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2018.05.25 議会改革

女性議員による意見交換会~ジャッジ・タイム&ワールドカフェで深める、誰もが働きやすい議会【取手市議会】

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『議員NAVI』編集部

1 参加者はすべて女性

 2018年5月7日(月)、取手市議会にて「女性議員による意見交換会」(以下、「意見交換会」)が開催され、近隣自治体議会から女性議員が45名、取手市議会からは議長、副議長、女性議員7名を含む9名の議員の参加がありました。女性議員のみの参加による意見交換という、非常にめずらしい試みであり、当日、会場は華やかな熱気に包まれました。

取手市女性議員による議会改革特別委員会メンバーの挨拶取手市女性議員による議会改革特別委員会メンバーの挨拶
 取手市議会は、2017年12月15日に「女性議員による議会改革特別委員会」(以下、「女性議員特別委」)を設置しました。その目的として、「妊娠、出産、育児等と議会活動に関すること」及び「議会運営及び議事堂における女性の視点からの改革に関すること」を審査することを掲げています。今回の意見交換会は、上記女性議員特別委の調査の一環としての開催の運びとなりました。
 意見交換会は、冒頭、入江洋一取手市議会議長による挨拶、女性議員特別委の池田慈委員長による議論の経過の説明、出席議員の自己紹介を行いました。

2 真剣に、かつ和やかに進んだ意見交換

 意見交換では、取手市議会事務局の岩﨑弘宜局長補佐がファシリテーター役を務め、和やかなムードで会が始まりました。まず、日本の自治体議会における女性議員の比率や国の動きなど女性議員を取り巻く現状、議会を欠席する際の欠席事由等についての解説がありました。

 その後、岩﨑局長補佐から意見交換のファシリテーション方法として、「ジャッジ・タイム(クロスロード)」と「ワールドカフェ方式」についての説明がありました。今回の意見交換の特色は、この「ジャッジ・タイム」と「ワールドカフェ方式」を組み合わせた点にあります。会場は複数のグループに分かれ、3つの課題が順に挙げられ、課題ごとに参加者の考えをYES/NOカードで示し、その後、グループごとに対話が行われました。各テーブルには大きな模造紙が置かれ、メンバーそれぞれがYES/NOを出した理由を説明し、聞いている人がその意見を書き込みながら、対話をつなげていきます。その後、グループ(自国)を離れ、旅をするように別のテーブルに移動し、移動先のグループ(他国)で自国の議論を紹介し合いながら、意見を共有しました。

ワールドカフェ方式で進められた意見交換ワールドカフェ方式で進められた意見交換
メンバーの意見を聞き、模造紙に書き込むメンバーの意見を聞き、模造紙に書き込む
課題に対する意見をYES/NOカードで示す課題に対する意見をYES/NOカードで示す

3 産後に行われる本会議に出席するか?【課題1】

 課題1として、下記のような問いが出されました。

パワーポイントで示された課題1(当日の資料より)パワーポイントで示された課題1(当日の資料より)

 課題が読み上げられた瞬間、会場からは「うーん」という回答に苦しむ声があがりました。自分だったらどうするかという想像を巡らし、参加者が思い切って出した回答は、YES:32名、NO:13名という結果でした。その後、YES/NOの理由を順に説明し意見が交わされました。YESの理由としては、「当選後には議会があることがわかって妊娠しているのであるから、本会議に出られるように準備しておくべきではないか」「議決権があるのに出席しないというのはどうか、採決時には必ず出る」「住民の負託を受けて議員になっているのだから、本会議に出るのは議員としての義務」「3週間経っていれば一時預かりや両親などにお願いし出席すべき」といった意見がありました。NOの理由としては、「どんな仕事であろうとも3週間は休むべき」「無理をしながら議員活動をするのもどうかと思う」「1回の本会議に出席できないからといって、次の選挙まで我慢しなければならないのはおかしい」「女性の体を守る観点・姿勢は必要」といった意見がありました。その上で、「家族の助けや支援体制が整っていなければならない」「男女共同参画の考え方での整備が必要」「最低限休める日数を決めておいた方がよい」「議員のなり手がない中で環境整備が必要」「自宅にいても本会議に参加でき、採決時にはインターネット等を利用した投票の仕組みがあれば」といった提案も出されました。YESを示した参加者が多かった割には、女性議員が働きやすい環境を整えることについての議論が活発に行われていたことが印象的でした。

4 親の介護と議会出席、どちらを取る?【課題2】

 課題2として、下記のような問いが出されました。

 

6
課題2(当日の資料より)

 課題2についても、家庭と議員活動との葛藤が生じるような問いになっており、参加者はそれぞれのシチュエーションをイメージしていました。結果は、YES:15名、NO:30名。YESの理由としては、「親の様子(症状)をみてから出席を決めたい」「途中離席や自宅に戻るなどして対応したい」「電話やカメラ等を活用してなるべく出席したい」「親の死に目に会えない覚悟で出席する」といった声がありました。NOの理由としては、「親を一人にさせ事故があったら取り返しがつかない」「後悔したくないので生命を優先する」「議員として命が大事、安心・安全ということを言い続けているので、その日だけは有権者の人にごめんなさいという思いで欠席する」「(子育ても同様であるが、)様々な事態に対応できる環境整備をしなければならない」といった意見がありました。課題1と同様に、議員活動が柔軟にできるような環境整備を進める声が多く聞かれました。

 

5 市民への議会メルマガに議員の欠席理由を書くべき?【課題3】

 

 課題3は下記の問いが出されました。

課題3(当日の資料より)課題3(当日の資料より)
市民向けメルマガの例(当日の資料より)市民向けメルマガの例(当日の資料より)
 結果は、YES:32名、NO:13名。YESの理由としては、「公人なので理由をきちんと公表するべき」「採決時に離席している場合は明記すべきである」「詳細な記載の方が議員としての自覚ができる」「理由を示して不都合なことはない」といった意見がありました。NOの理由としては、「プライベートな理由は記載を控えたい」「議長が知っていればそれでよい(問い合わせがあったときに回答する)」「プライベートな理由は記載を控えたいが、『所用』をもう少し詳しくした方がよい」といった意見が挙げられ、「会議規則に欠席事由を明示しておくべき」といった提案もありました。議員のプライベートに関することについて、どこまで市民に公表するかといった問題が議論されました。

6 今後の議会環境の改善に向けて

 

 今回の意見交換会で出された課題は、どれも女性議員特別委においてこれまで課題設定・調査したものの中から、判断に悩むような状況設定にして作成されたものとのことです。意見交換では、実に多様な意見が出ていました。公職の議員としての誇りや議決責任を強調する意見、議員もひとりの人間として、産前産後休暇や介護休暇等他の労働者と同様に扱ってほしいという声など、家庭での役割と公職としての責任の間で揺れ動く意見も多く聞かれました。一方で、YES/NOの意見でも共通していたのは、女性だからといって議会活動が制限されることなく、男女共同参画を可能にする環境整備やルール作りが必要であるという意見でした。そのためには議会が変わっていかなればならないという意識の高さがうかがえました。

 意見交換会の終了後、池田慈委員長は、女性議員の悩みを共有するために今回のジャッジ・タイムやワールドカフェといった手法が非常に良かったとし、今回の意見交換会は結論を出す場ではなく、それぞれの議員に気づきがあればよい、今回出された意見を参考に、6月の定例会に向け女性議員特別委による提言の準備を進めていくと語りました。

 また、意見交換のファシリテーターを務めた岩﨑局長補佐は、ワールド・カフェ方式の意見交換で席を移動するときに「いってらっしゃい」「おかえり」「ただいま」という声が聞かれたことに触れ、和気あいあいとした雰囲気のなかで参加議員がリラックスして主体的に議論に参加できたと語りました。

 終了後のアンケートでは、「考えを表明し合う中で、このような考えもあるのかと気づくことができた」など、こういった意見交換の場の重要性を評価する声が多くありました。

 国では、本年5月に「政治分野における男女共同参画推進法(候補者男女均等法)」が可決成立しました。本法は自治体議会でも女性が増えるきっかけになりうると期待されています。性別にかかわらず、誰もが参加しやすい自治を実現するための環境整備が求められています。今回の意見交換会の取組みは全国でも珍しく、女性議員が増える仕組みづくりを考える第一歩として非常に有効な手段ではないでしょうか。

参加議員全員で最後に記念撮影参加議員全員で最後に記念撮影

 

補足 「ジャッジ・タイム(クロスロード)」「ワールド・カフェ方式」とは?

 

 今回の意見交換には、ファシリテーションの技法が巧みに取り入れられており、参加者が全員参加でき、それでいて自由な話し合いを促すような工夫が随所に見られました。今回の意見交換で採り入れられた「ジャッジ・タイム(クロスロード)」と「ワールドカフェ方式」について解説します。

 「クロスロード(=cross road)」には、進路を決める「岐路」・「分かれ道」といった意味のほかに、「人と人が出会う場所」・「活動する場所」という意味があります。「クロスロード」は、人と人が出会う場所において、簡単には答えの出ない事態に陥ったとき「自分ならどうするか」を考えるゲームです。ルールはシンプルで、①課題(事例)を聞いて、YESかNOか決める、②決めた答えのカードを机の真ん中に出す、③一斉にカードを開く、④多数派は「座布団」をゲットし、一番多く「座布団」をもらった人が勝ちというものです。

 ゲームの勝ち負けは座布団の枚数を競うものですが、「なぜその答えを出したのか」をひとり一人に聞いていくことも重要です。クロスロードで用意される課題(事例)は、あえて曖昧に作成されており、それぞれが持ちうる情報の中で考え選択します。

「ジャッジ・タイム(クロスロード)」のルール説明(当日の資料より)「ジャッジ・タイム(クロスロード)」のルール説明(当日の資料より)
 元々は阪神・淡路大震災を機に防災教育を目的として作成されたゲームですが、今後は医療現場や学校現場、自治体における住民との意見交換会など、さまざまな場面での活用が期待されています。

 一方、「ワールドカフェ」は、アニータ・ブラウン氏とデイビッド・アイザックス氏によって、1995年に開発・提唱された、コミュニケーションの手法です。「ワールドカフェ・ネット」によれば、「当時二人が、知的資本経営に関するリーダーを自宅に招いた話し合いの場において、ゲストがリラックスしてオープンに生成的な話し合いを行えるように、様々な工夫を凝らした空間で話し合いを行った結果、創造性に富んだやりとりを行うことができたことが始まりとなります。その後、想像できないほど多くの知識や洞察が生まれたことに感銘を受けた二人が、その経験から主体性と創造性を高める話し合いのエッセンスを抽出してまとめたのがワールド・カフェです。『知識や知恵は、機能的な会議室の中で生まれるのではなく、人々がオープンに会話を行い、自由にネットワークを築くことのできる『カフェ』のような空間でこそ創発される』という考えに基づいた話し合いの手法です」。

 ワールドカフェは、会場内を世界、そして各グループを国に見立て、会場内を旅行する気分で別のグループに移動します。グループメンバーをシャッフルすることにより、多くの参加者の意見を短時間で共有できることができます。このようにワールドカフェの利点として、話しやすさがある、ひとり一人の発言の機会が増える、参加者全員の意見が集まる、参加意識が高まり満足感が得られる、などが指摘されています。

ワールドカフェの説明(当日の資料より)ワールドカフェの説明(当日の資料より)

 

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