地方自治と議会の今をつかむ、明日につながる

議員NAVI:議員のためのウェブマガジン

『議員NAVI』とは?

検索

2017.03.27 政策研究

東日本大震災を受けて整備された最新の防災・復興法制について(その1)

LINEで送る

国土交通省国土交通政策研究所所長 佐々木晶二

 東日本大震災を受けて、防災の基本法である災害対策基本法が大改正され、さらに復興法制も整備されました。
 日本では今後も大きな災害が予測されていることから、読者の方々に最新の防災・復興法制をお伝えしようと思います。災害対応は総力戦ですので、地方公共団体の議員の方々も防災・復興法制の基本的枠組みをご理解いただき、地域の住民の命を守り、さらに、被災後の生活再建に行政とも連携して取り組まれることを期待しています。
 そのため、今回は、大規模な災害が発生する前の「災害予防」の段階で、議員の方々に知っておいていただきたい、4つの項目を述べます。
 なお、より詳細な内容は、今年2月に発行した、拙著『最新 防災・復興法制』(第一法規)をご覧いただければ幸いです。

災害予防

 災害予防とは、災害が起きる前の事前の備えのことです。災害予防の面でも、最近の災害対策基本法の改正で、いくつか重要な制度が創設されています。

(1)地区防災計画
 これまでの防災計画は、都道府県や市町村が策定するものでした。しかし、東日本大震災の経験から、いざというときにはご近所の助け合いがとても大事なことが分かりました。そのため、地域の住民や事業者の方々が、主体的に避難計画や、高齢者など自力での避難が困難な方の支援、あるいは事前の物資の備蓄など、自分たちでできる対策を自分たちで定める地区防災計画という制度ができました。
 また、この計画は、地域の住民などが案を提出し、市町村地域防災計画に抵触しなければ、市町村地域防災計画の一部となり、オーソライズされることになります。
 なお、すでに策定されている地区防災計画は自治会単位のものが多いですが、自治会、町内会が機能していない地区もたくさんあります。例えば、マンションであれば管理組合単位でも、商店街であれば商店街振興組合単位でも作成できます。また、策定する区域の範囲にも具体例な基準はありませんので、同意がとれた範囲で地区防災計画を策定することができます。

(2)避難行動要支援者名簿
 高齢者や障害者など災害時に避難するのが困難な方には、ご近所の人たちの支援が必要です。
 そのためにも、第1に、市町村が避難行動に手伝いが必要な方の名簿を作成する必要があります。その際、名簿づくりの支障になるのが、個人情報保護条例です。
 そのため、市町村が、市町村内で、防災部局ではない他の部局の情報を集めたり、都道府県の情報を、市町村及び都道府県の個人情報保護条例の規定にかかわらず、集めることができるように法律で措置しました。
 市町村は、この避難行動要支援者名簿(以下「名簿」という)の作成が義務付けられています。また、一度作成している市町村も定期的に更新することが必要になります。
 第2に、災害発生前の名簿の外部提供の問題です。提供先には、救助に出動する警察など役所に加え、自治会やマンション管理組合が想定されています。その際、この名簿の外部提供は本人の同意があることが基本です。しかし、同意については、同意をはじめにとる場合と、積極的に否定しないことをもって同意とする方法の双方が認められています。
 さらに、市町村の条例で位置付けられた場合や市町村に設置された個人情報保護審査会での了解を受けた場合には、本人の同意なしに、平時から名簿を外部提供することができます。この名簿を受け取った個人には、守秘義務が課されます。
 さらに、災害の発生の際には、同意がなくても名簿が外部提供されます。この名簿を活用してご近所の助け合いが進むことを期待しています。
 なお、以上の、名簿作成時、災害の発生前、災害の発生直前及び発生直後における、本人の同意の有無と名簿の作成、外部提供と個人情報保護条例との関係を整理すると、以下のとおりです。

20170327_2_1

(3)南海トラフ法と国土強靱化法、津波防災地域づくり法
 南海トラフ巨大地震の発生確率が今後30年で70%であると、政府では推計しています。そのため、南海トラフ巨大地震を前提にして災害予防対策を講じる法律として、南海トラフ法(南海トラフ地震に係る地震防災対策の推進に関する特別措置法)、国土強靭化法(強くしなやかな国民生活の実現を図るための防災・減災等に資する国土強靭化基本法)、津波防災地域づくり法(津波防災地域づくりに関する法律)が制定されています。
 主管は、それぞれ内閣府政策統括官(防災担当)、内閣府国土強靭化推進室、国土交通省水管理・国土保全局と異なります。それぞれの内容については、必ずしも論理的に整理されているものではありません。地方公共団体ではそれぞれの特徴をよく理解して、うまく活用することが大事です。
 特に、南海トラフ法は、避難路、避難タワーなどの避難施設への補助率のかさ上げや、高台移転のための農地法許可の特例法などが措置されているので、この点をうまく活用するといいと思います。
 3つの法律の関係を整理すると以下のとおりです。

20170327_2_2

(4)土木施設計画、まちづくり計画、防災計画の関係
 防潮堤などの土木施設は、海岸法などの公物管理法に、まちづくりについては都市計画法に、防災計画については災害対策基本法に根拠を置いています。担当部局も、県、市町村に分かれ、それぞれの組織の中でも担当が分かれています。
 小規模な災害の際には、それぞれが独立して対処してもあまり問題はありません。しかし、東日本大震災のような大規模な災害で、復旧・復興事業が大規模・長期に及ぶ場合には、将来の世代につけを回さないように、計画段階で相互に調整することが本来必要です。
 東日本大震災では、結果として、土木施設計画が先行し、次に土地区画整理事業や高台移転(防災集団移転促進事業)などのまちづくり計画、最後に避難計画などの防災計画が策定されることになってしまいました。事前に十分に準備しておかないと、どうしても予算規模が大きくなり、事業手法も用地買収をして構造物を設置するという単純な土木施設工事が中心になります。
 このような課題を今後の大規模な災害の際に繰り返さないためには、平時から、土木施設計画、まちづくり計画、防災計画の調整を行っておく必要があります。その際には、各計画策定主体それぞれが対等の立場に立って、住民が早期に生活再建できるような計画づくりを目指すことが肝要です。さらに、その調整主体としては、住民に最も近い市町村長がなるべきと考えます。

 次回(4月25日掲載予定)は、「応急対策」について述べます。

※書籍『最新 防災・復興法制』の内容紹介等については、こちらをご覧ください。
 https://www.daiichihoki.co.jp/store/products/detail/102732.html

佐々木晶二(国土交通省国土交通政策研究所長)

この記事の著者

佐々木晶二(国土交通省国土交通政策研究所長)

1982年東京大学法学部卒業、建設省入省、岐阜県都市計画課長、建設省都市計画課課長補佐、兵庫県まちづくり復興担当部長、国土交通省都市局総務課長、内閣府防災担当官房審議官などを経て、現在、国土交通省国土交通政策研究所長。主著に、『最新 防災・復興法制』(第一法規、2017年)、『政策課題別 都市計画制度徹底活用法』(ぎょうせい、2015年)など。

Copyright © DAI-ICHI HOKI co.ltd. All Rights Reserved.

印刷する

今日は何の日?

2024年 517

ゾルゲ事件(昭和17年)

式辞あいさつに役立つ 出来事カレンダーはログイン後

議員NAVIお申込み

コンデス案内ページ

Q&Aでわかる 公職選挙法との付き合い方 好評発売中!

〔第3次改訂版〕地方選挙実践マニュアル 好評発売中!

自治体議員活動総覧

全国地方自治体リンク47

ページTOPへ戻る