熊谷俊人 千葉市長 × 福田紀彦 川崎市長 × 大西一史 熊本市長
司会:中村健 早稲田大学マニフェスト研究所
時:2015年2月4日、於:早稲田大学井深大記念ホール
市民が私のシンクタンク
──もうすぐ地方選ですね。今日は、マニフェストに政策を掲げ、政策の力で選挙に勝った政令市長の皆さんにお集まりいただきました。
大西(熊本市長) 私は、議員時代にローカル・マニフェスト推進地方議員連盟の2代目の共同代表をしていたことから、熊本市長選に立候補したときもマニフェスト型の選挙をしっかりやろうと考えました。保守王国の熊本では、どこの推薦をとるかといった方に注目が集まっていましたが、それでも私は政策型の選挙をやりたいと強く考えていました。
そこで、マニフェストをつくるなら、密室でつくった政策では市民の本当のニーズに応えられないと、出馬表明と同時に市民を巻き込んだ政策立案会議を始めました。
マスコミの皆さんから「何回ぐらいやるんですか」と尋ねられて、「まあ、10回から15回ぐらいできれば」とお答えしていたのですが、実際には30か所、延べ52日間、1,300人の市民が参加され、130項目の個別政策が集まりました。市民の中にはいろいろな政策課題があって、要望もあれば、何とかバリアフリーにしてくださいというような切実な要求もある。住民参加とよくいいますが、政策をつくる過程への住民参加というのは、なかなか簡単ではないのです。それを地道にやったことが、大きな成果となったのです。
一方、相手候補はまちなかの大型MICE施設整備計画の是非を選挙の争点に掲げ、シングルイシューの選挙を展開しようとしていましたが、私はもっとほかに多様な政策課題があるだろうと打ち出し、結果的に当選したということです。
今回マニフェスト選挙をやってみて、「市民こそ私のシンクタンク」だったと改めて気づきました。当選後も実際の政策に反映させるため、マニフェストをベースに市の当局と対話し、少しでも予算や事業に反映させようと努力しています。そういう意味でも、マニフェスト型選挙をやってよかったなと思っています。
コストと負担の開示、対話がカギに
熊谷(千葉市長) 私がマニフェストで約束し実際に導入した例では、子ども医療費助成の対象年齢の引上げがあります。千葉市の医療費助成は、自己負担は1人300円でした。この自己負担を無料にしてほしいとよく言われました。そこで、無料にしたらその分が3億6,000万円かかります、とまず申し上げるわけです。そうすると、市民の皆さんは「そんなにかかるのか」と実感される。次に、もしこの3億6,000万円を新たに投入すると、自己負担300円で小6まで医療費助成が受けられますよ、という話をする。そうすると、多くの方が、「じゃあ、300円のままでいいから小6まで上げてください」となります。そこで、少し市民の方の反応を待つのです。
すると今度は、「ということは、自己負担を上げると中学生も医療費助成を受けられるのですか」という声が上がりました。こちらは待っていましたとばかりに、「実は自己負担を500円にすると、予算3億9,000万円で中3まで対象になります。どうしますか」と問いかけました。最初は「無料がいい」と言っていた方も、みんな「500円なら値上げしていい」となるのです。
これを私はツイッターや、お祭りイベント等いろいろな場所で、聞かれるたびにご説明しました。住民の皆さんは、ほぼ同じ反応をされました。次に、保育所、幼稚園、小学校、中学校等で数万人規模のアンケートをやりました。そうしたら、無料を選んだ人はほとんどいなかったです。結局、小3まで300円、小4以上が500円という折衷案に落ち着きました。
大事なことは、受益者負担の理解がほかの政策にも転用できるということですね。どんな選択肢、お金の動きがあるのかを説明し、決定の前にアンケートをする。何回も繰り返しやることが大切です。選挙もそうです。市民の皆さんの経験値が上がれば、市民の皆さんはマニフェスト型選挙を理解する方にじりじりと動いていくと思います。