山梨学院大学法学部・大学院教授 江藤俊昭
新型コロナウィルスへの議会対応
新型コロナウィルスの感染が拡大している。住民・国民、そして中央政府・地方政府がそれぞれの特性を活かして対応することになる。
地方議会の第一回定例会(3月議会)をめぐっては、マスコミの報道では「マスク着用、答弁『紙対応』 新型肺炎受け、地方議会」(時事通信)や「議会の会期短縮や傍聴中止も 新型肺炎対策で福岡県内」(西日本新聞)、「『新型コロナ対策に専念するため』“一般質問なし”の市議会…京田辺市で異例の対応」(MBSニュース)、「喬木村は新型コロナで一般質問中止」(中日新聞:長野)、「地方議会、傍聴に苦慮 新型コロナ 消毒や座席間隔空け」(日本経済新聞)などがある。これらの中には事実と異なる記事もあるが(たとえば、喬木村は一般質問を中止にしたのではなく辞退が行われた等)、新型コロナウィルスの感染拡大に伴う第一回定例会における議会運営の状況が理解できるであろう。
筆者もこうした動向について、メディアから取材を通してコメントを求められることもある。その取材の際に気になるのは、地方議会において一般質問が行われないことへの批判的なコメントが求められることである。小中高、特別支援学校の一斉休校に対する教育委員会の対応に対する議会の監視・提言等については別途検討することとして、本稿では、新型コロナウィルスへの汚染拡大という危機状況の中での議会運営について考えたい。
結論を先取りすれば、一般質問の「中止」は次善の策である。ただし、中止ではなく取り下げが原則である。傍聴中止は、地方自治の原則からは逸脱する。なお、議員も、首長等も、そして傍聴者もマスク着用、座席間隔を広げる等、感染拡大防止のための自衛策が必要であることはいうまでもない。
一般質問の取り下げは次善の策
一般質問は、地方議員にとって極めて重要である。その「取り下げ」を提案するのには、理由が明確にならなければならない。「一般質問は、最もはなやかで意義ある発言の場であり、また、住民からも重大な関心と期待をもたれる大事な議員活動の場」でとされている(全国町村議会議長会編 2019)。筆者もその重要性につき十分承知はしているが、一般質問は一般的には提言(短期・中期・長期、個別・総合)である(暴露的内容を含むものもままあるが)。緊急性でいえば、議案審査が第一義的である。当該会期での議案の審査と表決(継続はあるが)をまずもって重視する必要がある。議会・議員の議決責任をまっとうするのはまさに議案審査である。
このように考えれば、一般質問の重要性は強調しすぎることはないとはいえ、優先順位から言えば議案審査が優先される。検討する理由(後述)を明確にすることを前提として、一般質問の次回(第二回定例会)への先送りは可能である。
注意していただきたいのは、この一般質問の取り下げは「取り下げ」であって「中止」ではない。緊急を要する質問を行いたい議員もいる。これを考慮すれば、議会が「中止」を決めることは住民自治の原則から逸脱する。
会期短縮は、執行機関が緊急作動するため
こうした、一般質問の取り下げという例外運営は、明確な理由がなければならない。会期が長期になると感染を拡大することもその理由に挙げられる。そうだとしても、それは二次的である。第一義的には、危機状況にあって執行機関がその危機対応に注力する時間的余裕を提供するためである。つまり、会期を短縮することで、執行機関がその感染拡大に対応できるだけではなく、一般質問の答弁書の作成時間をその感染拡大防止に使うことができるためである。
なお、書面による質問(通告書)と答弁(書)という異例の運営も行われているようである(北海道恵庭市、JIJI.COM(時事通信)2020年2月28日)。議会基本条例等で文書質問を規定している自治体では、文書質問も活用できる。ただし、本来質問と答弁は公開の場で行われることを原則とするため、文書によるものは緊急性と公開性の原則を考慮して運用することに留意していただきたい。