人口30万人を超える自治体議会議員 木田弥
いよいよ地方公共団体ごとに議選監査委員の設置を選択できるようになる議選監査選択制導入を改正内容に含む地方自治法改正案が今通常国会に提案されそうである(現時点では、まだ提案されていないが)。
今回は、これまでの議選監査選択制に係る議論と、現在の議選監査制度が抱えている課題について現場からお伝えしたいと思う。
地方制度調査会での議選監査についての議論
地方制度調査会(以下「地制調」という)は、地方制度のあり方について全般的に検討を加えるため、地方制度調査会設置法に基づき設置される組織だ。地方自治制度の改正について最も影響力のある審議会のひとつといえよう。この地制調の答申は、地方自治法の改正案に大きく影響を及ぼす。地制調では、おおむね3年程度の調査審議で答申案が作成され、内閣総理大臣に提出される。議選監査のあり方について積極的な議論が行われたのは、平成19〜21年にかけて開催された第29次地制調である。第29次地制調における諮問事項は、「市町村合併を含めた基礎自治体のあり方、監査機能の充実・強化等の(中略)地方行財政制度のあり方について」とあり、監査機能の充実・強化が掲げられていた。一方、答申では、副題が「今後の基礎自治体及び監査・議会制度のあり方に関する答申」と改められ、諮問事項にはなかった「議会制度」が加えられた。これにより、監査と議会の双方に関係する議選監査のあり方は議論の大きな争点のひとつとなった。
論戦の舞台は主に、28回にわたって開催された専門小委員会である。このうち15回が、主に議会制度と監査制度の議論に費やされた。答申内容は、議選監査制度の廃止までは踏み込めずに、廃止論と存続論の両論併記となった。
その後の第30次地制調では、大阪都構想に引きずられ、大都市制度の見直しが中心テーマとなり、監査制度については答申に盛り込まれなかった。引き続いて設置された第31次地制調では、第29次地制調を引き継ぐ形で、監査制度改革を再び取り上げた。「人口減少社会に的確に対応する地方行政体制及びガバナンスのあり方に関する答申」(平成28年3月)では、「議選監査委員のあり方」として、「各地方公共団体の判断により、監査委員は専門性のある識見監査委員に委ね、議選監査委員を置かないことを選択肢として設けるべきである」と明記された。このことをきっかけに議選監査選択制は、正式に地方自治法改正の論点となった。
議選監査委員は言うべきことを言っていない?
第29次地制調及び第31次地制調の専門小委員会における議選監査に係る議論を改めて読み直してみた。同じ議選監査廃止論者にも、議選監査の実態や限界、問題点をある程度理解して発言されている方と、地方自治や議会、議員、職員OBに対してステレオタイプの見方で、現場の実態を知らずに議論をされている方がいるように見受けられた。後者の立場の方々の意見を筆者なりに要約すると、「監査委員の自立性、独立性、専門性を高めるべき」、「そのためには、当然議選監査委員や職員OBの常勤監査委員はふさわしくない」、「専門性を高めるためには、弁護士や公認会計士、税理士などの『士』業資格保有者が中心となるべきである」といったところである。暗黙の前提として、議選監査委員や職員OBの監査委員は、監査対象である行政に対して、言うべきことを遠慮して言っていないのではないかという認識があるようだ。
こうした批判は分からないでもないが、現場感覚から相当のズレを感じる。例えば監査委員が、ある事業について、その背景をよく理解しており、かつ、指摘をすることによるデメリットが十分予測できる場合に、指摘内容について配慮することがある。守秘義務に触れない範囲で例示するならば、一般廃棄物焼却施設、斎場、最終処分場など、いわゆる迷惑施設設置に関わる周辺住民に対する様々な事業である。こうした事業について、合理性や効率性の観点だけで問題点を指摘することは簡単であるが、例えば一般廃棄物焼却施設などは、廃棄物の処理及び清掃に関する法律で、自区内処理の原則が定められており、何としても施設を自らの自治体に設置しなくてはならない。もちろん、監査委員としてこうした課題について、問題点を全く指摘しないということはあり得ないし、我が市においても、ある迷惑施設建設に伴う施設について指摘を行い、是正した実績もある。
一方で、地方自治体にとって、迷惑施設の建設ほど困難なものはないことは、職員OBや期数を重ねた議員であれば、痛いほどよく分かっている。安易な指摘によって、現に計画中の施設について影響を及ぼす可能性については、配慮せざるを得ない。迷惑施設や計画道路の用地取得などは、強制代執行で確保すればよいのではないかという議論もあるかもしれないが、そうなると、それ以降の迷惑施設の用地確保は、話合いの端緒も築けないという危険性もある。どこまで問題点を指摘すべきかについてのバランス感覚は、議選監査委員や職員OBの監査委員の方が、いきなり監査委員としての専門性だけで選任された監査委員より、一日の長があるとあえていわせていただきたい。監査の指摘を受ける現場職員が指摘に対して一定の納得感が得られることも重要である。現場の事情を知らない外部の有識者が、いきなり指摘をしても、指摘事項に対する面従腹背の結果となることもある。この点についてはまた、別の機会に取り上げる。
また、我が市でも、議選監査委員や職員OB監査委員以外の監査委員の人材確保には相当の労力を要している。常勤監査以外の監査委員の報酬は、「士」業の方々を拘束できるほどの金額ではない。我が市の場合、確定申告などの事務で繁忙期となる2月に、監査日程が立て込んでいる。こうした中で、監査委員に就任していただく方は、ご自身の仕事や収入を犠牲にしなければならない。公共に対する格段の奉仕精神がなければ務まらないし、そうした方々は簡単に見つからない。報酬単価を上げればいいのではないかという議論もあるが、住民の方の理解を得るのは容易ではない。職員OBが監査委員を務めることについて批判される方もいるが、上場企業の監査役も社員OBの割合は少なくない。
第29次地制調での議論で浮かび上がってきた論点で「議選監査委員を廃する代わりに、議会に対して強力な実地検査権を与えよ」という提案もあった。理屈としては分からないでもないが、現状の議会活動においても、現場視察などが積極的に行われており、新たに実地検査権が与えられることにより、議会の権能が高まる具体的なイメージは想像しにくい。
もちろん、議選監査委員全員が十全の働きをしていると強弁する気はない。また、議選監査委員を送り出す議会側も、議選監査選択制導入に当たって考慮すべき課題を抱えている。次は、この課題について検討をしてみたい。
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