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2020.03.05 議会運営

【緊急寄稿】新型肺炎に対応する議会運営に!一般質問辞退は次善の策、傍聴中止は住民自治からの逸脱

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山梨学院大学法学部・大学院教授 江藤俊昭

新型コロナウィルスへの議会対応

 新型コロナウィルスの感染が拡大している。住民・国民、そして中央政府・地方政府がそれぞれの特性を活かして対応することになる。
 地方議会の第一回定例会(3月議会)をめぐっては、マスコミの報道では「マスク着用、答弁『紙対応』 新型肺炎受け、地方議会」(時事通信)や「議会の会期短縮や傍聴中止も 新型肺炎対策で福岡県内」(西日本新聞)、「『新型コロナ対策に専念するため』“一般質問なし”の市議会…京田辺市で異例の対応」(MBSニュース)、「喬木村は新型コロナで一般質問中止」(中日新聞:長野)、「地方議会、傍聴に苦慮 新型コロナ 消毒や座席間隔空け」(日本経済新聞)などがある。これらの中には事実と異なる記事もあるが(たとえば、喬木村は一般質問を中止にしたのではなく辞退が行われた等)、新型コロナウィルスの感染拡大に伴う第一回定例会における議会運営の状況が理解できるであろう。
 筆者もこうした動向について、メディアから取材を通してコメントを求められることもある。その取材の際に気になるのは、地方議会において一般質問が行われないことへの批判的なコメントが求められることである。小中高、特別支援学校の一斉休校に対する教育委員会の対応に対する議会の監視・提言等については別途検討することとして、本稿では、新型コロナウィルスへの汚染拡大という危機状況の中での議会運営について考えたい。
 結論を先取りすれば、一般質問の「中止」は次善の策である。ただし、中止ではなく取り下げが原則である。傍聴中止は、地方自治の原則からは逸脱する。なお、議員も、首長等も、そして傍聴者もマスク着用、座席間隔を広げる等、感染拡大防止のための自衛策が必要であることはいうまでもない。

一般質問の取り下げは次善の策

 一般質問は、地方議員にとって極めて重要である。その「取り下げ」を提案するのには、理由が明確にならなければならない。「一般質問は、最もはなやかで意義ある発言の場であり、また、住民からも重大な関心と期待をもたれる大事な議員活動の場」でとされている(全国町村議会議長会編 2019)。筆者もその重要性につき十分承知はしているが、一般質問は一般的には提言(短期・中期・長期、個別・総合)である(暴露的内容を含むものもままあるが)。緊急性でいえば、議案審査が第一義的である。当該会期での議案の審査と表決(継続はあるが)をまずもって重視する必要がある。議会・議員の議決責任をまっとうするのはまさに議案審査である。
 このように考えれば、一般質問の重要性は強調しすぎることはないとはいえ、優先順位から言えば議案審査が優先される。検討する理由(後述)を明確にすることを前提として、一般質問の次回(第二回定例会)への先送りは可能である。
 注意していただきたいのは、この一般質問の取り下げは「取り下げ」であって「中止」ではない。緊急を要する質問を行いたい議員もいる。これを考慮すれば、議会が「中止」を決めることは住民自治の原則から逸脱する。

会期短縮は、執行機関が緊急作動するため

 こうした、一般質問の取り下げという例外運営は、明確な理由がなければならない。会期が長期になると感染を拡大することもその理由に挙げられる。そうだとしても、それは二次的である。第一義的には、危機状況にあって執行機関がその危機対応に注力する時間的余裕を提供するためである。つまり、会期を短縮することで、執行機関がその感染拡大に対応できるだけではなく、一般質問の答弁書の作成時間をその感染拡大防止に使うことができるためである。
 なお、書面による質問(通告書)と答弁(書)という異例の運営も行われているようである(北海道恵庭市、JIJI.COM(時事通信)2020年2月28日)。議会基本条例等で文書質問を規定している自治体では、文書質問も活用できる。ただし、本来質問と答弁は公開の場で行われることを原則とするため、文書によるものは緊急性と公開性の原則を考慮して運用することに留意していただきたい。

傍聴中止は地方自治原則からの逸脱

 議会は開催されなければならないが、その際「公開」が原則である。議会の存在意義は、「公開と討議」である。傍聴を中止とすることは、危機状況であっても首肯することはできない。「普通地方公共団体の議会の会議は、これを公開する。但し、議長又は議員三人以上の発議により、出席議員の三分の二以上の多数で議決したときは、秘密会を開くことができる。」(自治法115)はこの文脈で理解できる。「但し書き」は、秘密会の例外性を厳格に規定している。新型コロナウィルスへの対応は秘密会の理由にならない。
 そこで傍聴の際の対応であるが、傍聴者へのマスク着用や消毒等の徹底の要請、傍聴席間隔を広げること、などが想定できる。また、傍聴自粛要請(お願いであって中止ではない)は、インターネット中継やケーブルテレビ中継といった媒体がある場合に可能である。

住民に対する説明責任を!

 一般質問の取り下げといった議会運営の変更は、危機状況の下での極めて例外的な措置である。すでに指摘したように、一般質問は「最もはなやかで意義ある発言の場」だけではなく、「住民からも重大な関心と期待をもたれる大事な議員活動の場」である。それゆえ、一般質問の取り下げには慎重であるべきだ。だから、そうした決断を行うのであれば、その理由を明確にすることが前提である。その説明事項には、今後の対応(第二回定例会の運営(予定であっても))、そして当初想定していた質問項目一覧等を含める必要がある。

日頃から危機管理の議論を!

 BCPは業務継続計画である。議会版BCPも策定されるようになっている。一般に、地震、風水害のほか、その他(自然災害のほか、大規模火災などの大規模な事故、原子力災害、新型インフルエンザなどの感染症、大規模なテロなどで、大きな被害が発生した場合、又はそのおそれがあるもの)も対象に入っているのが多い。
 議会版BCPには、議会中、閉会中という時期区分とともに、安否確認、会議の招集要件といった事項が明確にされている。ただし、会期日程にまで及んでいない。会期日程は、それぞれの会期中(招集日の初日)に決める柔軟なものであるから、あらかじめ議会版BCPに明記することは馴染まない事項であるが、会期日程についての基本的な考え方を明記することも必要だと思われる。
 例外状況(リスク)をあぶりだすことは必要である。ただし、例外だけの強調では、例外が生じた場合、ルールなしに首長等による統制が生じる可能性がある(江藤 2011)。例外を明確にしてその対応をルール化することは、通常状況の中に例外状況を含みこみ、その例外を制御する可能性を高める。議会版BCPの策定は、この文脈で重要である。同時に、その際の議会運営の変更は、住民自治の原則を保持しつつ行うことが前提である。その原則を日頃から確認しておく必要がある。
 
〔参考文献〕
江藤俊昭(2011)「地域政治における首長主導型民主主義の精神史的地位」『法学新報』118巻第9号
江藤俊昭(2016)『議会改革の第2ステージ』ぎょうせい
江藤俊昭(2016-2020)「新しい議会の教科書」『議員NAVI』2016年5月25日号~
全国町村議会議長会編(2019)『議員必携 第11次改訂新版』学陽書房

江藤俊昭(山梨学院大学法学部政治行政学科・大学院社会科学研究科教授)

この記事の著者

江藤俊昭(山梨学院大学法学部政治行政学科・大学院社会科学研究科教授)

山梨学院大学法学部政治行政学科・大学院社会科学研究科教授  博士(政治学、中央大学) 1956年東京都生まれ。 1986(昭和61)年中央大学大学院法学研究科博士後期課程満期退学。専攻は地域政治論。 鳥取県智頭町行財政改革審議会会長、山梨県経済財政会議委員、第29次・第30次地方制度調査会委員(内閣府)、総務省「町村議会のあり方に関する研究会」委員、全国町村議会議長会「議員報酬等のあり方に関する研究会」委員長、等を歴任。現在、マニフェスト大賞審査委員、全国町村議会議長会特別表彰審査委員、議会サポーター・アドバイザー(栗山町、芽室町、滝沢市、山陽小野田市)、地方自治研究機構評議委員、など。 主な著書に、『議員のなり手不足問題の深刻化を乗り越えて』(公人の友社)『議会改革の第2ステージ―信頼される議会づくりへ』(ぎょうせい)『自治体議会の政策サイクル』(編著、公人の友社)『Q&A 地方議会改革の最前線』(編著、学陽書房、2015年)『自治体議会学』(ぎょうせい)等多数。現在『ガバナンス』(ぎょうせい刊)、『議員NAVI』(第一法規)連載中。

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