東京大学名誉教授 大森彌
見知らぬ集団の一員になる
自治体議会は、基本的には4年ごとに再構成される。再構成されるが、実際には、全員が入れ替わることはないから、新たに発足した議会には、新旧でいえば、現職、元職、新人といった議員が参集することになる。現職で再選した議員同士は、「やあ、やあ。引き続きよろしく」ということになる。勝手知った議会へ戻ってきたという感じであろう。
これに対して、新人議員は、見知らぬ集団の一員になるのであるから、気負いと不安が入り混じった気分になるのはもっともである。どこの世界でも同じであるが、議員が参集する議会という世界にも、その振る舞い方についてのルール・慣習がある。新人議員は、それらを習得して一人前の議会人になっていく。議会の会議という職場で、会議という仕事を通じて、新人議員は「議員らしく」なっていく。
今回は、これを「会議の原則」と関係付けて考えてみたい。それは一種の「職場研修」である。所属会派のメンバーからコーチを受けることはあるが、自己研さん・自主トレが基本であり、本人の自覚と意欲が決定的である。選挙で選ばれたという特権的な仲間意識を払拭し、1人になっても恥ずかしくない議会人として振る舞うといった気概と言論の力を発揮してほしいものである。
新人議員の割合
ところで、自治体議会の選挙で、どれくらいの新人が当選するのか、当然ながら、各地によって、各選挙によって異なるが、一遍に全員が入れ替わることはない。概して、再選議員が多い。
2015年4月の第18回統一地方選挙における前半戦の41道府県議選の当選者数は2,284人、現職は1,738人(約76%)、元職は70人(3%)、新人は476人(21%)であった(朝日新聞2015年4月13日)。
後半戦の議員選では当選者に占める新人の割合は市議選22.1%、区議選18.6%、町村議選25.3%で、いずれも前回から減少した。当選者全員が現職の議会も11あった(毎日新聞2015年4月28日、東京朝刊)。
各議会によって事情が異なるが、議員の約2割が新人として当選している。これにより、議員の平均年齢が下がれば、世代交代が進むことになる。この新陳代謝は、「議会を変えよう」という民意の反映かもしれない。少なくとも、新人議員には議会に新風を吹かせてほしいという期待が託されているといえるかもしれない。
法人の議事機関になる
議員になるということは、地方公共団体という法人の機関、議事機関(議決機関)になるということであり、議事機関に託されている任務を的確に遂行する責務を負っているということである。建前でいえば、議員選挙のときに、住民は、ある候補者が、この議事機関としての任務を十全に遂行してくれるものとして1票を投じている。だから、当選後は、その期待に応えて言動しなければならない。
議事機関に与えられている任務とは、地方自治法96条に規定されているように、条例を設け又は改廃すること、予算を定めること、決算を認定すること、法律又はこれに基づく政令に規定するものを除くほか、地方税の賦課徴収又は分担金、使用料、加入金若しくは手数料の徴収に関することなどの議決である。議会は、自治体の条例、税金の使いみちを決定する権力を有している。議会とは複数の人間が集まって、この権力を行使する機関である。
選挙管理委員会から当選証書を、議会事務局から議員バッジをもらい、新議員誕生ということになるが、議員の本務は議会活動であるから、どのように振る舞えばよいか知っていなければならない。この振る舞い方を具体的に成文法的に規定しているのが、地方自治法の下に設けられている会議規則、委員会条例である。
その中には議員活動に関する規定もあり、これらの意味を学習し、適宜、使いこなせるようにならなければならない。それによって、新人議員は、「なかなかだな」、「頼りになりそうだ」といった評判をとり、「侮れないぞ」、「厄介かもしれない」といった警戒心を抱かれるかもしれない。
会議の原則
どこの自治体議会にも、「会議はこのように行うべし」とするルールがある。会議の原則である。これは、長年の会議経験から生まれたいわゆる慣習法というべき性質を持っているが、拘束力が強いものは法令で規定されている。地方自治法120条は「普通地方公共団体の議会は、会議規則を設けなければならない」と規定し、自治体議会は、大体、同様の会議規則を設けている。これを中心に会議原則が了解されている。議会の基本を知らないと新人議員の活動は安易に流れやすい。
一般には、定足数、過半数議決、一議事一議題、一事不再議、会期不継続、委員会審査独立に関する原則が定められているが、新人議員としては、何よりも、議事公開の原則をしっかり理解している必要がある。
それは、住民が議会の会議の状況を直接見聞できる自由、会議の状況を報道機関が新聞、テレビ、ラジオ等によって広く一般住民に知らせる自由、本会議、委員会ともインターネット・モニターテレビで中継、一般質問は、ケーブルテレビで後日放映、またインターネットで録画配信、会議の状況を真正に記録した会議録を一般住民が閲覧できる状態にし、可能な限り広く配布する、ホームページで公開する等である。議会会議の模様は一般の目にさらされており、この公開原則の遵守こそ、議会が開かれた言論の府であることの証明になるからである。これに関連して、新人議員が、一議員として議会活動に関する情報を発信するため、ニューズレター等を配布するなど、積極的な情報公開を行うことは当然である。
大切な「議員平等の原則」
会議の原則の中で、法令や会議規則に明定されていないため見落としがちであるが、最も重要なのは「議員平等の原則」である。議員の性別、年齢、信条、社会的地位、議員としての経験年数、その他の条件は、議会内において関係なく、発言権、表決権、選挙権は全ての議員に等しく認められている。
これまで、自治体議会の中には、議運や会派間の申合せによって、この「議員平等の原則」に反し、新人議員を不当に軽視するような取扱いがなかったわけではない。例えば、海外視察の取扱要綱で「議員は、任期中(原則として1回)海外視察を実施できる。ただし、議員としての経歴が2年に満たない期間は除く」と定め、「旅費の限度額は、120万円とする。ただし、1期の議員は60万円とする」となっている場合がある。議員が対等で、しかも視察が調査目的であるにもかかわらず、期数が重視され、支給される金額に差がつくのはおかしい。海外視察不要論もあるが、海外視察を認めるならば、「議員平等の原則」を遵守すべきであり、もし期数による不当な扱いがあるならば、新人議員はこれを正すべきである。
新人議員でも、議長選出で行使する選挙権はベテラン議員と平等である。会議の原則のひとつに「公正指導の原則(議長のあり方に関する原則)」がある。議員の中から選挙される議会の議長は、特定グループから推されて競争する場合が少なくないが、議長の当選が確定したら議会全体の議長になるのである。したがって、議長の立場は中立で、職務遂行は冷静、公平、関係法規にのっとった議会運営に万全を期さなければならない。この観点から、議長候補者がふさわしいかどうか判断し、1票を投ずべきである。
新人議員は、5月の臨時会や初議会を経験することになるが、議会に提出された議案に対し、その内容をしっかりと調べ自信を持って発言し表決したかどうか問われる。会派に入っていれば、仲間意識で守られ攻撃されないと思っているようでは、新人議員としては情けない。議会は話し言葉が威力を発揮する場である。例えば、議案に対する質疑とは、「疑義を質(ただ)すもので、知っていることを答弁させる」ことである。そのためには知らないことは聞かない、知らないことは事前に調査して質疑に臨むべきであり、質疑によって現在の政策を変更させることができるのである。
そのためには、議会事務局から規則・前例説明を受けるだけでなく、外部の議員研修プログラムに参加し、研さんを積むことが有用である。
