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2015.01.10 議会改革

「学ぶ議会」は進み続ける~飯綱町の議会改革~

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飯綱町議会議長 寺島渉

はじめに

 長野県飯綱町は、2005年10月、牟礼村、三水村の合併により誕生し、今年で10周年となる。長野市の北部に位置し、面積75.03平方キロメートル、人口約1万1,900人、米とリンゴの生産を中心とした農業が基幹産業の町である。
 町議会が、住民に信頼される議会・議員を目指して、「学ぶ議会」を合い言葉に議会改革に本格的に取り組んで7年余。一定の成果と前進により、新しい地方議会づくりが進みつつある。この間、マニフェスト大賞に3回入賞、様々なメディアの取材も受けるようになった。
 この小論では、議会改革の取組の経過と成果、今後の課題等とともに、特にこの間、積極的に取り組んでいる集落問題をめぐる町長への政策提言や議員提案による「飯綱町集落振興支援基本条例」について、述べることにしたい。

時代の転換点に立ち、
住民に信頼される新しい地方議会に

 地方分権一括法の施行から14年。機関委任事務の廃止や国から地方への権限移譲、義務付け、枠付けの見直しなど地方分権改革の進展に伴い、地方自治体の責任領域や自己決定権が拡大している。地方議会制度についても、この間、地方自治法改正が重ねられ、議会の権限や自由度の拡大が図られ、地方議会運営において自主性を発揮できる環境が整いつつある。改正内容を生かして、議会活動の活性化に結びつける議会自身の努力が求められる。
 一方、人口減少社会が到来する中で、我が国の社会経済や地域社会は大きく変容を見せ始めている。住民の暮らし方や家族生活、価値観も多様になっている。自治体は時代の変化に伴い、「拡大」基調から「縮小」時代における自治体運営という新しい課題に直面することとなった。このような中で、団体意思を決定し、執行機関を監視する役割を担う地方議会においては、政策立案能力の発揮、多様な住民要求の実現への努力など、その役割と責任は、これまで以上に重要となっている。

(1)議会改革を進め、議員の資質向上を
 北海道栗山町議会による議会基本条例制定から8年、今日では500近い地方議会が議会基本条例を制定するなど、全国的に議会改革が大きく前進してきた。一方で、住民からは議員の意識面も含めて、議会は本当に変わったのかを問われている。二元代表制の一翼として民意を反映する機能を果たしていくためにも、議員資質のさらなる向上が求められる。議会が、「住民自治の根幹」としての役割を果たすために、今後は、「監視能力」に加えて「政策能力」、「コミュニケーション能力」のある議員が求められる。地域の住民感情や要求をくみ取り、政策化する活動を前進させ"住民に寄り添う議会"を目指すべきである。
 飯綱町議会では、8項目の課題を掲げて議会改革に取り組んで7年が経過した。その成果も踏まえ、2012年9月には、「議会基本条例」を制定した。「学び合うこと」、「議員間の自由討議」を基調に議会改革に結びつく様々な課題を設定し、実践してきた。
 議員力を発揮するためには、提出される議案についての理解や分析が前提となる。首長の提案する予算や条例、政策についての表面的な理解力では、論点・争点を明らかにする議論にはならない。よくある基本的な事実を行政側の説明員に教えてもらって終わるような質疑では、議会の審議として期待される水準を満たしているとはいえない。首長や職員が気づかない、あるいはあえて積極的に示そうとしない論点・争点を引き出し、示すことができて、初めて議会の審議は意味を持つ。飯綱町議会では、重要課題について、議会全員協議会等での学習・討論を通じて論点・争点を整理する努力をしている。

(2)追認機関から脱し、首長と切磋琢磨する議会へ
 首長は迅速に執行するために独任制である。議会は合議制であり、多様な民意の反映が可能である。議会は合議制の利点を生かして執行権者の独善を食い止める役割が求められている。これまで地方議会の多くは、執行部の提案する議案にただ同意をするという閉鎖的で「追認機関」的であった。そこでは、いわゆる「根回し」にたけた議員が「力」を発揮していた。
 しかし今後は、全く異なる新しい議員像が求められる。政策論、組織論、財政論など行政の広い分野で、首長と切磋琢磨して、行政の質的発展と住民福祉の向上、地域課題の解決に議員力を発揮できる議員が必要である。議会改革が前進し、議員力、議会力が向上すれば「追認機関」からの脱出は可能だ。
 飯綱町の議会基本条例には、目指す議会像として、「町長と切磋琢磨する議会」、「政策提言のできる議会」、「住民の声を行政に反映する議会」、「飯綱町の住民自治発展の推進力となる議会」などを明記、実施してきた。例えば私が議長になってからの5年余りの間に、町長の提案議案に対して、否決、議員の提案による修正可決、不承認などを議決してきた。
・一般会計補正予算を否決(2011年4月臨時会)
・一般会計補正予算から1億3,700万円を減額する議員提案の修正案を可決(2011年9月定例会)
・町が裁判で一部敗訴、即日控訴した町長の専決処分を不承認(2012年3月定例会)
・総合計画(後期基本計画)は議員提案の修正案を可決(2012年3月定例会)
・一般会計補正予算を否決(2014年6月定例会)
 加えて、町議会は否決、修正、不承認の議決をするにとどまらず、行政執行上の諸問題が発生した際に、町長に問題解決のための提言を議決(4回)し、行政執行の質の向上を求めるなど、首長と切磋琢磨する議会を目指し活動してきた。

(3)住民に信頼される議会・議員になる努力を
 住民に信頼される議会の実現は、議会人共通の課題であり悩みでもある。前提として、つまり住民と議会の間に「広く深い溝」があるといえる。議会はどうすれば住民の信頼を得、期待に応えられるのか。合議制の議会の任務は、議会審議への多様な民意の反映にある。議会と議員が住民の中に深く分け入り接する機会をできるだけ多く設定し、住民と意見交換することが一層重要となっていると考え、飯綱町議会ではそのような場を設けてきた。
① 住民と議会の協働による政策づくり(政策サポーター制度)
 飯綱町議会では、議会改革を進める中で政策サポーター制度を新たに創設し、町民と議会が協働して政策づくりを進めている。第1回(2010年4月~11月)は、住民12人(うち女性2人)が参加、テーマは、「行財政改革の推進」と「都市との交流・人口増加」。第2回(2013年6月~2014年6月)は、住民15人(うち女性7人)が参加、

政策サポーターの住民と協働で政策をつくる政策サポーターの住民と協働で政策をつくる

テーマは、「集落機能の強化と行政との協働」と「新たな人口増対策」。これまでに、4つのテーマで政策提言書を町長に提出している。政策サポーターの方々は、それぞれのテーマで積極的に議論に参加してくれている。住民の多様な要求を拾い上げながら、地域づくりに生きる政策提言活動を今後も続けていく。行政側も議会の提案を積極的に受け止めてくれて、子育て支援等(時間外保育料の一部無料化)が実現し、町民からも喜ばれている。
② 議会を「見える化」
 議会を「見える化」し、住民参加を広げることは、議会と住民との間の「溝」を埋めるためにも重要である。飯綱町議会では、これまでに「中学生模擬議会」、一般質問を日曜日に開催した「休日議会」、同じく夜6時から開催した「夜間議会」を実行するなど、議会の開催方法や時間にも工夫することで「見える化」に取り組んできた。2014年6月定例会の一般質問(夜間議会)には、3日間で60人の町民が傍聴に訪れた。
③ 住民と議会との懇談会
 議会基本条例で位置付けた「住民と議会との懇談会」は、毎年1~2回開催され、これまでに延べ7回、211人の住民が参加している。懇談会で出された住民要望は議会が毎年11月~12月に町長に提出している「予算・政策要望書」にも反映されている。
④ 「議会だより」モニター制度
 飯綱町議会では2014年8月から、「議会だよりモニター」を57人に増やした。「議会だより」を通して、モニターの皆さんに、住民の中で議会活動を話題にしてもらい、意見、要望等を議会や行政に寄せていただくことにしている。このモニターの皆さんに集まってもらい、議員定数や報酬についての意見交換会が開催できたらいいと思っている。

住民参加の4つのポイント
①政策サポーター制度
②議会を「見える化」
③住民と議会との懇談会
④「議会だより」モニター制度

(4)議員のなり手不足の問題は深刻、解決への努力
 議員のなり手不足は特に農村部の町村議会にとって深刻な問題であり、共通の悩みでもある。議員定数や報酬の削減が、議会議員への立候補をしにくくしている要因のひとつである。若い世代が積極的に立候補し、町村の行政や議会活動に参加する意欲を引き出せる環境整備が必要である。飯綱町議会では、「議員定数・報酬等調査研究特別委員会」で検討中である。
 町行政と議会がしのぎを削る姿が議会への関心を高め、議員になってみようと思う人を増やすのではないだろうか。そうあってほしい。

(5)議会事務局は議会改革と議員活動支援の要
 議会改革が進み、議会と議員の活動の量と質が変わってくると、議会事務局長や職員の役割や責任も重くなり、機能も拡大の方向に転換するのは当然である。飯綱町議会では、2010年4月から2012年3月の2年間、経験豊かで調査研究能力の高い職員に議会事務局長を務めていただいた(退職まで)。それまでの「事務機能だけに特化させる事務局」に比べても、その活動は飛躍的に前進した。とりわけ、議員の監視機能と政策立案能力の向上に結びつく調査、研究を旺盛に展開し、議会改革に大きく寄与した。

人口減少時代の集落の
新しい問題解決のために

 人口減少・少子高齢化社会が到来し、集落でも新しい問題を抱えることとなり、行政の重要課題となっている。飯綱町には、50集落がある。集落は住民の社会生活の基礎単位として、また、住民自治や町行政の単位としても重要な役割を果たしてきた。
 2013年6月から「集落機能の強化と行政との協働」をテーマに前述の住民からなる政策サポーターとともに政策研究を進め、2014年6月に政策提言書を町長に提出。9月議会では議員提案の「集落振興支援基本条例」を議決した。
 「集落振興支援基本条例」は、全11条からなっており、住民に分かりやすく伝えるために逐条解説書も作成した。準備過程では、町長とも協議、区長・組長会の役員の方々とも意見交換を行い、議案提案に至った。この条例の制定を思い至った動機は、町行政にとっての集落問題を条例上明確にすること、また、町長・議員は選挙で交代するが、誰が町長・議員になろうと、10年、20年かかっても、計画的、持続的に取り組む必要がある、ということだった。
 提案した議会の責任と役割も一層重大となっている。議員自身が政策提案と基本条例の実践による集落の再生に向け、全力を挙げねばならない。
 今後、行政と議会は、これらを力に、飯綱町の集落問題に本格的に取り組んでいく。

◎飯綱町議会の議会改革への主な取組経過
◎飯綱町集落振興支援基本条例

議会のプロファイル

議会名 飯綱町議会(長野県)
定 数 15人(平均年齢:65.2歳、男女比4:1)
会 期 定例会:年4回(3月、6月、9月、12月)
※過去に、中学生議会、休日議会、夜間議会を開催
人 口 2005年国勢調査 12,504人
2010年国勢調査 11,865人(増減率△5.1%)
産業構造 2010年国勢調査
1次産業 1,717人
2次産業 1,549人
3次産業 3,478人
標準財政規模 2014年度当初予算 62億4,600万円
連絡先 〒389-1293 長野県上水内郡飯綱町牟礼2795-1
飯綱町議会事務局
電話:026-253-4761
FAX:026-217-5121
メール:gikai@town.iizuna.nagano.jp
HP:http://www.town.iizuna.nagano.jp/

寺島渉(飯綱町議会議長)

この記事の著者

寺島渉(飯綱町議会議長)

飯綱町議会議長 1949年生まれ。立命館大学法学部卒業。旧牟礼村議会議員(4期)、飯綱町議会議員(3期)。議会運営委員長、監査委員等を歴任。2009年10月から議長。

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