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2016.02.25 政策研究

縁に代わる新たなセーフティネットの構築を目指して【フードバンク山梨】

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NPO法人フードバンク山梨理事長/全国フードバンク推進協議会代表 米山けい子

フードバンク山梨設立の経緯

 2008年に理事を務めていた生協を退職した後、何らかの形で地域に貢献したいと考えました。どんな活動ができるだろうかと模索していたときに、『フードバンク』という活動を知り、自宅を拠点として1人で活動を始めました。フードバンクは“食品ロスを福祉に役立てる”という活動ですが、設立当初は“もったいない食品を減らす”活動に重きを置いていました。
 この活動を始める前の16年間、アフリカの子どもたちにお米を送る支援活動をしており、現地のマリ共和国に活動訪問をした経験もありました。現地の子どもたちはボロボロの服を着ており、生まれてから一度もお風呂に入ったことがなく、身体もやせ細っています。見ただけで栄養状況の悪さや着ているボロボロの服から、子どもたちの貧困の深刻さが分かりました。
 一方、日本における子どもの貧困は見た目では分かりづらいのが現状です。食事も、ご飯にお茶漬け、ご飯に納豆、ご飯に塩、食パンなど、炭水化物に偏る傾向があるので、生活困窮世帯の子どもでも外見は太っている子もいます。そして洋服もいただいた物や安い物もありますから、服装からも分かりづらいのです。さらに、子どもたちは親を気遣ったり、仲間はずれやいじめの対象になることを恐れたり、恥ずかしいという思いから、学校の先生や友だちに家庭の状況について話すことはほとんどありません。
 このように日本における貧困は特に見えにくいため、私も活動を始めるまでは国内の貧困に対する認知は希薄で、貧困は国内の問題というよりは、海外の問題だと考えていました。しかし、ちょうどフードバンク山梨が設立された2008年にリーマン・ショックが起き、世界的な経済状況の悪化を受け、日本国内でも生活困窮世帯が急増しました。それ以降、貧困問題が社会的な課題として取り上げられるようになり、認知が進むこととなりました。

フードバンク山梨の食料支援を受け取る家族の様子フードバンク山梨の食料支援を受け取る家族の様子

フードバンクとは? その考え方

 フードバンクとは、食品企業や市民から食品を寄附していただき、生活困窮者や福祉施設に無償で提供する活動です。フードバンク発祥の国アメリカでは1967年に活動が始まり、203のフードバンク団体が設立されています。シェルターや炊き出し等の再配布拠点は5万箇所にも及ぶとされています。また、年間3,700万人がフードバンクからの食料支援を受けており、そのうち38%の1,400万人が子どもであるとされています。EU諸国においてもフードバンク活動は幅広く取り組まれており、フランスでは38年の歴史があり、年間82万人がフードバンクからの支援を受けています。
 フードバンク活動を積極的に推進している欧米には、フードバンク活動への公的な支援として、余剰農作物の提供や食品寄贈者の責任を軽減する法律、食品寄贈者への税制優遇制度、フードバンク団体への補助金制度など、活動を推進するための仕組みや法律があります。このように海外では国がフードバンクを積極的に推進し、社会保障制度の一翼を担う活動として展開されています。一方、日本国内ではおよそ40団体のフードバンクが設立されていますが、ボランティアで活動している団体も多く、欧米のように社会保障の分野で十分な役割を果たすことができていません。私どもフードバンク山梨の活動が他の事例と比べ持続的に成長してこられたのは、公的な支援があったことも要因のひとつとして挙げられます。山梨県内では2012年度から2014年度までの3年間で「食のセーフティネット事業」という取り組みに対して年間2,000万円の公的支援がありました。2015年度においては10月から山梨県単独事業である生活困窮者自立支援緊急対策事業をフードバンク山梨が受託し、食料支援事業を実施しています。アメリカやEU諸国でフードバンク活動を推進するための法律がつくられ、補助金を支出する理由は、困窮者への直接的な効果に加えて、費用対効果が非常に高いからです。実際、私が2012年に視察に訪れたアメリカの1つのフードバンク団体に対して、行政から年間20億円分の食品の現物支援と2億円の補助金による公的な支援がありました。
 また、ホームレス支援は「ホームレス」、学習支援は「子ども」など、多くの福祉的制度の支援対象には範囲があり、対象となる年齢層や属性を超えて支援することができないのが普通です。その点、食料支援は性別や年齢層、貧困の状態などを問わず、あらゆる貧困の形に対して有効な支援になります。これは失業や低年金、障害、ひとり親など、貧困に陥る要因や状況は異なっていても、あらゆる貧困は最終的に食べ物がないという状況に陥り、その状況に対して食料支援が有効に機能するからです。

これまでの活動

 フードバンク山梨では市民、企業、行政との協働により、生活困窮世帯に食料支援を行う「食のセーフティネット事業」を実施しています。食のセーフティネット事業では、食品企業や市民から寄附していただいた食品を、行政の福祉課や社会福祉協議会、民間支援団体等、49の機関・団体と連携し困窮世帯に届ける活動です(図1)。

図1 食のセーフティネット事業概要図図1 食のセーフティネット事業概要図
 

 2014年度には17の市町村福祉課、6つの県機関、社会福祉協議会20団体、民間支援団体6団体の合計49の機関、団体と連携確約書を締結しており、連携機関からの申請をもとに454世帯、1,007人に対して4,379件の食料支援を行いました。また、支援人数のうち358人(全体の35.6%)は19歳以下の子どもでした。2014年度の年間食品取扱量は105トンで、約40トンが個人への支援、その他は児童養護福祉施設や障害者福祉施設に提供しています(図2、3)。

図2 食料支援件数推移図2 食料支援件数推移

図3 連携確約書締結機関数推移図3 連携確約書締結機関数推移

「縁」の衰退と生活困窮者の増加

 2015年4月の生活困窮者自立支援法施行により、全国の自治体に相談窓口が開設され、生活困窮者への相談支援と住居確保給付金の支給が必須事業として実施されています。これまで生活保護の水準近くで生活している困窮者で生活保護に該当しないケースでは、公的な支援を受けることができませんでしたが、生活困窮者自立支援制度が施行され、これまで社会保障制度のはざまで支援が受けられなかった生活困窮者への支援が可能になりました。また、必須事業のほかにも就労準備支援、一時生活支援、学習支援、家計相談支援事業などの任意事業があります。
 リーマン・ショック後に生活困窮者が急増したのは、経済状況の悪化に加え本来セーフティネットとして機能するはずの地縁、血縁、社縁などの「縁によるセーフティネット」が衰退していたことも原因だと考えています。
 例えば、職を失い、お金がなくなり、住まいもなくし、食べる物もないという大変な状況を考えてみます。親族との良好な関係があれば、このような大変な状況でも実家に戻れば住むところがあり、食事も出してくれるでしょう。さらに、仕事がなければ仕事を見つけてくれたり、それができなくても親身になって一緒に仕事を探してくれると思います。またお金がなければ、経済面でも支援してくれるかもしれません。このように血縁は、衣食住や職、経済面に至るまで、緊急時にセーフティネットとして機能していました。子どもに関しても、祖父母が近くにいれば、子どもが熱などを出したときに一時的に預かってくれたり、近所付合いがあれば、ご近所のおばさんたちが小さい子どもを見てくれました。子ども同士で遊ぶ居場所や関係性も地域の中にたくさんあり、現在のように貧困世帯の子どもが孤立することを防いでいました。
 これらの縁によるセーフティネットが衰退した昨今、これらを埋め合わせるために、現在NPO等が病児保育やこども食堂、生活困窮者自立支援制度の任意事業である一時生活支援、就労準備支援、学習支援、家計相談支援など、様々な事業に取り組んでいます。これらのNPO等が行う活動は、縁により支えられていたセーフティネットを代替する新たなセーフティネットになり得る可能性があります。しかしながら生活困窮者自立支援制度に基づく事業が、2015年の4月から取り組みが始まったばかりであり、任意事業に関してはまだ取り組みが進んでいない自治体も多く、縁によるセーフティネットを代替するまでには至っていません。

日本おける子どもの貧困は見た目では分かりづらいのが現状日本おける子どもの貧困は見た目では分かりづらいのが現状

今後自治体や議会に望む改善策、政策の提言

 かつてセーフティネットとして機能していた縁は衰退し、残念ですが同じ形でよみがえることはないと思っています。今の日本は、失われた縁によるセーフティネットに替わる、新たなセーフティネットが構築され始めている時期だともいえます。国は、「生活困窮者自立支援法」や「子どもの貧困対策の推進に関する法律」をつくりました。しかし、法律に基づく事業の実施は自治体ごとの取り組みとなります。その点で、国がつくった枠組みをどのように活用し、衰退した地域のセーフティネットを新たに再構築できるかは、地方自治体の中でも特に、自治体議員の活動にかかっているのではないでしょうか。生活困窮者自立支援法に基づく任意事業の実施には、それぞれの地域ごとに担い手となるNPO等の社会資源を育てる必要があります。しかしながら、地域によってはNPO側に事業を実施できるだけの組織基盤が整っていない場合も多々あると思いますので、時間をかけてNPOを育てる視点が必要になります。
 地域のセーフティネットをより良いものとするために、行政だけでは事業実施が難しい学習支援や就労準備支援、一時生活支援、家計相談支援などの事業をNPO等の非営利団体へ委託することが考えられます。欧米のようにNPOが活躍できる体制を整えることで、結果的に日本国内のセーフティネットがより強固になると私は考えています。自治体議員の皆様には地域のセーフティネットをより強固にするために、NPOへの事業委託を積極的に検討していただきたいと思います。

日本国内のフードバンクはボランティアで活動している団体も多い。今後の活動の拡充や継続には公的な支援が重要な役割を果たす日本国内のフードバンクはボランティアで活動している団体も多い。今後の活動の拡充や継続には公的な支援が重要な役割を果たす

将来の活動への展望

 失われた縁によるセーフティネットを補完するために、新たなセーフティネットを構築し始めているところですが、このセーフティネットの中には、食のセーフティネットが含まれていません。この部分を補完するためには、海外のようにフードバンク活動を推進するための法整備が必要であると考えています。昨年11月には全国フードバンク推進協議会を立ち上げました。協議会の活動として次世代のフードバンク活動を担う新設団体の立ち上げやノウハウ支援、そして政策提言活動に取り組むことによってフードバンク活動を日本国内に定着、発展していけるような環境をつくっていきたいと考えています。

企業などから寄附していただいた食品を一つひとつ丁寧に梱包する企業などから寄附していただいた食品を一つひとつ丁寧に梱包する

この記事の著者

米山けい子

NPO法人フードバンク山梨理事長/全国フードバンク推進協議会代表。生活協同組合パルシステム山梨理事長を退任後、2008年10月に「フードバンク山梨」を設立。2010年から行政との協働で「食のセーフティネット事業」を展開。2015年11月に全国フードバンク推進協議会を設立、日本国内におけるフードバンク活動の定着と発展を目指し活動に取り組んでいる。 【お問合せ】 NPO法人フードバンク山梨 住所:〒400-0306 山梨県南アルプス市小笠原317 サンシャインビル1F 電話番号:055-282-8798 ホームページ:http://fbyamana.fbmatch.net/ メールアドレス:info@fbyama.com ※上記は2016年2月28日までの連絡先になります。2016年2月29日以降は、事務所の移転に伴い、住所と電話番号が下記のとおり変更となります。  住所:〒400-0214 山梨県南アルプス市百々3697-2  電話番号:055-298-4844

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