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2020.04.10 議会運営

【続々・緊急寄稿】新局面に「住民自治の根幹」としての議会をどう作動させるか~専決処分の限定と今後の議会対応

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専決処分による二元的代表制の侵食と、専決処分のルール化

① 専決処分発動の条件は厳格
 危機状況には、かならず「専決処分」の賛美論とはいわないまでも、肯定論が広がる。そもそも専決処分は例外中の例外である。議会の「議決事件」(自治法96)を奪うという極めて例外的なものである。
 注意していただきたいのは、専決処分は2つあることである(長の専決処分(自治法179(179条専決))と議会の委任による専決処分(同180(180条専決)))。とりわけ、179条専決が問題になる。そこで、その例外性の確認とともにルール化を提案する。なお、180条専決は議会が認めた「軽易な」事項であるとはいえ、これについても課題はある。
 まず確認したいのは、179条専決を行うにあたって、厳格に規定されていることである。条文に即したチェックリストは以下の通りである。このリストのうち1つでもチェックがはいれば、可能となる。
hyou1 議会が開催されないaでは、専決処分は肯定できるとはいえ、どのような状況かを想定したい。次節で検討するように、危機状況下でこのようなことは起こりうる。その対応についても検討したい。
 bについては、通常状況では想定できない。「想定できない」にもかかわらず、多様に活用されている。「特に緊急を要するため議会を招集する時間的余裕がないことが明らかであると認めるとき」として改正されているにもかかわらず、である。議員の中にはその意味を深く考えず、「暇がない」(従来の自治法の規定)と思い込み(4)、専決処分の恒常化を当然視している者がいることには驚く。
 cについては、議会が議決しないのであれば、専決も必要だ。議案が議決されないのであれば、ようするに議会の意思が示されないのであれば、廃案になってしまう。議会として議案に問題があると考えるのであれば、審議の充実のために継続審議にすればよい。
筆者は、極めて例外的な専決処分が一般的(日常的)にも行われているのは承知しているが、この問題とともに、危機状況においてあたかも専決処分が妥当だという発想には大きな違和感がある。こうした問題意識の下で、危機状況の専決処分の限定については次節で検討しよう。
 なお、危機状況においては、たしかに首長等は極めて忙しくなるということは了解できるが、その「忙しさ」を具体的に判定するとともに(部署により異なることもある)、そもそも議会は、議員だけによって構成されていることを改めて認識したほうがよい(正確には「傍聴者」としての住民も含む)。審議に必要な場合に、首長等を呼んでいるに過ぎない(自治法121)。議会を、審議重視にあらためる機会だ。

② 危機状況の専決処分の発動の要素:<危機=専決処分は妥当>ではない
 専決処分はまさに危機状況で作動できる。しかし、危機を叫ぶことでこの処分が妥当になるわけではない。すでに指摘したとおり、日常的にはほぼ不可能な専決処分を危機状況に作動できる条件を確定する必要がある。専決処分の承認にあたって、専決処分の条件の妥当性とともに、議会の対応も議論して欲しい(前掲表1及び表2参照)。
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 危機状況における専決処分の条件を具体的に示しておく必要がある。179条専決のルール化である(5)。これは、次に議論する自治法180条専決の議論と連動する。

③ 180条専決の厳格化
 自治法180条の規定は、「軽易な事項で、その議決により特に指定したもの」である。この議決はさまざまである。
 この180条専決を「決議」で規定している自治体もあるが、条例、会議規則で明確に規定すべきであろう。西脇市「市長の専決処分事項に関する条例」、大津市議会会議条例6条の3、などである。

④ 専決処分の承認・不承認の意義
 専決処分は、例外事項である。すでに指摘したように、専決処分が行われる場合はある。とくに、179条専決は議会の議決事項を奪い取るのだから、その後の議会の了承は不可欠である。理論上、議会が不承認の場合、首長は専決した事項を廃止するか修正することが必要となる。それにもかかわらず、議会の承認が得られなかった場合といえども当該処分の効力そのものには影響がない、という行政実例があった。しかしその後ようやく、「前項の場合において、条例の制定若しくは改廃又は予算に関する処置について承認を求める議案が否決されたときは、普通地方公共団体の長は、速やかに、当該処置に関して必要と認める措置を講ずるとともに、その旨を議会に報告しなければならない。」という条文が追加された(自治法179④)。当然である。
議会は報告を受け、承認・不承認を判定する基準を明確にしておく必要がある。
 (ⅰ)不承認の場合には首長の対応が求められることを強く意識し、承認・不承認の議決をする責任があることの再確認(自治法179④)
 (ⅱ)専決処分の内容の審議(会期日程の中に審議する日程を十分とる(中心は委員会審査))
 (ⅲ)そもそも、専決処分の基準(前掲表1のリスト)に該当するか、その際議会としての対応(前掲表2の議会の対応)を議論したか。
 なお、180条専決は「軽易な」事項で、議会が委任したものであるがゆえに、首長による報告はあっても、議会による承認・不承認は必要ないという構成となっている。その都度、180条専決であっても、その事項が「軽易な」もので議会が委任してよいかどうかを反省することは必要である。

江藤俊昭(山梨学院大学法学部政治行政学科・大学院社会科学研究科教授)

この記事の著者

江藤俊昭(山梨学院大学法学部政治行政学科・大学院社会科学研究科教授)

山梨学院大学法学部政治行政学科・大学院社会科学研究科教授  博士(政治学、中央大学) 1956年東京都生まれ。 1986(昭和61)年中央大学大学院法学研究科博士後期課程満期退学。専攻は地域政治論。 鳥取県智頭町行財政改革審議会会長、山梨県経済財政会議委員、第29次・第30次地方制度調査会委員(内閣府)、総務省「町村議会のあり方に関する研究会」委員、全国町村議会議長会「議員報酬等のあり方に関する研究会」委員長、等を歴任。現在、マニフェスト大賞審査委員、全国町村議会議長会特別表彰審査委員、議会サポーター・アドバイザー(栗山町、芽室町、滝沢市、山陽小野田市)、地方自治研究機構評議委員、など。 主な著書に、『議員のなり手不足問題の深刻化を乗り越えて』(公人の友社)『議会改革の第2ステージ―信頼される議会づくりへ』(ぎょうせい)『自治体議会の政策サイクル』(編著、公人の友社)『Q&A 地方議会改革の最前線』(編著、学陽書房、2015年)『自治体議会学』(ぎょうせい)等多数。現在『ガバナンス』(ぎょうせい刊)、『議員NAVI』(第一法規)連載中。

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