NPO法人フードバンク山梨理事長/全国フードバンク推進協議会代表 米山けい子
フードバンク山梨設立の経緯
2008年に理事を務めていた生協を退職した後、何らかの形で地域に貢献したいと考えました。どんな活動ができるだろうかと模索していたときに、『フードバンク』という活動を知り、自宅を拠点として1人で活動を始めました。フードバンクは“食品ロスを福祉に役立てる”という活動ですが、設立当初は“もったいない食品を減らす”活動に重きを置いていました。
この活動を始める前の16年間、アフリカの子どもたちにお米を送る支援活動をしており、現地のマリ共和国に活動訪問をした経験もありました。現地の子どもたちはボロボロの服を着ており、生まれてから一度もお風呂に入ったことがなく、身体もやせ細っています。見ただけで栄養状況の悪さや着ているボロボロの服から、子どもたちの貧困の深刻さが分かりました。
一方、日本における子どもの貧困は見た目では分かりづらいのが現状です。食事も、ご飯にお茶漬け、ご飯に納豆、ご飯に塩、食パンなど、炭水化物に偏る傾向があるので、生活困窮世帯の子どもでも外見は太っている子もいます。そして洋服もいただいた物や安い物もありますから、服装からも分かりづらいのです。さらに、子どもたちは親を気遣ったり、仲間はずれやいじめの対象になることを恐れたり、恥ずかしいという思いから、学校の先生や友だちに家庭の状況について話すことはほとんどありません。
このように日本における貧困は特に見えにくいため、私も活動を始めるまでは国内の貧困に対する認知は希薄で、貧困は国内の問題というよりは、海外の問題だと考えていました。しかし、ちょうどフードバンク山梨が設立された2008年にリーマン・ショックが起き、世界的な経済状況の悪化を受け、日本国内でも生活困窮世帯が急増しました。それ以降、貧困問題が社会的な課題として取り上げられるようになり、認知が進むこととなりました。
フードバンクとは? その考え方
フードバンクとは、食品企業や市民から食品を寄附していただき、生活困窮者や福祉施設に無償で提供する活動です。フードバンク発祥の国アメリカでは1967年に活動が始まり、203のフードバンク団体が設立されています。シェルターや炊き出し等の再配布拠点は5万箇所にも及ぶとされています。また、年間3,700万人がフードバンクからの食料支援を受けており、そのうち38%の1,400万人が子どもであるとされています。EU諸国においてもフードバンク活動は幅広く取り組まれており、フランスでは38年の歴史があり、年間82万人がフードバンクからの支援を受けています。
フードバンク活動を積極的に推進している欧米には、フードバンク活動への公的な支援として、余剰農作物の提供や食品寄贈者の責任を軽減する法律、食品寄贈者への税制優遇制度、フードバンク団体への補助金制度など、活動を推進するための仕組みや法律があります。このように海外では国がフードバンクを積極的に推進し、社会保障制度の一翼を担う活動として展開されています。一方、日本国内ではおよそ40団体のフードバンクが設立されていますが、ボランティアで活動している団体も多く、欧米のように社会保障の分野で十分な役割を果たすことができていません。私どもフードバンク山梨の活動が他の事例と比べ持続的に成長してこられたのは、公的な支援があったことも要因のひとつとして挙げられます。山梨県内では2012年度から2014年度までの3年間で「食のセーフティネット事業」という取り組みに対して年間2,000万円の公的支援がありました。2015年度においては10月から山梨県単独事業である生活困窮者自立支援緊急対策事業をフードバンク山梨が受託し、食料支援事業を実施しています。アメリカやEU諸国でフードバンク活動を推進するための法律がつくられ、補助金を支出する理由は、困窮者への直接的な効果に加えて、費用対効果が非常に高いからです。実際、私が2012年に視察に訪れたアメリカの1つのフードバンク団体に対して、行政から年間20億円分の食品の現物支援と2億円の補助金による公的な支援がありました。
また、ホームレス支援は「ホームレス」、学習支援は「子ども」など、多くの福祉的制度の支援対象には範囲があり、対象となる年齢層や属性を超えて支援することができないのが普通です。その点、食料支援は性別や年齢層、貧困の状態などを問わず、あらゆる貧困の形に対して有効な支援になります。これは失業や低年金、障害、ひとり親など、貧困に陥る要因や状況は異なっていても、あらゆる貧困は最終的に食べ物がないという状況に陥り、その状況に対して食料支援が有効に機能するからです。