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2016.04.25 議員活動

現職議員が語る二元代表制のリアル(下)

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 「地方政治のジレンマ」と題して、「上」では「議会内少数派」を貫く現職議員お三方にお集まりいただき、二元代表制の実際を語っていただきました。今回、その「下」として後半の模様をお伝えいたします。前半では、少数派議員にそもそも政策を実現することはできないと二元代表制への絶望が語られましたが、話題はさらに地方政治の核心に切り込みます。そこから導かれる地方創生の先にある地方議会の未来とは……。

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【参加者】左から
〇黒川滋さん(朝霞市議会議員(埼玉) 2期)
〇鷹羽登久子さん(大府市議会議員(愛知) 3期)
〇半田伸明さん(三鷹市議会議員(東京) 4期)

「議員庄屋説」

――少数派議員はそもそも政策実現などできないという半田さんにお聞きします。与党議員の場合はどうでしょうか。
半田 はじめに、私の議会の与党議員が政策を実現できていないわけではありません。ここは、はっきり申し上げます。しかし、一部の大都市を除いて市町村では、与党議員といえども自分の政策を実現することは非常に難しいのです。与党議員には、行政の立てた計画を補完し、権力のトップである市長のサジェスチョンに基づいて、それを側面から支えていく役割が期待されている。そう考えると、たとえ与党議員であっても個人的なレベルの政策提案の実現性は低いでしょう。予算編成権を持つ首長に「お願い」しているにすぎない。
 議員になって分かったこと、それは与党議員の多くが古くからの地元の名士や、団体の利益を代表する人々、つまり「庄屋さん」だということです。住民である村人が庄屋さん(議員)に相談すると「私に任せなさい」と言う。そして庄屋さんから「お館様(おやかたさま)」である市長に、「私の村の人がこんなふうに言っています」と、お願いを聞いてもらうわけです。まるで『真田丸』のような時代劇の世界観。これが、平成の日本の地方議会の実像です。
黒川 半田さん流のレトリックで、与党議員を「庄屋さん」とおっしゃっていますが(笑)、半田さんや鷹羽さんや私のような、いずれのしがらみからも「自由」な議員は、実感としては定数20人で1人か2人でしょう。地方議員のほぼ9割は、戦前からある実質的な自治組織としての町内会や、同業者・労働者による組合、また青年団や商工会など、地域の各集団の代表者が機能しているところだと思います。
半田 とにかく、与党議員といえども地方議員に政策立案などを期待すること自体が間違っています。地方議員の役割とは、ただただ税をとられる側、つまり納税者の気持ちを代弁する「マシン」であるべきだろうというのが私の考えです。
鷹羽 私自身は政策を実現したくても、本当にやりたいことを、議会で自分の口からは言えないというジレンマを抱えています。私が政策的に問題解決を考える場合には、担当課の課長や現場の職員と、それこそ資料を目の前に置きながら徹底的に話し合います。最後には、いつも決まって職員の方から「鷹羽さんの言うことは正論です。でも……」となってしまう。つまり、オモテの場ではそこまで言わないでほしいということです。なぜなら、その提案が私の発案だと分かると、内容ではなく属人的な立場で読み解かれ、あちこちから締め上げられてしまうから。
 職員から「オモテで言わないで」と言われるのは、少数派の議員仲間では決して珍しいことではないようです。平場で実務者と話合いをして、「そうだ、そうだ」と賛同されることはあっても、公式の場で「議員のおっしゃるとおりです」とは絶対ならない。けれども、実際にでき上がった予算や「○○改革プラン」などを見ると、これはあのときの議論で私が言ったことだ、というものが盛り込まれていたりします。残念ながら有権者には全く見えないところなのですが。
黒川 議員の方にも焦りがあるよね。庄屋さんタイプの議員ほど、自分が手柄を立てたいから、鷹羽さんのように出る杭は打たれてしまう。
鷹羽 そうそう。

地方創生は全国共通ではない

――さて、次に国の地方施策の目玉といわれている「地方創生」について、皆さんの議会ではどのような議論が行われているかお聞かせください。
鷹羽 そもそも地方創生と打ち出したからといって、自治体に改めて新しい計画を1個つくってこいということ自体が問題だと思います。
 すでに各自治体では総合計画や個別計画を作成し、その中に自治体の状況に合わせた内容を織り込んで動いているわけです。その上さらに、計画を出して初めて地方創生の交付金が下りるから、いろいろな計画がつぎはぎになってしまう。
――議会としては、それぞれの計画をどのように整理されていますか。
黒川 議会は、そういう計画の整合性に関する審査を放棄してしまっています。地方創生予算で子ども・子育て支援の担当やシティプロモーションなどの現場の職員のスキルは上がったとしても、人口減少のような複雑な問題に対しても旧態依然とした議員の発言は、マタハラ的になってしまいがちです。
鷹羽 国が地方創生で旗を振っている「消滅自治体」向けの内容と、都市部の政策課題にはすごく温度差を感じます。縮減社会しか前提に考えられていない。地域循環型社会を目標に掲げても、都市部に行けば行くほど朽ち果てています。資金循環や地域コミュニティが崩壊しており、共助など成り立たない。そこに、地域のことは地域で決定してくれと言われても、難しいと思います。
半田 これでは地方分権ではなく、国家主権の押しつけですね。もし私が市長だったら、地方創生で望むことは、ほぼ100%規制緩和です。
 だから、地方創生をやりなさいと言われて、やる必然性は実はないということを論証できる首長が出るのではないかと思いますが、なかなかいないですね。みんなお金が欲しいから、言われたとおり、何十年後に人口を何倍にしますなどと出してしまうのです。国主導で地方創生をやること自体が、実は国家主権だということを、地方議会はいま一度認識しておく必要があると思います。
黒川 朝霞市は東京のベッドタウンで、選挙というと都市型の天下国家の政策が話題になりがちですが、これは本来の自治の問題ではありません。私は、朝霞市の地方創生に関して、「もし災害等で東京が消滅したら」を考えることなども話題にしました。
半田 そのとおりだと思う反面、消滅するなら消滅してもいいのではないかと思う。少し過激な言い方ですが、例えばうちの市の人口が半減して消滅したら困ると言っているのは誰かという話。
黒川 ロジック的には面白い話ですが、そうではなく実際に災害が起きた場合に住民を避難させたり、生活の支援をするのは市の職員の皆さんです。朝霞市の防災計画では地震と火事しか想定していない。例えば、大災害が起きて東京が機能停止になったと仮定して、1か月以上も食料も水も供給できなくなったら、そのときにどうすべきか、「地方創生」は、そういうことも考えるチャンスなのだろうと思います。そういうときに愛郷心で踏みとどまれみたいなことを言えるのかと。自分の自治体はもう終わりです、とにかく逃げろと、逃げることを市は助けられるのか。
 「地方創生」というのは、自分のまちはいったいどのようにお金や人が入ってきているのかということを再認識し、そこを議論するよい機会です。出生率がどれぐらい増えるかとか、そんなことを日本中で議論してもしようがない。自分の自治体の極限状態を想定することをやらなければいけない。朝霞市は東京のベッドタウンだからこそ、東京が消滅したらどうしたらいいのかを真剣に議論しなくてはならないわけです。
鷹羽 結局、地方創生そのものが国策なんですよね。地方創生の看板には地方と書いてあるけれど、国策として東京一極集中では困るし、このまま、いわゆる消滅自治体といわれた郡部がどんどん細っていって、それを維持するために配ってやる金がもう国にはない。
半田 正直、創生されたら困る。
黒川 私は、そういう都会の被害妄想的なことをいっていてもしようがないと思う。農村でいうと、縮小均衡の状況は徐々にできてきていると自分の父の郷里などを見ても思います。人間関係が濃くなってきているし、いろいろなことをみんながやるようになっている。対して、うちのベッドタウンなどはそんなことをやらない。どちらに未来があるかと考えたら……。
鷹羽 議会や地方自治というか、住民自治、地域自治の力ですね。日本は、国の統治が行き渡っている国だと思うんですよね。
黒川 国の統治が行き渡っていて、末端がそれに恭順する仕組み。これは1940年代にできた仕組みなんです。そんな中でも「日本は戦争中のように自治を否定した時代でも、結局そこにはそこここでみんな自治をやっている仕組みがあった」というようなことをおっしゃる先生もいます。
 もとからあった地域自治の仕組みを国家が上手に利用したわけで、自治の仕組み自体はそんなに簡単に壊れるようなものではないだろうと思うのです。
――それは力強い言葉ですね。
黒川 ただ、歴史のないベッドタウンは問題なんだと思う。アメリカほどではないけれど、ニュータウンやマンション群のゲーテッドタウンで自治ができるのか。例えば保育所にしても、企業がつくってくれたらというように、民間会社に生活のいろいろなことを寄りかかろうとしている傾向があります。
鷹羽 町村部では、議員としてどう政策立案をして、どう政策提言をするかというのとは全く違う次元で、地域自治が生きているがゆえに、庄屋さん、お代官様の仕組みが確実に残っている。
半田 例えば、会津などでは人足という制度があって、道路の補修や植木のせん定などに毎週必ず駆り出される。
――川さらいや、赤い羽根募金の集金など、地区や班をつくって当番で回している地域はたくさんありますね。
半田 そういう生まれながらの自治というのは、仕組みとしては残っていて、そこに強制的に入らされているという現実がありますよね。そういう根本の自治のあり方の議論と、国の地方創生のあり方の議論では、当然次元が違う話だと思いますが。

絶望から希望へ、地方議会の未来は

――最後に、全国の「政策派」議員の皆さんに一言お願いします。
黒川 いろいろ絶望的な話をしたけれど、せっかく議員になったのだから、前向きにやるしかないわけです。5年、10年で世の中が変わるなんて思わない、自分一人の力で変わるなんて思わないで、大きな流れがだんだん自分の方に近寄ってくると思えば、いろいろ言うべきことはあるし、やるべきこともある。倦(う)まずたゆまずやっていくことではないかと、自分自身にも言い聞かせたいと思います。
 それと、簡単に自爆しないこと。長持ちするようにやっていった方がいいのかなと思います。半田さんみたいに偽悪趣味的(笑)な議員もいるけれど、三鷹というまちの中でこんなことを公で言ってくれる人なんてそうそういない。やはり地域の貴重な人材には変わりない。あと、仕事というプライドを持つことが大事だと思いますね。
鷹羽 対立からはやはり何も生まれない。どうせ与野党の構造の中で自分は相手にされないというのが本音であったとしても、それをひがみ根性にしてもいけないし、与野党対立を引きずっていてはだめだと思います。まあ、実態として腹の中でわきまえておくとしても、それを対立にしてはいけない。でも、丸め込まれる必要はない。
 また、1期目の皆さんとよく言うのですが、だいたいの人は自分の方がおかしいのかと思ってしまうんですね。でも当たって砕けたら元も子もないですから、これは言わなければいけないというときのためにストックはしておきましょう。どうしてもこれは言わなければというときは、砕けようが何だろうが、しっかりかみつく。そうでないときは、バランスを見ながらやっていくことですね。
 そして、石を投げ続けること。脈々と続く、お代官様と庄屋さんの文化の中で平和にやってきている世界なんです。私たちの仕事はそこに石を投げ込むこと。石を投げ込んで、波紋が起きるところまでで、ある意味いいと思っています。そんな役どころと思っておけばいいのかなと思います。
半田 私は以前、銀行に勤めていましたが、およそ3年ごとに転勤命令が出ました。3年ごとに住むところが変わるわけです。そうした転勤族にとって、4年に一度の地方選挙にどんな意味があるのか。人は移動の自由があり、かつ会社の転勤命令などで、意思に関係なく転居の必要も発生する。毎日の生活に追われて手一杯の中で、唐突に選挙があるわけです。そんな状況では自治もへったくれもない。やれ選挙だ、投票率だ、民主主義だといわれても、そんなの大きなお世話です。何よりも会社との関係が良好であればいい。課長に一杯酒をつげればいい。家に帰って、母ちゃんの機嫌がよければそれでいい。これが現実です。20年後、30年後の未来まで議員が責任をとれるなんて思っていません。
 そんな状況の中、いったい地方議員に何ができるのか。2期目、3期目は、だいたい壁にぶち当たります。私は悩んだ末に、我々の本番は、議会の一般質問で市長にお願いすることではなく、決算予算の委員会の場できちんと調査をして、情報をつかんだ上で、行政に問題提起をしていく。これこそが、地方議員がやらなければいけない仕事だという、自分の哲学を打ち立てました。そのために、おのれの頭で考え続けることが本当に大切だと思っています。新聞を見たり、ラジオを聞いたり、テレビを見たりして、何か疑問に思うことがあった。あれ、俺はこう思うのにな。いや、あいつはこういうふうに言っている。比較検証しながら、自分なりに理論づける。批判がきたら、その批判を受け止め、さらに練り上げていく。
 地方議員は皆さん悩みが多いでしょう。ときにはSNSを利用して悩みを持っている人同士で、愚痴を言ったり、実際に会って酒を飲んだり、横のつながりをつくったり、こうして一緒に雑誌で対談したり、今後は一緒に本を書いたりもしてみたい。これまでになかった、未来につながる横のネットワークを広げていきたいですね。
――本日は三人三様の本音トーク、ありがとうございました。政策に至る議員の道は厳しいと思いますが、これからのご活躍を応援しています。(編集部)

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〈プロフィール〉

鷹羽登久子

鷹羽登久子 たかば・とくこ
大府市議会議員。1966年愛知県知多郡美浜町生まれ、知多郡東浦町で育つ。結婚して大府市へ。元夫の転勤で広島市安佐南区、福岡市東区に延べ6年。大府市に戻り現在に至る。
学歴:東浦町立片葩小学校、東浦中学校、愛知県立刈谷北高等学校、愛知淑徳短期大学国文学科卒業(女子は4年制大学に行ったら就職できないといわれていた頃でした)。
職歴:【正規雇用又はフルタイム】河合塾予算管理室に新卒で就職。育児休業制度がなかった時代、出産を機に退職。夫実家の家業従事。自動車部品メーカーの事務正社員。飲料ベンダー会社の経理事務。【非正規】アクセサリーショップ、食品製造加工会社、ダスキンハーティ(交換に定期訪問する人)、スーパーの早朝品出し、ブックオフ倉庫で古本の仕分けやピッキング、コールセンター派遣(非正規は掛け持ちのものもありました。出産で一度正規ルートを外れると、生活のために雇ってくれるところを転々とするしかない、の典型な経歴ですね)。
成人した3人の子は独立し、今は保護猫と同居。
ホームページ http://teamtokuko.jimdo.com/
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ツイッター https://twitter.com/takaba_tokuko

黒川滋

黒川滋 くろかわ・しげる
2011年12月~朝霞市議会議員、2期目。保育・介護・都市交通など都市の安心に関わる課題に取り組む。1970年生まれ。18歳まで朝霞市で育つ。高校生のときに学生運動のまねごとをしていたときの仲間の誘いで政治に接点を持ち始める。1989年進学を機に、バブル難民として札幌市で独居を始め、そのまま札幌の老舗文具卸売業に就職。9年間に選挙の支援や社会的な運動と関わりながら、北海道の市民運動、労働運動、政治が一体となって社会改革に取り組む西欧社会民主主義的な風土を体験。1998年自治体職員や公共サービスで働く人の労働組合、自治労中央本部の職員に転職。福祉や臨時・非常勤職員の運動を仕事に。2011年11月退職し、朝霞市議会議員に立候補し、12月に当選、2015年12月1,400票で2回目の当選。
ブログ「きょうも歩く」 http://kurokawashigeru.air-nifty.com/
ツイッター https://twitter.com/kurokawashigeru

半田伸明

半田伸明 はんだ・のぶあき
三鷹市議会議員。1970年福岡生まれ。11歳で三鷹市大沢台小学校に転入。三鷹第七中学校卒業。中央大学法学部法律学科入学。大学では憲法研究会に所属。特に地方自治を勉強。卒業後、あさひ銀行(現りそな銀行)入行。中小企業の財務分析に明け暮れる。財務分析能力は地方自治の健全化のための大きな武器と考える。2003年33歳で三鷹市議選に初当選。翌年、借金予算案に賛成する民主党三鷹と決別し離党。以来、政党や組織、しがらみに全く関係ない完全無所属を貫く。選挙カーを使わず、選挙ポスターも自費作成するなど、選挙に税金を使わないスタイルで、2015年には4期目の当選。妻と、10歳、6歳の息子とアパート暮らし。
ブログ http://ameblo.jp/handanobuaki/
ツイッター https://twitter.com/handa_nobuaki

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