなるのですか?
花田 条例では名義借り屋台についても、一定の範囲で許可の対象としています。
加藤 えっ? 名義借りの存在を許しているのですか? 許可を受けた人と実際に屋台の営業を行っている人とが一致しないわけですから、違法状態なのではないですか。
花田 確かに違法ですし、本来は即時に営業をやめさせるべきというのはそのとおりだと思います。ただ、それで生計を立てている人々をむげにはできないということなのでしょう。生活再建に必要な猶予期間として、屋台営業を生活手段にしている名義借り業者については、3年間を限度に許可の対象としています。
加藤 猶予期間を過ぎたときには、名義借り屋台はこれ以上、屋台営業ができなくなるのですか?
花田 猶予期間が経過すれば屋台営業ができなくなります。とはいえ、公募に応募する形で新たに申請をして許可を得れば、屋台営業を続けることが可能となっています。もし新規に許可が出れば、その人自身が許可占用者ということになりますので、もはや名義借り業者ではありません。

それが「名義借り」だとなぜ分かるのか

加藤 行政としては、どのような手法で各屋台が名義借り屋台だと認定・評価するのでしょうか。
花田 今回の裁判例では、各屋台の実質的な営業者が誰なのかが争点の一つになっており、福岡市の職員が各屋台を訪れて営業実態を確認する「行政調査」を実施しています。
加藤 他には何か考慮した事情はあるのでしょうか?
花田 裁判例では、先ほどの行政調査だけではなく、個人事業としての税務申告の状況といった事情も判断要素に加えています。
上村 裁判所には行政の判断を事後的にチェックする役割があります。行政と裁判所とでは、それぞれの判断要素が異なってくるのはよくあることです。

「名義借り」を許容するべきか

滝口 福岡市の屋台の場合、権利関係がぐちゃぐちゃになっている状況で条例を制定して何とか整理しようとしたという特殊性があると思います。ルールづくりをする上で、実態として現実に存在するものをどこまで受け止めながらルール化を進めていくのが適切なのでしょうか?
花田 今回の裁判例で問題となった名義借りというのは、本来的には条例違反といえます。「名義借り業者はバッサリ切ってしまう」というのは、政策の選択肢の一つとしてはありうるところでしょう。しかし、それで生計を維持している人もいますので、一定の配慮をしていることは大切だと思います。
加藤 現在、東京都では「新型コロナウイルス感染症拡大防止協力金」を交付していますが、名義借りの店舗については交付の対象外となっています。名義借りというのは、本来は法の抜け道として厳しく取り締まるべき存在です。闇市から始まった屋台の既得権益というグレーをどう残すかは、最終的には民意にもよるということなのでしょう。
大倉たかひろ〔議〕 福岡市は、福岡市民からどこまで理解を得られるかという観点を重視して、対象者をどこまでにするかという線引きをしたのでしょう。名義借りにまで踏み込んでいったのは、行政としてぎりぎりのバランスをとった結果だと思います。

まちづくりの観点から

千葉 私のような一人の観光客の目線からすると、屋台はすてきな存在といえます。とはいえ、その地域に住んでいる市民の立場から見れば、「煩わしい」といった苦情は考えられませんか。
大倉 確かに、地元に住んでいる人からすれば騒音やごみは切実な問題ですので、屋台が大事な観光資源の一つだといわれても、それだけでは納得できない面もあるでしょう。
本目さよ〔議〕
福岡を訪れる観光客からすれば、ごちゃっと屋台が並んでいること自体が魅力なのだと思います。住民にとっては、屋台があることが煩わしいと捉えるかどうかは状況次第なのではないでしょうか。

「屋台」と「キッチンカー」

滝口 今回は福岡の屋台村をテーマにしました。議員の先生方の区には、屋台はありますか?
本目 台東区ではあまり記憶がありません。
加藤 中野区でも同じです。
大倉 品川区もすぐには思いつきません。
滝口 屋台というとしっくりこない自治体もあるのかもしれません。でも、屋台をキッチンカーに置き換えて考えてもらえれば分かりやすいかと思います。
上村 まちづくりという観点からは、キッチンカーは有用でしょうか?
大倉 品川区では観光に力を入れています。しながわ水族館や大井競馬場などです。私個人としても、まちづくりのために何かできないかと常日頃から考えています。行政自身がキッチンカーを運用するということはありませんが、参加を呼びかけやすいし、費用がかかりにくいという特徴がありますので、キッチンカーはにぎわいづくりに有用だと思います。
滝口 最近ですと、マンションの空きスペースにキッチンカーが出店したりしています。イベントに限らず、市民生活の中にキッチンカーが登場する場面は増えてきているようです。
本目 屋台と同じように、騒音やごみの問題が起きることもあるかもしれませんね。

おわりに

 今回の勉強会での議論を経て、「福岡市屋台基本条例」とは、文化と生活の利便など様々な要素を調和させて理想のまちづくりに正面から挑んだ成果であると感じているところです。このような視点は地方自治の場でも、司法の場でも、幅広く生かされるべきものといえます。

滝口大志(弁護士)

この記事の著者

滝口大志(弁護士)

1982年千葉県生まれ 千葉大学法経学部法学科卒業、九州大学法科大学院修了 弁護士登録(第一東京弁護士会)(新第65期) 主な著書に、『建物明渡請求の事件処理50』(税務経理協会、2016年)など

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