「おやこみゅ」NPO法人親子コミュニケーションラボ代表理事 天野ひかり
お母さんの現状〜子どもの成長の仕組みと言葉かけのコツを知ろう!〜
「子育ては、耐え忍ぶものだと思っていましたが、『おやこみゅ』に出合って、考えががらりと変わり、子育てがとても楽しくなりました! 今は、娘がいとおしくてたまりません」
講座に参加した多くのお母さんから寄せられる感想です。中には、空回りしていたことに気づき、泣き出してしまうお母さんもいらっしゃいます。
お母さんは、みんな子育てに一生懸命です。
でも、子どもの育ちや親の役割、子どもとのコミュニケーションの方法について、これまで一度も習うことがないまま、ある日突然お母さん、お父さんになるのが現状です。
そんなお母さん、お父さんが、子どもの成長の仕組みと、成長に合わせた言葉かけのコツを、子どもと一緒に遊びながら学ぶ場として、オリジナルのプログラムを提供し、活動しているのが、「おやこみゅ」です。
私はもともとテレビ局のアナウンサーとして、相手の立場に立って話すこと、伝えること、聴くことを鍛えられました。
娘が生まれ、子育てと仕事の両立に奮闘する中、NHKのすくすく子育てという番組のキャスターを務め、各専門家の先生方から、最新の子育ての知識、情報を教えていただき、子育ての世界の奥深さにのめり込みました。子どもの脳や心理の発達、言語の獲得、栄養、睡眠のメカニズム、骨格、歯、視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚などがどのように成長するのか、赤ちゃんの本当の力を科学的に学び、それを自分の子育てに生かしたら、それまで迷っていたことや不安が、いっぺんに解消しました。
知識があって子育てするのと、何も知らずに子育てするのとでは、こんなにも子育ての面白さが変わることを確信したのです。それは、机上の勉強ではなく、子育てに奮闘しながら学べたことも大きかったと思います。
そこで、その専門家の知識を本当に必要としているお母さん、お父さんに、分かりやすく伝えたいと思い、子どもと一緒に親になっていく学びの場として、親子のコミュニケーションを応援する「NPO法人親子コミュニケーションラボ」を仲間とともに立ち上げました。通称「おやこみゅ」です(http://www.oyakom.com/)。行政に協力いただき、区立児童館を中心に活動し、キャンセル待ちになるほど多くの親子に参加いただいています。
コミュニケーション力の欠如が課題になっている今、子ども自身の気持ちや考えを育み、それを言葉にして伝えられる子に、そして相手の言葉の真意を受け止められる子に、さらには相手との違いを認めて対話できる子に育ってほしいと願って、オリジナルのプログラムをつくりました。
実は、始めは、子ども自身の表現力を身につけるカリキュラムを考えて親子遊びをつくったのですが、3か月ほどたったときに、ハッと気づきました。
ぐんぐん伸びるお子さんと、毎回元に戻ってしまうお子さんがいる、その差は何か? お母さんの日頃の言葉かけに大きな違いがあることが分かったのです。
そこで、お母さんの言葉かけを学ぶプログラムにつくり変えたところ、お母さんが変わり、お母さんが変わると、子どもが「ぐん!」と変わりました。
面白いことに、子どもがぐんと成長すると、お母さんも子育てがもっと楽しくなり、お互いに成長し合うことの喜びを感じられるようになるのですね。
お母さんが言葉かけを学ぶためには、子どもの成長の仕組みを知ることと、もう1つ、親の役割を知ることが大切です。
《子育てで、親がすべき一番大切な役割とは、いったい何でしょうか?》
子育てで一番大切なことを知って、お母さんが変わる!
「私は私だから大丈夫」と思える丈夫な心を育てることです。言い換えると「自己肯定感」を育むことです。この自己肯定感が育まれることで、
① 何かに挑戦して学んでいける
② 壁を乗り越えられる
③ 相手の気持ちや立場を思いやれるようになる
といわれています。
私は、講演や講座の中で、自己肯定感を育てることを、「器を大きくすること」と表現しています。
なぜなら、これから子どもが身につけていくべき知識や情報、社会のルール、他者とのコミュニケーションなどを「水」とするならば、それを入れる器は大きくて、深くて丈夫であってほしいと思うからです。親がすべきことは、この器を大きくすることです。
でも多くのお母さんは、子どもの器を大きくする前に、水(知識)を注ぐことに一生懸命になっています。きれいな水、栄養価の高い水、みんなに褒められる水をくんできて、まだ育っていない器に入れる。でもまだ小さいから、あふれてしまう。そしてまたくんであふれさせて……へとへとになっているお母さんたち。なかなか水が入らないことにイライラするお母さんもいます。つまり、「何度言ったら分かるの!」と叱ってしまうお母さん。
水は、子ども自身が、自分で探して選んでくんで頭に入れなければ、意味がありません。親がすべきことは、器を育むことです。
では、《その器(自己肯定感)を育むために、親にできることは、何でしょうか?》
「いいよ!」と笑顔で言えるお母さん、お父さんに変わると、子育てが楽しくなる!
それこそが、「毎日の親の言葉かけ」です。
一番近い存在であるお母さん、お父さんの言葉によって、長所はもちろん、欠点に思えることも含めて、自分は丸ごと認められている、自分はそのまま愛されている、と実感できると、「私は私だから大丈夫」と感じ、自己肯定感はどんどん育っていきます。
では、どんな言葉が器を育むのでしょうか。それは、「子どもを認める言葉」です。
初めておやこみゅの講座に参加したお母さんの中には、
・「やってごらん!」と子どもに指示してやらせようとしたり、
・他のお子さんと比べて、「どうしてできないのかしら?」と不安になったり、
・大はしゃぎしている我が子の腕を引っ張って、「騒がないで!」と禁止したり、
・ボールを貸してもらったとき、「ありがとう、は?」と言わせたり、
そして、お母さんの言うことを聞いてできたとき、「はい! おりこうさん」と褒める。
そんなときのお母さんの気持ちもとてもよく分かります。自分のしつけが悪かったのかなと悩んでみたり、子どものしたいことをさせる余裕がなくて、自分の言うことをよく聞く、思いどおりの子どもでいてくれると、母親としてほっとする気持ちです。
でも、果たして本当におりこうさんでしょうか? と疑問を投げかけるところから講座をスタートします。
親に指示されたり禁止されて、言いつけどおりにできたとしても、意味はありません。これは水を入れる行為です。大切なのは、お子さん自身がやりたい思いを認めて育むこと。やらずにじっと見ているだけのお子さんを、そのまま認める。他の子ではなく、過去の我が子と比べて、その成長を認める。大はしゃぎできることは、まずはすばらしいことだと褒める。言わせるより、ありがとうの気持ちを育む。
親からの一方通行の指示と禁止の言葉ではなく、「子どもが考えて行動できる言葉かけ」を学びながら、いろいろなシーン別に遊ぶことで、お母さんが少しずつ変わっていきます。
日本の若者は、自己肯定感が低いという実態
実は、日本の若者は、諸外国と比べて、自己肯定感が圧倒的に低いというデータがあります。
自分自身に満足している、という自己を肯定的に捉えている若者の割合は、日本人は5割に満たないのです(内閣府「平成26年版 子ども・若者白書」http://www8.cao.go.jp/youth/whitepaper/h26honpen/tokushu_02.html)。
もちろん、日本人は謙虚さを重んじるという文化の違いもあるとは思いますが、やはり小さいときからの言葉かけに原因があるように思います。
アメリカでは、子どもが良い行いをしたときに、褒めてコミュニケーションをとりますが、日本の子どもは、失敗したり悪さをしたときに、ことさら叱られることが多い気がします。つまり、日本の子どもは、悪い点ばかり指摘されて、良いことをしてもそれは当たり前とされてしまうために、自己肯定感が育ちにくいのではないでしょうか。自分のやりたいことは、褒められず、それが親にとって良いことでなければ叱られて、指示されたことをやっていれば怒られないという状況に、日本の子どもは慣らされているのではないでしょうか?
その一方で、就職活動で企業が学生に求める力は、ダントツで「自分で考えて行動できる力」と「コミュニケーション力」です。こうした力を小さい頃から育んでいくことの大切さが分かった上で、具体的にどの言葉をかければいいのかを学んでいく必要があります。
この言葉を言うと、子どもはどう感じるのか、この言葉で答えると、子どもはどう受け止めるのか、子どもの立場に立って考えて言葉かけすることの大切さ。講座に参加した多くのお母さん、お父さんと一緒に悩み、たくさんの子どもたちから教わりました。
その具体的な言葉かけを、講座に参加された親子だけではなく、もっと多くのお母さん、お父さんに知っていただきたいと思って本にまとめたのが、『子どもが聴いてくれて話してくれる会話のコツ』(サンクチュアリ出版、2016年)です。
シーン別に、「その言葉」ではなく、「この言葉」を使うと、お子さんの器が大きくなることを解説しています。
自治体や議会に望みたいこと
こうした子どもの育ちの仕組みを知って、器を育む会話のコツを学ぶ場が、各地域にもっと増えていくことを願っています。
そして、そうした場が必要なもう1つの理由は、幼稚園に入る前の子どもとお母さんの居場所がないことです。保育園や幼稚園、小学校などは、それぞれに所属して、親も子もそこで仲間ができますが、幼稚園前のお子さんと専業ママは、どこに行けば同じ月齢の子どもがいるのかも分からず、親子2人きりの「孤育て」に陥りやすい状況です。
知識や手助けもなく、あふれる情報に振り回されて疲れ果ててしまう前に、「地域の親子が安心して集い、子どもと一緒に親になっていく学びの場」をNPOなどの地域の力を活用しながら、情報と場所の提供ができる行政と、働きやすい環境づくりを進める企業が、一緒に仕組みづくりを進めていくことが急務だと考えています。
子どもが笑えば、お母さん、お父さんも笑顔になり、地域が活性化して、企業に活力が生まれ、笑顔いっぱいの社会になるはずだと確信しています。