東京農業大学教授/内閣官房シティマネージャー・特別参与 木村俊昭
1 地域の現状と課題―why so ? So what ?
今、全国の各地域では、少子高齢化、人口減少や人口流出、合併後の中山間地域の衰退など、諸課題が山積し、国や自治体はいまだに解決できず厳しい状況にある。なぜ、みんなで汗しても、国や地域は思うほど元気にならないのだろうか。その理由をよくよく考えてみると、次のような疑問に突き当たる。①私たちはこれまでの経験やキャリアに、知らず知らずに固定観念を持ち、挑戦したくとも、頭のどこかで「できない理由」探しが仕事となってしまっているのではないか。②自己分析や、まち分析を十分に行わず、実学・現場重視の視点を顧みず、強み、弱みの掘り起こしと研(みが)きをかけてこなかったのではないか。③地元のひと、もの、ことの掘り起こしから整理し、ひととひと、地域と地域のコーディネート、情報共有、役割分担(分業)と出番創出、事業構想を十分に行っていないのではないか。これらは、国や自治体だけの問題ではなく、民間にもいえることである。
「できない」を「できる!」に変える、できる化から、次は見える化である。真のパートナー、ブレーンのネットワーク図を書いてみよう。①ここ数年、あなたは、あなたの組織は、偶然に出会い、常に心地いい仲間とだけ付き合い、新たなネットワーク構築をしてなかったのではなかろうか。②地域の取組が、部分・個別に構想・実現が行われていないだろうか。③行政の運営をはじめ、まちの推進すべきことが、上から目線の「説得」になっていないだろうか。④「地域創生のものさし(指標)」をつくり、実践後は「Why so ?」、「So what ?」を繰り返し、検証し、事業構想を実現しているだろうか。
筆者が北海道をはじめ全国の自治体において35年にわたるこれまでの実践経験から導き出した、地域創生の基本姿勢と通ずるものである。それは、①まち育て=地域の産業・文化・歴史を徹底的に掘り起こし、研き、地域から世界へ向け発信するキラリと光るまちづくり、②ひと育て=未来を担う子どもたちを地域一体で愛着心あるよう育むひとづくり、の2点に要約できる。その基本姿勢を実現するためには、①今、自分たちはどんなまちに住みたいのか、次世代を担う子どもや若者に受け継ぎたいまちとはどんなまちなのか、を私たち自身が考えること、②地域が「部分・個別最適」に陥っていれば、急がず焦らず慌てず近道せずじっくり、決して諦めず、「広聴」を重視し、実学・現場重視の視点で、「準最適」から「全体最適」への思考で構想、実現すること、が重要といえよう。このプロセスを通じて、現場や実践を積みながら国や地域、組織に求められている地域創生リーダー・プロデューサー人財の養成と定着を図ることが最重要となる。
ここでは、前述したできる化、見える化する点と、次に継続するために、しくみ化が実行されるよう、地域創生を推進してきた実践家のひとりとして、具体的には、私たち一人ひとりが、地域の課題を「知り気づき」、そして真のブレーン、パートナーなどに輪を広げつつ、「行動」に移すことの重要性、そして官民ともに地域創生の成功には、産学官金公民が連携のもと、広聴、実学・現場重視の視点を持つ、事業構想力、引き出し力を備えた地域創生リーダー・プロデューサー人財の養成と定着が必要であるということをここで力説したい。
2 自らの「知り気づき」が「行動」を生む!
現在、筆者は地域創生のため、大学講義のほか、年間120か所の講演・現地事業アドバイス、さらに全国10地域で人財塾などを実践中である。その際、「ライフスタイル」の確立、ストーリー、メッセージ、こだわり、あるもの探しの重要性などを具体的実践に基づき説いている。そこで、ここでは3つのポイントから説明しよう。
(1)「知り気づき」を得る機会の創発
人口減少等に歯止めをかける目的で、安倍政権は、地方創生戦略と経済対策を重点政策に掲げ、2015年にその第一歩をスタートさせた。その目玉は新たな交付金である。具体的には、自治体による商品券・旅券の配布、灯油購入補助のほか、中小企業の底力を引き出し、首都圏以外でも職を得やすくし、都市から地方への人の流れを後押しするための交付金となる。国は1990年代初めまでに、①高速道路等の整備開発、②その後の地方分権による地域振興を図ってきたことを踏まえれば、今回は3回目の試みである。しかし、過去の施策では結果として東京一極集中は進んでしまっている。それゆえに財政上の問題も考えると、国が地域の元気創発を支援できる最後の機会となるだろう。
安倍政権が重点政策に地方創生戦略と経済対策を掲げた理由の1つは、前述のとおり、もう後がない状態に地域が追い込まれていることである。そして、もう1つの理由は、「日本創成会議」の人口減少問題検討分科会(座長・増田寛也元総務大臣)が、地方から大都市圏への人口流入や少子化の進行によって、約1,800の市区町村のうち896自治体が将来消滅するという提言を発表したためであろう。この発表は、推計であり、これほどの数の「自治体消滅」が本当に起きるのかどうかは不明である。
重要なことは、私たちが、今後生じうる可能性に対して、どのように対応するかを考えるための「知り気づき」の機会としてこの提言を捉えるべきだ、という点である。「知り気づき」と「行動」がなければ何も変わらない、というのは次のことを意味している。先の提言を前に、ただ思考停止して、悲観的になっても、何かを批判しても何も変わらないし、また、できない理由を探すだけでも、何かを頼っても何も動かないだろう。そうではなく、行政、経済団体、アクティブシニア、次世代を担う若者、女性などが、自分たちのこととして真剣に議論し、「行動」することが重要である。つまり、国と地域の将来は、人財にかかっているのである。
(2)「知り気づき」を「行動」へ移す原動力
「知り気づき」を新たな「行動」へ移すための重要な原動力は、地域の諸課題が適正に解決されているのか否かを費用対効果と併せて検証することである。例えば、リーマンショックの前後で、観光振興を推進するまちの市民1人当たりの所得、人口や若者流出、教育環境が、どの程度変動したのかなどの調査結果に目を通し、分析することは重要である。そのために必要となるのが、「地域創生のものさし(指標)」である。
前述した点を筆者の経験から根拠付けたい。筆者は、全国の各地域や海外諸国を回り、主に農林水産業や製造業、サービス業等の多くの現場の方に接している。その際に行っていることは、まず、まちの主産業を十分に調査・分析することである。その上で、主産業の強化を図り、関連産業の起業・創業の意欲を高め、地域間の産業連携を模索・推進している。それは、特にこれから伸ばそうとする地場産業の地域人財の養成と定着を図るためである。
要するに、「部分・個別最適」な状態を、「全体最適」、「価値共創」、「住民満足」、「循環型社会の実現」、「費用対効果」重視へ転換するという思考を前提に、①地域所得・売上げの向上、②地域人財の養成と定着のシステム化、③地域で汗する人を評価する仕組みづくり、④女性、若者、年配者の活躍する場づくりと支援体制、⑤まちの将来を見据えた新たな産業・文化おこしを構想・実現している。このように、私たち自身が、今、地域創生モデルとなっているまちの現状・課題を、自分や家族、知人の暮らすまちに照らし合わせ、確認、検証作業をすることが重要である。
(3)事業構想のための人財養成と定着の重要性
「知り気づき」を「行動」に移すことは、課題解決のためではなく、時代を先取りするためにも求められる。その点を、観光産業の動向から示したい。筆者が住む北海道小樽市において年間観光客の動向が明らかに変化していることは、観光スポットの小樽運河、堺町通り商店街や歴史的建造物群のある地域などを直に散策しているとよく分かる。小樽市の年間観光客の入込数は約795万人(平成27年)である。年間観光客数は、リーマンショック時の減少傾向を脱し、現在は落ち着いている。現在の観光客の傾向は、道内観光客及び国内観光客数の減少を中国人など海外観光客数が増加しカバーしていると考えられる。
今、早急に行うべきことは、全国各地、官民問わず産業振興に関する事業構想ができる専門的な人財の養成と定着である。かつて、小樽市は1986年に小樽運河が現在の姿に生まれ変わり、急速に観光客が増加したことがある。だが、主な施設の整備も、おもてなしの心の研修や受入れ準備も、観光基本計画もなく、まちの事業構想をすることも、リーダー・プロデューサー人財も後手となり、チャンスを地元がモノにでき得なかった苦い経験をしている。その経験も踏まえるならば、産業振興は、現状の課題解決能力のみならず、世界の情勢も踏まえた先取り能力が重要といえるのである。
3 時代を先取りする自治体のカギとは?
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