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2020.05.08

4月30日行政課長通知を読み説く

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議会事務局実務研究会 吉田利宏

1 通知の内容

 令和2年4月30日、総務省自治行政局行政課長から通知「新型コロナウイルス感染症対策に係る地方公共団体における議会の委員会の開催方法について」(総行行第117号)が発出された。
 本稿は、この通知の意味を読み説き、自治体議会としてすべきこと、すべきでないことの方向性を早い段階でお示しすることをねらいとしている。早くも、通知に基づく措置の実現に動き始めた議会もあると聞く。検討が不十分なところは承知の上、議論を始めた各議会の資料のひとつとして提供できればと思う。
 通知の根幹部分は以下のような問と答から成っている。

 新型コロナウイルス感染症対策のため、委員会をいわゆるオンライン会議により開催することは差し支えないか。

 議会の議員が委員会に出席することは不要不急の外出には当らないものと考えられるが、各団体の条例や会議規則等について必要に応じて改正等の措置を講じ、新型コロナウイルス感染症のまん延防止措置の観点等から委員会の開催場所への参集が困難と判断される実態がある場合に、映像と音声の送受信により相手方の状態を相互に認識しながら通話をすることができる方法を活用することで委員会を開催することは差し支えないと考えられる。
 その際には、現に会議室にいる状態と同種の環境をできる限り確保するため、議事の公開の要請への配慮、議員の本人確認や自由な意思表明の確保等に十分留意するとともに、情報セキュリティ対策を適切に講じる必要がある。
 なお、法第113条及び第116条第1項における本会議への「出席」については、現に議場にいることと解されているので、念のために申し添える。

2 通知の性格

 「総務省からリモート委員会開催の許可が出た」。議会関係者のなかにはこうした向きでとらえる者もいよう。また、「自治体議会のことに、国が課長通知で指示するとは何たることか」と反発心を持って迎えた者もいるだろう。
 ただ、この通知の性格は通知自体に書かれているように「技術的な助言」に過ぎない。地方自治法109条9項には「前各項に定めるもののほか、委員の選任その他委員会に関し必要な事項は、条例で定める」とある。
 そもそも議会の内部組織である委員会について必要な事項は、自治体が条例で定めることになっている。委員会の組織や委員の選任など、委員会が活動するための大前提は条例で、委員会の事項であっても運営事項は会議規則によるが、その振り分けは非常にあいまいである。委員会が活動能力を持つための定足数はまさにその境界線にあるといえるが、各議長会の標準例規では、委員会条例のなかで扱われている。自治体議会はこの振り分けに従っていることと思う。つまり、地方自治法113条に定める本会議の定足数とは異なる扱いがされているのである。こうしたことを踏まえても、そもそもどのような形で委員会の定足数を定め、議会運営を行うかは自治体議会の決めるべき問題といえる。こうしたなかでの通知であることをまず理解する必要がある。

〇地方自治法
 第113条 普通地方公共団体の議会は、議員の定数の半数以上の議員が出席しなければ、会議を開くことができない。但し、第117条の規定による除斥のため半数に達しないとき、同一の事件につき再度招集してもなお半数に達しないとき、又は招集に応じても出席議員が定数を欠き議長において出席を催告してもなお半数に達しないとき若しくは半数に達してもその後半数に達しなくなつたときは、この限りでない。
 第116条 この法律に特別の定がある場合を除く外、普通地方公共団体の議会の議事は、出席議員の過半数でこれを決し、可否同数のときは、議長の決するところによる。
② 略

 また、通知の最後の部分にある「法第113条及び第116条第1項における本会議への『出席』については、現に議場にいることと解されているので、念のために申し添える」にも注目したい。委員会に関する事項は自治体が定めることができるといっても、委員会条例にある「出席」を、「リモートシステムによる出席」と解釈することはできないとしたものと考えられる。同じ定足数の場面で使われる「出席」という言葉の意味を法律の解釈(本会議についての解釈)と条例の解釈で異ならせることは不自然であり、少なくともそうしたズレを国は容認したくないという意思を表したものであろう。条例の解釈権は一義的には自治体にあり、最終判断は裁判所にしか下せないことを考えると、法的には100パーセントそう解釈できないとはいえないわけであるが、よほどの「覚悟」がないとこの手は使えないということになるし、現状況下で国と争うエネルギーの喪失は避けたい。国が期待する「条例や会議規則等の改正」で対処すべきことが得策だろう。

3 条例上の手当てについて

 前述のように、この通知を根拠に今後は、自治体(自治体議会)の判断でリアルな出席を伴わず、委員会運営ができると考えるのは少し違う。あくまでも「新型コロナウイルス感染症のまん延防止措置の観点等から委員会の開催場所への参集が困難と判断される実態がある場合」の措置として組み立てる必要がある。喫緊の課題は新型コロナウイルスへの対応であるが、同じように「参集が困難な事例」を挙げることができれば、それも含めることができるだろう。自然災害時の対応も含めて、この際、まとめておくことも可能だ。ただ、今回は喫緊の課題であることや、リモート委員会の課題に十分な知見や経験がないなかで行われる条例改正などであることを考えると、「コロナ対応」としてまずは特例的な対応をし、今回の経験を踏まえて、平常時に災害時のリモート委員会に対応する条例改正などを行うのがいいのではないだろうかと考える。
 となると、リモート委員会のための委員会改正は特例的な措置であり、特別法的なしつらえが自然となる。
 当面、コロナ対応だけに絞れば、「新型コロナウイルス感染症等の影響に対応するための委員会条例の特例に関する条例」といった題名になるだろうか。特例(特別法)であれば、その特例となる期間や場合を定めなければならない。これはそれぞれの議会の判断するところだが、「出席」がより議会の本来の役割を果たすものであることを踏まえれば、特例は限定的で、しかも、適用される期間や場合の客観性が問題となるだろう。緊急事態宣言期間中や緊急事態宣言期間から一定の期間を経過するまでの期間(特定期間)とすることが望ましいかもしれない。この場合には「新型インフルエンザ等緊急事態宣言に伴う委員会条例の特例に関する条例」という題名での構成も考えられる。  条文の作りとして一番簡単なのは、特定期間における条文の読み替えであろう。
 検討が不十分かもしれないが、都道府県標準委員会条例を例にとると、左の条文を右のように読み替えてみてはどうだろうか。
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 こうしておけば、他の部分の「出席」(「出席議員」や執行機関の「出席」)をもカバーすることになる。また、委員長が命令に従わない者へ退場させることができるとする規定の「退場」や「退席」も読み替え規定を置くことになろう。「特定期間においては、退場(退席)又は映像及び音声の送受信により相手方の状態を相互に認識しながら通話をすることができる方法として議長で定める方法による参加の停止」とでもするのであろうか。また、「委員会の招集日時及び場所」を決めてとあるところは「委員会の招集日時」と読み替えることが必要だ。リモート委員会では、場所という概念がないからだ。こうした読み替えとは別に「議会運営上のくふう」と「実務上のくふう」は必要となろう。そうしたくふうを踏まえて、会議規則の特例措置や新たな申合せも必要となるだろう。

4 「議会運営上のくふう」と「実務上のくふう」

 通知を読んで気になったのが、委員会の公開についての記述だ。「議事の公開の要請への配慮」と表現しているが、これは委員会の公開まで地方自治法上、求められていないことに対応する表現と読み説かなければならない。多くの自治体では、議会基本条例で委員会を含めての会議を原則、公開としているはずだ。法(条例)に「原則」と規定するからには、その「例外」は法(条例)に定められた例外である秘密会ということになる。つまり、通知は「配慮」としているが、委員会の公開を義務付けた議会基本条例を持つ議会では、秘密会を除き必ず公開しなければならないといえる。
 会議録や録画の公開はもちろんであるが、委員長は委員会室などでリモート委員会を主宰しつつ、その画面を大写しにして、報道機関や希望する者があれば傍聴できるようにするなどのくふうも必要となろう。また、敢えて、委員会条例上の秘密会に関する規定を削除する必要はないが、リモート委員会では秘密会をなるべく行わないことを申合せなどですることも議会の知恵として考えられる。リモート委員会に対する住民の信頼性は現時点では低いからだ。公開性に関する弱点は意識しておきたい。また、リモート委員会でメリハリある審議を実現しようとすれば、委員会の前の打ち合わせ会といったものも必要になることだろう。国会や大事規模自治体議会では委員会の理事会などで、委員会の進め方や懸案などについて先に議論をしている実態がある。あまりやりすぎると、非公開部分を増やし、委員会が形骸化する。しかし、運営が行き当たりばったりで、質疑も重複し放題、困った際には休憩を繰り返すという委員会運営がなされているとすれば、この際、見直しのチャンスとなるだろう。
 また、「新型コロナウイルス感染症対策」ということを考えれば、委員会に対応する執行部側にも配慮が必要だ。部長や課長の後ろでたくさんの職員が補佐する状況は、特例条例の趣旨にそぐわないだろう。これまで、答弁調整を一切行わなかった議会であっても、質問通告書をより詳しく記載しこれを公開するとか、議員の質疑に明確に答えられなくとも、追って資料などを提出することでその場は「納める」などの知恵や申し合わせも求められるかもしれない。
 表決も、起立は画面からは見づらいとなると、この間は挙手に限るとする申合せも求められるだろう。この際に、書類の「提出」や「配布」を恒常的な改正として「電磁的記録の提供を含む」としておく方法もある。
 議会、執行部側ともに、時間も人材も有限であり、それをどう住民のために効果的に使うかという視点で、見直すチャンスにしたい。
 次の定例会までには少し時間がある。今後、多くの論者が「議会運営上のくふう」と「実務上のくふう」につき知恵を出してくれるであろうことを期待して、本稿はこの程度にしておこうと思う。

5 今後の波及など

 リモート委員会の実現は、特例的な措置とはいえ、妊娠・出産で議会に出席できない議員のリモート参加などにもつながることだろうと思う。しかし、議会に議員が参集し、議論することが基本であることをもう一度、確認しておきたい。物理的に人が集まり議論し影響を及ぼし合うことが合議制の機関である議会の真骨頂である。そこでは議論の高まりや知恵が生まれるものだ。その高められる過程にどう住民の声を反映させ、密室ではなくどう透明化するか、それが、この間の議会改革で求めてきたものではなかったか。
 議論の際に、リモートの合理性に多くの価値を置きすぎることは危険だ。議事機関としての議会の命に係わる可能性があることも頭の片隅に置いておきたい。極端なことを言えば、議論を提供するのは議員より専門家の方がふさわしく、その賛否は議員ではなく全有権者に諮った方が望ましいという極論に結び付きやすいからだ。リモート技術はつきつめれば、それを実現できる。住民はそうした合理性に目が向きやすいが、議会は議事機関としての役割を通して、その合理性を判断していただければと思う。 このコロナ騒動が、民主主義を遠ざけるものではなく、民主主義の質を高めるものに働けばと思うばかりである。

この記事の著者

吉田利宏(議会事務局実務研究会)

吉田利宏 よしだ・としひろ 「議会事務局実務研究会」呼びかけ人・元衆議院法制局参事 1963年神戸市生まれ。早稲田大学法学部卒業後、衆議院法制局に入局。15年にわたり法律案や修正案の作成に携わる。現在、大学講師などの傍ら法令に関する書籍などの執筆、監修、講演活動を展開。著書『ビジネスマンのための法令体質改善ブック』(第一法規、2008年)、『元法制局キャリアが教える 法律を読む技術・学ぶ技術〈第2版〉』(ダイヤモンド社、2007年)、『元法制局キャリアが教える 法律を読むセンスの磨き方・伸ばし方 』(ダイヤモンド社、2014年)、『新法令用語の常識』(日本評論社、2014年)ほか。

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