人口30万人を超える自治体議会議員 木田弥
少数者調査権と実地検査権が、新たな論点として提起される
去る平成30年8月11日、山梨学院大学にて「自治体学会議員研究ネットワーク2018研究フォーラム」(主催:自治体学会議員研究ネットワーク、ローカル・ガバナンス学会)が、内部統制・監査制度等の改革と住民自治をテーマに開催された。筆者も参加したが、議選監査委員制度を真面目に考える方々にとって有益な内容であったことから、「議選監査のすゝめ」番外編PARTⅡとして、ご報告する。
詳細を報告する前に、今回のフォーラムの内容をざっとご紹介したい。
今回のフォーラムの特徴は、議選監査委員制度をすでに廃止した滋賀県大津市から、議選監査委員制度廃止論の急先鋒(せんぽう)である同市議会局次長の清水克士氏がパネリストとして参加したことである。清水氏の参加によって、議選監査委員制度についての議論が制度維持論にとどまらず、より広範な論点を含む議論となった。これまで本連載では言及してこなかった新たな論点も見いだされた。その1つが、議選監査委員制度廃止による議会の機能低下を補うための制度保障である。具体的には、今回のタイトルにもあるように、実地検査権を付与することと、付与のための条例制定である。また、現状では、多数決若しくは全会一致則に縛られて、少数派の行政調査権(以下「少数者調査権」という)が制限されているが、少数者調査権も確保することを検討するという論点も提起された。少数者調査権は重要で、これまでも述べてきたとおり、議選監査委員制度廃止の消極的な支持者は、議選監査委員になることが現状では極めて困難な議会内少数派である。これまでは、なるべくそうした少数派も議選監査委員に選出されるような工夫が必要という議論をしてきたが、議会の現状から、実現は容易ではない。その点、少数者調査権の付与というのは、国会でも「予備的調査」という先例もあるとのことなので、国会の先例が幅を利かせる地方議会においては、この概念に注目さえ集まれば、実現の可能性は高い。議会内における議選監査委員制度維持の広範な支持を得る方策としても有効性が期待できる論点である。
基調講演「自治法改正の『内部統制や監査』について」
第1部の基調講演では、元総務省行政課長で現在は弁護士であり、神奈川大学教授の幸田雅治氏から「自治法改正の『内部統制や監査』について」というテーマで問題提起がなされた。幸田教授が基調講演で内部統制をテーマに講演されたのは、本フォーラムの企画者の1人である山梨学院大学教授である江藤俊昭氏の「議選監査委員制度を議論する場合、議選監査委員制度そのものの是非にとどまることなく、平成29年の地方自治法改正の主眼である地方公共団体の内部統制強化についてしっかり理解することが重要」との考えによるものである。
以下、幸田教授による基調講演の要旨を紹介する。
(1)内部統制と地方自治法改正
江藤先生からは、議選監査委員制度についてはパネルディスカッションでじっくり議論するので、内部統制の話を中心にしてほしいとのこと。
内部統制について理解していない方が多い。国が中央から統制することと理解している方もいる。もともと企業の粉飾決算や横領の頻発などから生まれた概念で、発端は日本の金融機関のニューヨーク支店に勤務していたトレーダーが1,000億円以上の不正売買を行ったこと。トレーダーと取引をチェックする人間が同じであったためチェック機能が働かなかった。内部統制とは、この不正取引に関する裁判で使われた言葉。日本でも平成14年商法改正、平成17年会社法改正、平成18年金融商品取引法改正などが行われ、内部統制概念が法的に確立した。地方公共団体でも工事発注の不正などがあり、内部統制の必要性が議論されるようになった。
私は、自治省(その後の総務省)に入省後、地方分権一括法、第二次分権改革など地方分権に関わってきた。また、今回のテーマである監査制度改革について取り上げた第29次地方制度調査会を担当し、江藤先生とご一緒させていただいた。
内部統制については、平成19年に総務省が設置した「地方公共団体における内部統制のあり方に関する研究会」委員も務めた。昨年は、江藤先生を委員長とした地方自治研究機構による内部統制の研究会にも参加した。
平成29年の地方自治法改正では、①都道府県、政令市は内部統制の方針を定め、必要な体制整備をすること、②監査制度の充実強化に当たって、勧告制度の創設や、議選監査委員の選任の義務付けの緩和、また③決算不認定の場合における長から議会等への報告規定の整備が盛り込まれた。内部統制については、事務執行主体である長に体制整備の責任権限があることが明確化された。地方自治法の改正趣旨は、住民訴訟制度の見直しも含め、地方公共団体における、より一層のガバナンスの適正化を図ることであった。都道府県及び政令市では、基本的な監査方針の策定とその整備・運用を行うこととなり、これらに監査委員の意見書を付けて議会に提出する。
(2)企業が先行してきた内部統制
内部統制については、企業が先行して整備してきた。その後、地方公共団体でもその必要性が認められるようなった。企業の場合は、基本方針を取締役会で決議し、体制を整える。社内各部門にリスクマネジメント担当者を置き、情報を共有する。一般的には副社長を委員長とするリスクマネジメント委員会を設置し、年度の進捗状況を定期的に報告して確認する。会社法では、取締役会設置会社の場合、内部統制の実施主体は取締役会であり、その監督権限も取締役会にある。地方公共団体には、取締役会に相当する組織がないため、議会や監査委員が代わりにけん制機能を発揮することとなる。
地方公共団体の内部統制については、総務省が設置した「地方公共団体における内部統制のあり方に関する研究会」から平成21年に、同じく「地方公共団体の監査制度に関する研究会」から平成25年に、それぞれ報告書が出された。その後、地方制度調査会の議論を経て、地方自治法が改正されることとなった。
(3)地方公共団体における内部統制
ここで、平成21年に発表された「地方公共団体における内部統制のあり方に関する研究会」の報告書を簡単に紹介する。
地方公共団体は、地方自治法、地方公務員法、自主制定した各種ガイドラインなどにより、仕事のルールがすでに定まっている。また、監査委員や議会などにより監視がなされている。一方で、それらが本当にきちんと運用されているとは言い切れない状態にあるのではないだろうか。実際には、地方公共団体においても様々な不祥事が発生している。よって地方公共団体にも内部統制の整備が必要ということになる。
報告書は、組織としてリスクに正面から向き合うことの重要性を説いている。組織マネジメントに関する基本方針を明確化して、PDCAサイクルに乗せて検証し、組織にフィードバックしていく。首長をはじめとした職員の組織マネジメントに対する意識改革も必要かつ重要。
地方公共団体における内部統制のあり方に関する研究会では、地方公共団体の内部統制についてかなり突っ込んだ議論を行った。研究会の委員は、企業の内部統制については詳しいが、地方公共団体の実態については知らない方が多かった。地方公共団体の実態を見て理解してもらうことが必要なので、丁寧に現場を見てもらった。その結果、地方公共団体における内部統制とは、①業務の有効性、効率性、②財務報告の信頼性、③法令等の遵守、④資産の保全という4つの目的が達成されるとの合理的な保証を得るために、業務に組み込まれ、組織内のすべての者によって遂行されるプロセスをいうと定義された。いずれも、地方公共団体では従来から取り組んできたものである。では、これらを達成するためにどうすればよいか。そのためには、①統制環境、②リスクの評価と対応、③統制活動、④モニタリングに加え、⑤情報と伝達、⑥ITへの対応という6つの基本的要素を機能させていくことが大事であるとされた。
(4)地方公共団体が優先すべきは住民からの信頼獲得
地方公共団体が内部統制を整備・運用するに当たっては、リスクに向き合う、リスクを組織的に洗い出すということが大事。それに対してどのように対処するのかを組織全体で考えていく。そのためには、業務の内容プロセスを可視化することが大事。重要なのは、ルールを決めて、ルールどおりに実行し、そのチェックが確実に行われるようにすることである。支出業務を例にとると、支出負担行為から支出命令、予算執行の支払手続という一連のプロセスで、それぞれにどんなリスクがあるかを洗い出す。例えば、発注していないもの、納品されていないものに支払を行う、あるいは支払先を誤ってしまう、二重に支払ってしまうなど。こういったことをできるだけ防ぐには、物品等の現物確認、支払済みの請求書には支払済印を押すなどが考えられる。また、命令系統と出納系統を分離するなども考えられる。リスクの高い事項で、住民からの信頼を失うような事故があると、地方公共団体に対する住民の信頼に重大な影響を及ぼす。地方行政は住民からの信頼を基に成り立っているので、そういったことを防ぐ必要がある。
(5)内部統制におけるPDCAサイクル
地方公共団体の内部統制では、首長が責任者となり、内部統制の総括部署を置く。内部統制の整備・運用に当たって重要なのは、組織マネジメントにPDCAサイクルを導入することである。最初に基本方針を決定し(P)、その方針を具体化し、リスクに対応すること、また、内部統制総括部署が各部局の取組みを支援(D)、チェック(C)し、フィードバック(A)を行い、また(P)に戻っていく。
(6)地方公共団体が内部統制を整備・運用するに当たっての留意点
① 100点満点を目指すのではなく、できることから始めていく。毎年少しずつ向上させていくことが重要。組織を挙げて、どうリスクと向き合うかを考えていく。
② 全く新しい取組みをするのではない。リスクを管理するという観点から必要な見直しを行う。
③ 過剰な統制はかえって問題。内部統制に先進的に取り組んできた地方公共団体では、マンネリになってしまい継続が大変だ、職員の意識もだんだんと落ちていく、という声も聞かれた。リスクを評価し、内部統制を実施する業務プロセスを絞り込むことも必要。
④ 内部統制は都道府県や政令市だけが取り組めばよいというものではない。現在、ある地方公共団体の内部統制の支援業務を受託し、私を含め3人の弁護士でお手伝いをしているが、リスクチェックシートをつくるのは相当大変な作業である。しかし、リスクチェックシートつくることが目的ではなく、業務改善に結びつけていくことが重要。今年で業務受託をして2年目になるが、7月末も3人で出かけて内部統制についての意見交換を行ったところである。
⑤ 業務の外部化も内部統制の対象である。このチェックも重要。民間に委託をしたり、指定管理者などに任せたら責任がなくなるということではない。最終的な責任は地方公共団体にある。民間に対するモニタリング等を通じて、リスク対応の仕組みを構築し、管理することが、求められている。
(7)内部統制の整備・運用を行うことによる効果
リスクとコントロールが可視化されることにより、有効なチェック体制の構築が可能になり、新たな統制ルール導入の契機となるとともに、業務の有効性や効率性の向上が図られる。首長が適切な内部統制の整備・運用を行うことによって、目が届きにくい部分についても組織的な対応が可能になる。結果、首長自身はより地域経営の戦略的な業務に専念できるようになる。
地方公共団体のすべてのリスクが内部統制で解決するわけではない。常に改善しながら取り組んでいくことが大切。できていることとできていないことの現状把握が大事である。
(8)財務事務以外の事務処理もリスク管理の対象に
次に、平成26年に発表された「地方公共団体における内部統制の整備・運用に関する検討会」の報告書について簡単に説明する。これは、地方制度調査会の答申につなげていくことを念頭に置いてつくられている。最終的には法律改正を念頭に置いていた。大規模地方公共団体とそれ以外の地方公共団体は、財務事務については基本的に内部統制の対象とし、それ以外は政令で指定することとした。期待される効果は、前述した平成21年の報告書とほぼ同じである。
続いて、平成29年に一般財団法人地方自治研究機構(会長:石原信雄)が公表した「市区町村等の内部統制型リスクマネジメントに関する調査研究」について紹介する。調査に当たって、これまで地方公共団体内部で発生した不祥事についてアンケート調査が行われた。財務事務執行関係についてでは、不適正な収入・支出に関する不祥事が23.6%、不適正な現金の出納・保管に関する不祥事が19.5%。一方で、財務事務以外の不祥事として、公務外法令違反行為等に関する不祥事が35.6%、財務事務以外の事務処理に関する不祥事が27.1%、財務事務以外の事務の不作為に関する不祥事が23.9%と、財務事務以外の不祥事が意外に多い。それは当然のことで、財務事務はルールがかなりしっかりしているため、きちんと事務処理をしていれば不祥事は発生しにくい。地方公共団体の大きなリスクとは、財務事務以外の不祥事などの発生によって、住民の信頼性を損なうことにある。この確保の観点からみれば、財務事務執行を重点に考えることは、必ずしも実態に合致していない。財務事務以外の事務処理についても常にリスクが発生するということを念頭に置いて、財務事務以外の事務を内部統制の対象として積極的に取り組むことが求められる。
地方自治法改正時の総務省の考えでは、当初は、財務事務を中心とする内容であった。しかし、その後、総務省のガイドラインは、財務事務以外も幅広く対象とするべきという考え方にかなり近づいてきた。幅広く対象とするということは、全部の事務を対象とすることではない。財務事務以外でもリスクの高そうな事務については、リスク管理の対象として取り上げる方向に総務省も考え方が変わりつつある。
(9)リスクとは発生確率×損害の大きさで定義される
内部統制体制の整備及び運用は、組織全体で取り組むものである。また、制度を担当する部署を決定することは必要であるが、専任とするか、兼任とするかは、各地方公共団体の組織体制に応じて判断していくべきである。早めに内部統制に取り組んできた大阪市では、局長が内部統制の責任者になっている。それと同時に、契約事務や文書管理事務など横断的な事務については、共通業務についての内部統制の責任者を置き、タテとヨコから責任者を配置して実施している。これは大きな団体だからできることで、すべての団体で行うことは難しい。しかし、方法を簡易にすれば、同じような方法で、小さな団体でも実施可能である。
私自身、現在ある町村から頼まれて内部統制のお手伝いをしている。町村では、重い仕組みをつくるのは難しい。これまで2年近く支援してきて来年の4月から、実態に合った制度をスタートさせるべく現在検討している。内部統制の担当部署を置いた場合も、内部統制の必要性を共有するためには、職員個々の意識付けが大事である。手順としては、リスクの洗出しをしっかりと行い、実施計画を策定する。そして、内部のモニタリングを行い、首長が評価報告書を作成して監査委員の監査に付した後、議会へ報告する。
リスクの定義はR(リスク)=P(損害の発生確率)×C(損害の大きさ)といわれる。発生確率が低くても影響が大きい場合は、メジャーリスクに分類される。原発事故などは、発生リスクは低いが被害が大きいので、メジャーリスクとして対処しなくてはならない。
(10)内部統制において重要な要素
これまでの話をまとめる。内部統制はリスクマネジメントである。リスクと向き合い、リスクを把握し管理する。リスク情報を的確に伝達しないと監査委員も判断できない。
業務内容の可視化と情報共有が重要である。可視化するということは、外部のチェックに資する。内部統制は内部の職員だけで行うのがよいかどうかは議論のあるところであるが、私の経験からすると、外部の目が常時ではなく、ときどき入ることが大事であると思う。
業務プロセスにPDCAサイクルを導入するべき。単にチェック的な部分だけ仕事として加わると捉えられては、内部統制は機能しない。
誇りを持てる組織文化が重要。そのためには、トップのイニシアチブが大事で、トップにもその意識をしっかり持ってもらう。
内部統制の範囲は、財務事務に限定せず、事務全般について直面するリスクに応じて対象を広げていくことが大事。
内部統制の体制を整えればすべて解決するのではなく、監査委員や議会など、外部のチェックの仕組みが重要。
内部統制は、自らの自主的かつ継続的な実施によって初めて可能となる。総務省のガイドラインもあるが、あくまで参考であり、あまり拘泥しなくてもよいのではないか。国も地方公共団体に対してあまり口出しすべきではない。細かいことをいわれても、自分たちで判断する意識を持っていただきたい。
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