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2015.01.10 政策研究

〈地方教育行政〉教育委員会制度改革と議会の役割

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 2015年4月から、教育委員会制度が約60年ぶりに大きく変更されることになった。一時は行政委員会としての教育委員会を廃止し、教育行政の最終的な決定権限を首長に一元化する改革も有力視されたが、公明党、また自民党の一部に反対論もあり、最終的には教育委員会制度を存続する一方、首長の権限を現在よりも強化する方向での改革が行われることになった。本論では、今回の制度改革の経緯と概要を簡単にまとめるとともに、今後の地方教育行政において議会に期待される役割について述べたい。

制度改革の経緯

 教育委員会制度は、以前からその形骸化や機能不全が指摘されており、2000年代に入ってからは、その存廃や選択制(任意設置)の是非を含めて潜在的な課題となっていた。しかし、特に福田内閣以降は政権基盤が不安定だったことから、具体的な改革には至っていなかった。2011年に起きた大津市のいじめ自殺事件で教育委員会の対応が批判の的になると、教育行政の責任の明確化が政治課題として浮上した。
 2012年末に発足した第2次安倍政権では教育委員会制度の見直しに着手し、2013年4月に内閣直属の教育再生実行会議で教育長を教育行政の責任者とするべきとの提言が行われた。これを受けて、翌5月から文科大臣の諮問機関である中央教育審議会(以下「中教審」という)の教育制度分科会で具体的な制度設計に関する審議が行われた。中教審では首長に教育行政の最終的な決定権を一元化する案(A案)と、従来どおり教育委員会を地方自治法上の執行機関として維持した上で必要な制度的改善を行う案(B案)の2案について検討が行われた。官邸や大臣がA案を推しているとみられたこともあり、審議は徐々にA案優位に傾いたが、一部の委員からは強い反対があり、また、公明党や自民党の一部からはA案では政治的中立性が保てないとの懸念も表明された。その結果、12月に出された中教審答申ではA案に近い「改革案」とB案に近い「別案」が事実上両論併記されるという異例の答申となり、2014年の年明けから行われた与党協議に改革の帰趨が委ねられた。
 与党はワーキンググループを組織して議論を行ったが、与党内でも意見の相違があった。そこで浮上したのが両者の折衷的な案であった。これは、教育委員会制度を維持しつつ、教育委員長と教育長を一体化することで教育行政の責任を明確化し、さらに首長の権限を強化することで選挙を通じた民意の反映を図るという案であった。この方向性で3月に与党合意が成立し、それを基にした地方教育行政の組織及び運営に関する法律(以下「地教行法」という)の改正案が翌4月に国会に提出された。民主党・日本維新の会(当時)は、教育委員会制度を廃止し、首長に教育行政権限を一元化する対案を衆議院に提出したが否決され、6月に内閣提出の改正案が原案どおり可決・成立した。2015年度より改正案が施行される予定である。

制度改革の概要

 今回の改革では、教育の政治的中立性・安定性・継続性を確保するため、教育委員会制度は従来どおり維持することとなった。他方で、教育行政における責任の明確化を図るため、次の3点について変更が行われることとなった。

① 従来の教育委員長と教育長を一本化し、新「教育長」が教育委員会を代表する。新「教育長」は首長が議会の同意を得て直接任命すると同時に、首長が在任中に一度は教育長を選任できるようにするため、教育長の任期を3年に短縮する(教育委員は従来どおり4年)。なお、現在の教育長が在任中は従来どおりの制度を維持する。
② 首長は総合教育会議(後述)での協議・調整を経て、教育行政の目標や施策の根本となる「大綱」を策定する。
③ 総合教育会議は、首長が招集し、首長と教育委員会で構成される。総合教育会議では大綱の策定のほか、重点施策や緊急時の対応に関する協議・調整を行うこととする。

 これに伴い、現在の教育長が交代又は任期満了すると教育委員長のポストはなくなり、教育長は教育委員会の代表者として、教育行政の第一義的な責任者としての役割を負うことになる。ただし、従来の教育委員会は維持されるので、決定はあくまで合議体の教育委員会が行うものであり、教育長はその決定に反する職務執行を行うことはできないとされている。
 新しい制度では、「大綱」の策定は首長の権限であることが明記されている。文科省が2014年7月に出した通知によれば、大綱とは「地方公共団体の教育、学術及び文化の振興に関する総合的な施策について、その目標や施策の根本となる方針を定めるもの」とされているが、法律には規定がないため、大綱に何を記載するかは首長に委ねられている。また、総合教育会議で「大綱」を決定するとの報道が一部にあるが、これは誤りである。「大綱」は総合教育会議で教育委員会と協議・調整は行うが、その決定は首長の専権事項である。
 総合教育会議は、大綱の策定、重点施策、緊急時の対応、の3点について首長と教育委員会が協議・調整を行う。首長と教育委員会で調整がついた事項に関しては、両者はその結果を尊重しなければならないとされている。また、必要があると認めるときは、関係者又は学識経験を有する者から、協議すべき事項に関して意見を聴くことができる。

図:変わる教育委員会制度:変わる教育委員会制度

 なお上記のほかに、国の地方への関与も改められる。具体的には地教行法50条を改正し、いじめによる自殺の防止等、児童生徒等の生命又は身体への被害の拡大又は発生を防止する緊急の必要がある場合に、文部科学大臣が教育委員会に対して指示ができることとした。端的には、事後的な対応だけでなく、予防的な措置についても国が地方に是正指示を行うことが可能になった。

この記事の著者

村上祐介(東京大学大学院教育学研究科准教授)

東京大学大学院教育学研究科准教授 東京大学大学院教育学研究科准教授。1976年愛媛県生まれ。2004年東京大学大学院教育学研究科博士課程単位取得退学。愛媛大学法文学部准教授、日本女子大学人間社会学部准教授を経て、2012年より現職。博士(教育学)(東京大学)。中央教育審議会教育制度分科会臨時委員(2013年~)、衆議院調査局文部科学調査室客員調査員(2014年~)、東京都千代田区教育委員会「教育事務の管理及び執行の状況の点検・評価」有識者会議委員(2014年〜)ほか。

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